岸田首相が14日、9月の自民党総裁選に出馬しない意向を明らかにする退陣表明を行った。自民党が次の衆院選を岸田首相以外の党首で戦うことが固まったわけで、これにより立憲民主党は、9月の代表選挙で、自民党の新総裁とわたりあい衆院選で勝利できる人物を選ぶ必要性に迫られることになった。

電撃的に退陣を表明した 8月14日
電撃的に退陣を表明した 8月14日
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泉代表は岸田首相の退陣表明を受けて、「首相が辞めたとしても自民党の体質が変わったわけではない」と指摘した上で、「党が危機になると首相・総裁を代えて、心機一転、過去を忘れてもらうという手法に国民が引っかかってはいけない」と批判した。そして立憲の代表選について「立憲民主党に政権担当能力が十分にあることを示していく戦いになると思う」と述べた。しかし、その代表選の行方は混沌としている。

真っ先に手を挙げた枝野氏

立憲の代表選は、8月7日の両院議員総会で、9月7日に告示、23日に投開票という日程が決まり、次期代表レースが事実上スタートした。いち早く手を挙げたのは枝野幸男前代表だ。

「与野党を超えて、これから10年、20年それ以上にわたる政治の大きな方針と、それを実現するリーダーシップを国民の前で競い合う9月にしなければならない。私なりの選択肢を示し、広く国民の皆さん、直接的には党員・サポーターの皆さんに問いたいとの思いから出馬を決意した」

真っ先に立候補を表明
真っ先に立候補を表明

代表選の日程が決まった2日後の9日、枝野氏は記者団の取材に対し、同じ時期に実施される自民党総裁選に言及した上で、このように述べ、自らが立候補する意向を表明。政治の現状について、「今、日本は政治の新しいステージへと進んでいかなければならない大きな分岐点にある。足踏みを続けて社会と経済の変化に取り残された政治を時代に合わせてアップデートすることが急がれる」と指摘。

その上で、「大きな時代状況、時代認識の中で逃げることなく、その転換の先頭に立ち、次の世代がその力を最大限に発揮できるようバトンを引き継ぐ。それが私に課せられた使命であると考えるに至った」と語った。

「敗軍の将なのになぜ」の声も…

枝野氏は2017年の衆院選で旧民進党の分裂に伴い、旧立憲民主党を結成。しかしその後、3年前の2021年の衆院選では敗北し、責任を取って代表を辞任。今回の枝野氏の立候補について、党内からは「前の選挙で辞めた敗軍の将なのになぜ次の選挙でも代表として戦おうとしているのか、意味がわからない」といった厳しい意見や、「枝野氏が代表になれば日本維新の会や国民民主党と連携するのは難しくなる」などの懸念の声も出ている。

2018年7月に党代表として国会で演説
2018年7月に党代表として国会で演説

枝野氏も立候補表明の際に、「このタイミングで出るのが私にとってもよくないのではないかということを言っていただく方は何人かいたのは間違いない。そうしたご意見も一考に値するし、私自身も躊躇する思いがなかったと言えば、それは嘘になる」と明らかにした。その上で、「そうした後ろ向き、内向きの議論以上に、今誰が先頭に立つことがより日本のためにふさわしいのかということを選んでいただきたい」と強調した。

FNNの取材で、枝野氏は7月前半に国会内で、野田佳彦元首相と会談していたことが判明した。会談では、代表選をめぐって意見交換したものとみられる。党内からは、枝野氏が早い段階から代表選の立候補に向けて動いていたとの指摘もあり、今回の意気込みは相当なものだと感じられる。

泉氏は国民民主との連携に活路

一方、現職の泉代表も再選に向けて準備を進めている。枝野氏が立候補を表明した9日、泉氏は記者団の取材に応じ、枝野氏について、「結党された方だから、思いは人一倍強いものはあると考える。(旧民主党政権で)官房長官を担い、経験も豊富な方だ」と評価。一方で、「党をここまで回復させてきたのは、自分自身でも本当に良かった」と述べ、この3年間の自らの代表としての実績を強調。

党代表としての実績をアピールするが…
党代表としての実績をアピールするが…

そして、「国民民主党との連携が非常に大事で、繊細かつ丁寧なやり取りが求められる。玉木代表と非常によい関係を保ってきている」と述べ、野党連携を進める上での、枝野氏に比べての優位性もアピールしてみせたのである。

玉木代表との“良好な関係”がアピールポイント
玉木代表との“良好な関係”がアピールポイント

泉氏はその玉木氏と7月22日、立憲と国民民主を支援する労働組合の中央組織「連合」の芳野会長も交えて会談。そして翌23日に日本維新の会の馬場代表、25日には社民党の福島党首のほか、6月にも教育無償化を実現する会の前原代表と会談するなど、次の衆院選や選挙後の連携構築に向けて活発な動きを見せている。

維新の馬場代表ら野党各党と次々に会談
維新の馬場代表ら野党各党と次々に会談

さらに、FNNの取材では、8月8日と9日の両日にわたって、平和祈念式典のため訪問した長崎市内で、玉木・芳野両氏と代表選挙に向けて意見交換したことが判明。泉氏は代表選でも自らが代表になれば国民民主との連携が進められると訴えていくものとみられる。

