カマラ・ハリス名義の「第三次オバマ政権」ということになるのだろうか?
米国のマスコミは7月30日、バイデン大統領の顧問の一人がホワイトハウスを去るというニュースを一斉に伝えた。ニューヨーク・タイムズ紙やABCニュースなど民主党寄りのメディアだけでなく、ニューヨーク・ポスト紙やFOXニュースなど共和党支持の新聞やテレビも例外なく、それも単なる人事記事ではなくその背景までを解説するもので、ワシントン・ポスト紙の場合なら1000語を超える大記事で伝えた。
つまり、この顧問は「知る人ぞ知る」ホワイトハウスの実力者で、その人の去就は政権の行方を左右する大ニュースだったのだ。
ホワイトハウスを退任、ハリス氏の選挙運動指導へ
その人物こそホワイトハウスのコミュニケーション担当上級顧問だったアニタ・ダンさんで、ホワイトハウスを退任後直ちにカマラ・ハリス副大統領のスーパーPAC(特別政治活動委員会)に加わって選挙運動を指導する。
この記事の画像(4枚)実は、ダンさんはこれまでも3回大統領選に関わって、いずれも候補者を当選させている。
その1回目は2008年の大統領選挙で、ダンさんはオバマ候補(当時)の政治活動委員会の広報と選挙戦略の責任者として活動して、米国史上初の黒人大統領の誕生に寄与し、2012年にもオバマ大統領の再選を実現させた。
さらに2020年には、バイデン候補(当時)が当初民主党の予備選挙で低迷していた時にオバマ前大統領に請われてバイデン陣営に参加すると形勢を逆転させ、バイデン氏を当選させた。いわば「当選請負人」のような経歴だが、彼女の実力は選挙だけではない。
“バイデン名義の第二次オバマ政権”の中核的存在
ダンさんは、オバマ政権ではホワイトハウスのコミュニケーション部長から大統領上級顧問を務めて、実質的な政策立案やその遂行に辣腕を振るったと言われる。2020年にバイデン政権が樹立すると、ダンさんとその配下のチームがそのまま移動して政権を仕切った。
「オバマ氏とバイデン氏の間では、当選後はバイデン夫妻は穏健派の見栄を張る役割だけを果たすという『悪魔の取引』があったと噂された。現実に夫妻は、大統領の儀礼的な役割を享受する一方で、実際の業務はオバマ前大統領の高官やコンサルタント、アドバイザーに委託したのだ」
保守系のニュースサイト「タウンホール」に2024年7月26日に掲載された「クーデターに次ぐクーデターに次ぐクーデター」という表題の記事の一節だ。
記事は、オバマ元大統領が今もって民主党内に隠然たる影響力を保ち、自らが好ましい大統領を選出させてその政権運営も配下が取り仕切るというものだった。言ってみれば、バイデン政権は「ジョー・バイデン名義の第二次オバマ政権」で、ダンさんはその「配下」の中核的存在だったと言うことだが、その任務はまだ他にもあったようだ。
「バイデンはあまりにも長い間、アニタ・ダンとその夫に騙されてきた。彼らは去るべきだ...今日にも。 被害が酷すぎる。政治的不正行為だ」
バイデン大統領への最大の献金者の一人で、バイデン家とも近い投資家のジョン・モーガン氏は7月1日、X(旧ツイッター)に投稿した。
Biden has for too long been fooled by the value of Anita Dunn and her husband. They need to go… TODAY
— John Morgan (@JohnMorganESQ) June 30, 2024
The grifting is gross. It was political malpractice.
Cc/ @JoeNBC @maggieNYT @Messina2012 @katierogers
6月27日に行われた大統領選挙のテレビ討論でバイデン大統領が失態を演じ、大統領選から撤退を余儀なくされたのはダンさんらの責任だと非難しているのだが、あながち部下への責任転嫁とも言えないようだ。
そのテレビ討論の10日前、英国の大衆紙デイリー・メール電子版は、この討論でバイデン大統領が失敗すればオバマ元大統領など民主党のリベラル派幹部が一致団結してバイデン大統領を見捨てるという民主党関係者の話を伝えていた。
事実はその通りに推移し「タウンホール」が言う党内クーデターが成功したわけだが、オバマ元大統領の側近でバイデン大統領のごく身近に居たダンさんがクーデターへの関与を疑われるのは避けられない。
そのダンさん、今度はカマラ・ハリス陣営に加わることになったが、その結果、同副大統領は「スカートを履いたオバマ」になったとFOXニュースの番組で揶揄された。
これで本来の「オバマ政権」、次いでジョー・バイデン名義の「第二次オバマ政権」そしてカマラ・ハリス名義の「第三次オバマ政権」が誕生する運びになるはずだが、その成功はひとえにダンさんらの手腕が問われていると言えるだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】