長崎県内21の酒造会社が集結し、新たな酒の楽しみ方を提案する飲食店向けの商談会がこのほど長崎市で開かれた。国内観光客だけでなく、海外での日本酒ブームの波に乗り、外国人観光客を取り込み、長崎県産酒の地元シェア拡大を狙う。長崎県では味覚センサーを駆使して、県産酒のおいしさを「見える化」する取り組みも行われている。
日本酒ブームが世界を席巻中
和食がユネスコ世界無形文化遺産に登録されて以来、日本酒の人気が世界中で急上昇している。日本酒造組合中央会の発表によると、2018年度までの9年間で日本酒の輸出額は約3倍に増加し、200億円を突破した。訪日外国人の8割が日本滞在中に日本酒を楽しんでいるという事実からも、その人気ぶりがうかがえる。
日本酒の魅力は、その多様な味わいとどんな料理にも合う点にある。特に和食との相性は抜群で、海外でもその評価が高まっている。この世界的な日本酒ブームに乗って、長崎県も県産酒の魅力を世界に発信しようと、ユニークな取り組みを始めている。
【長崎発】新たな酒の楽しみ方
長崎県では、県産酒の魅力を引き立てるために、県内の酒造会社などが協力して新たな楽しみ方を提案している。その中心となったのが、「さけくらべ長崎」というイベントだ。
この記事の画像(8枚)2024年9月4日に長崎市で開催された「さけくらべ長崎」では、県内の21の酒造メーカーが参加し、飲食店向けの商談会が行われた。日本酒・焼酎・クラフトビール・ワイン・どぶろくと113の銘柄が揃い、来場者は、お酒と合う料理を楽しみながら、新たな飲み方を提案された。
例えば、麦焼酎で作るソルティ・ドッグや、甘口のお酒を注いだバニラアイスなど、ユニークな組み合わせが紹介された。
最近では「炭酸割り」が人気だが、この日の商談会では「にごり酒」に「炭酸」を、6(酒):4(炭酸)の割合で飲む「にごり酒のハイボール」が提案された。
「県外の観光客が店に来て地元のお酒はないですかと言われることが多い」と、ある居酒屋経営者は語る。この言葉からも、県産酒の地元でのシェア拡大が課題となっていることがわかる。酒造会社などは今回の商談会の実績をもとに、今後も県産酒の販路拡大を図る予定だ。
世界初!?味覚センサーでおいしさを「見える化」
長崎県の取り組みで特筆すべきは、味覚センサーを活用して県産酒のおいしさを「見える化」している点だ。
この味覚センサーは、九州大学と(株)インテリジェントセンサーテクノロジーが共同開発した世界初の味覚を測定するセンサーで、「おいしさ」をつくる味覚(うま味、苦味、塩味、酸味、甘味、渋味)を数値化し、客観的に表現することが可能となり、人間の舌に近い味覚数値を得ることができるという。
長崎県では県内26の酒造メーカーの県産酒を分析し、全国の日本酒・焼酎と比較し、どのような特徴があるのか「テイストマップ」を作成した。その分析によると、長崎県の日本酒は「全体的に酸味が控えめで深み、うま味、濃厚さが強い芳醇な味わいが特徴」としている。焼酎は「全体的に酸味が控えめで深みがある濃厚な味わいが特徴」だとしている。
この分析結果をもとに、県産酒との相性がいい長崎の魚料理の組み合わせを提案するペアリングシートも作成され、飲食店のメニュー表などに活用されている。県民や観光客に長崎のお酒と魚を手軽に楽しんでもらうことを目的としている。
長崎県産酒の地元シェアは2割以下
こうした行政と民間一体となった取り組みの背景には、県産酒の消費低迷がある。日本酒の海外需要が盛り上がりを見せる一方で、国内での需要低下に歯止めがかからない状況が続いている。2021年度の国税庁の統計によると、長崎県産酒の地元シェアは日本酒・焼酎ともに2割を下回っている。
「長崎で長崎の地酒を飲む」ことが定着していないとも言える。その理由として、県の担当者は「長崎市の中心部に酒蔵がないことで中心部の飲食店に県産酒の魅力が伝わっていないのでは」と話す。こうした課題に対して、長崎県の酒造業界は「伝統を重んじながらも、形にとらわれない自由な楽しみ方」を提案することで、新たな飲み手の創出を目指している。まずはその魅力を地元の飲食店が再発見し、その特色を最大限に生かしながら広く発信することで、県産酒の需要拡大への一歩となりそうだ。
自然と歴史が育んだ独特の食文化を持つ長崎には農産物・海産物・そして名酒がある。
新型コロナウイルスによる行動制限の解除を受けて、県内には海外からのクルーズ船の入港が増え、多くの外国人観光客が戻ってきている。今後、国内のみならず外国人観光客へ長崎の酒をどう売り込めるかもカギとなりそうだ。
(テレビ長崎)