日本製鉄の副会長が、USスチールの買収に関してアメリカ政府と協議を行った。バイデン政権が買収を阻止する動きを見せる中、理解を求めたとみられる。専門家は、日本製鉄の狙いが中国リスクを回避し、アメリカ市場での拡大にあると指摘している。
日本製鉄「建設的な対話を継続し、誠実かつ粘り強く取り組んできた」
USスチールの買収に向け、日本製鉄の副会長がアメリカ政府と協議を行った。
この記事の画像(11枚)関係者によると、日本製鉄の森高弘副会長は、アメリカ・ワシントンで、アメリカ政府の対米外国投資委員会の関係者と面会した。
面会はアメリカ側の要請によるものだということで、バイデン政権による買収阻止報道が出るなか、アメリカ政府に理解を求めたとみられる。
また、日本製鉄とUSスチールは、買収に反対している全米鉄鋼労働組合との交渉の経緯などを公表した。
買収計画発表当日に、「労働協約を尊重する」との考えや、面会する意向を伝えたことなどが盛り込まれている。
日本製鉄は「建設的な対話を継続し、誠実かつ粘り強く取り組んできた」とコメントし、買収計画への理解を求めている。
中国リスク回避・米国拠点の確保が焦点
「Live News α」では、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに話を聞いた。
堤礼実キャスター:
USスチールへの買収提案に対し、日本製鉄には、どういった狙いがあるのでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
グローバルの市場で競合する、中国の製鉄メーカーへの対抗策のようにもみえます。
1970年代に、日本の鉄鋼生産量は急増し、世界最大の輸出国になりましたが、アメリカとの貿易摩擦などを経て、鉄鋼輸出を制限せざるを得ない状況になりました。
それが、2000年代に入り、中国の旺盛な需要に助けられる形で、生産量を回復させることができました。しかし今、その中国が日本の製鉄メーカーにとって、悩ましいものになっているようです。
堤キャスター:
悩ましいとは、どういうことなのでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
近年では、中国国内の景気低迷によって、日本メーカーの中国ビジネスは減少傾向にあります。さらには、中国で過剰に生産された粗鋼がアジア諸国に流れ始めており、市況が悪化しています。
そこで、アジア以外に大きなマーケットを確保したいというのが、日本製鉄の狙いと考えられています。
堤キャスター:
ただ、買収は難航しているようですが、これについては、いかがでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
アメリカ政府などは、日本製鉄による買収によって、生産拠点がインドなどに移転してしまうのではないかと、アメリカ国内で鉄鋼産業の縮小につながることを懸念しています。
これに対して日本製鉄はむしろ、米国内の鉄鋼生産への投資を表明しています。中国リスクの高いアジア市場とは切り離された、アメリカ市場の成長を取り込むため、現地で生産拠点を確保したいようです。
日米パートナシップで競争力強化へ
堤キャスター:
日本とアメリカの製鉄メーカーが一緒になることに、どういったメリットがあるのでしょうか。
早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
日本製鉄は、自動車産業向けの高品質な鉄鋼を供給する高い技術力を持っています。一方で、USスチールも高効率な生産設備などの利点を有しています。
今、EVを巡って、日米と中国の競争が激しくなる中で、日本とアメリカは同じサイドにいます。
アメリカも、日本を警戒するよりも、より大きな脅威に対して、日本とのパートナーシップの中で、競争力を強化する方向に舵を切るべきではないでしょうか。
堤キャスター:
日本とアメリカ、それぞれの企業や国民にとっての利益をしっかりと考え、買収提案が公正に審査されることを期待したいです。
(「Live News α」9月12日放送分より)