泉氏に立ちふさがる「推薦人20人」の壁

しかし、その泉氏は依然として立候補の表明には至っていない。代表選挙の日程が決まった当日、泉氏は野田氏のほか、リベラル系で党内最大グループの「サンクチュアリ」の会長を務める近藤昭一衆院議員らと会談するも立候補の意向は示さず、2日後の9日の取材の際にも「現時点で何か変わったことはない」と述べ、自らの出馬を明言しなかったのである。

泉氏がなかなか立候補の表明に踏み切れない背景には「推薦人20人」という高い壁がある。自民党は衆参両院で合わせて約370人の国会議員が所属。これに対し、立憲は衆参両院で約140人と、その半分以下である。それにもかかわらず、自民党の総裁選挙と同じ20人の推薦人が必要なのである。20人の推薦人については「サンクチュアリ」以外はどのグループも単独では集められないのが現状だ。

この条件の厳しさを指摘する声は党内でもあがっている。立候補に期待する声が出ている小川淳也前政調会長は11日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に出演。小川氏は、自らの立候補の可能性を問われると、「こういう時に腰を引けては駄目だ。しかし、前のめりになり過ぎてもよいことは何もない。落ち着いた姿勢、態度も若手だからこそ求められることもある」と述べる一方で、20人の推薦人確保について「容易ではないことはよく自覚している」と本音を吐露した。

枝野氏は「推薦人20人」の壁を越えられそう
枝野氏は「推薦人20人」の壁を越えられそう

今回、枝野氏がいち早く立候補を表明できた背景には、推薦人20人という壁をクリアできる自信があるからに他ならない。枝野氏は「サンクチュアリ」の顧問を務め、一定程度の議員からの支持は計算できる。枝野氏も立候補表明の際に、「20人以上の方に推薦をいただけるだろうということを期待できる状況だ」と自信をのぞかせている。

推薦人20人集められるのか…
推薦人20人集められるのか…

一方で、泉氏は必ずしも党内の支持基盤が盤石ではないとされる。泉氏を支えるグループ「新政権研究会」の所属議員が20人を満たしていないことに加え、他のグループからの支持も取りつけられていないとの見方が出ている。

前回の2021年の代表選では、泉氏は小沢一郎議員とそのグループなどの支援を受けて勝利。しかし、選挙後の党役員人事では小沢氏らを冷遇し、その亀裂は修復されてはいない。今では小沢氏は代表選挙で泉氏に代わる候補者の擁立を目指すなど、「泉体制打倒」の急先鋒となっている。

小沢氏は野田元首相と短期間に会談重ねる

その小沢氏が念頭に置いている候補者は野田元首相だとみられる。それが明確になったのは8月6日に開かれた小沢氏が率いるグループ「一清会」の会合の後だ。会合では、代表選挙での対応について小沢氏に一任することを決定。その後、小沢氏は記者団の取材に対し、これまでに野田氏など6人の議員と会談したことを明らかにした上で、支持する候補はその6人から「選ぶしかない」と述べたのである。

小沢氏の意中の人は…
小沢氏の意中の人は…

小沢氏は7月19日、東京都内の日本料理店で、約2時間にわたって野田氏と会談。約8年ぶりの会談では、次の衆院選での政権交代の実現に向けて一致結束することを確認すると共に、代表選についても意見を交わした。そしてわずか12日後の31日、2回目の会談を行い、代表選の対応についてお盆明けには方向性を決める方針で一致。さらに、お盆中の8月13日にも少なくとも3回目となる会談に及んだ。会談は10分足らずのごく短時間に終わったが、ある関係者は「回数を重ねているのはそれだけ関係が緊密になっているということだろう」と見ている。

現時点では、立候補に期待する声が出ている野田氏も慎重な姿勢を崩していない。ただ、仮に立候補した場合には、野田・小沢両氏のそれぞれのグループのほか、重徳和彦衆院議員が会長を務める若手・中堅グループ「直諫の会」なども支持に回る可能性が指摘されている。そして、その一部が、泉氏が推薦人として期待する議員と重複するのである。

推薦人が重複する可能性がある2人
推薦人が重複する可能性がある2人

ある関係者はFNNの取材に対し、「泉氏が推薦人20人を集められるかどうかは不透明だ。仮に野田氏が立候補した場合には立候補できない可能性もある。そのため表明できずにいるのではないか」との見方を示す。また、別の関係者は「泉氏の立候補表明は告示の数日前になるだろう」と話す。

自民党派閥の裏金事件などを受け、世論調査では、次の衆院選後の政権について、自公政権の継続よりも野党による政権交代を求める声が上回っている。そうした中、次の衆院選での政権交代を目指す立憲では、代表選に向けた駆け引きが活発化している。野田・小沢両氏の間でどのような方針が決まるか、そして岸田首相退陣による今後の影響に注目が集まりそうだ。

(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局