約半世紀前、鹿児島市に初めて登場した本格的大型スーパー、イオン鹿児島鴨池店が2024年8月末、その歴史に幕を下ろすことになった。跡地をイオングループが再開発することは決まっているが、買い物だけでなくアミューズメントの拠点としても多くの県民に親しまれた施設の閉店を惜しむ声も少なくない。

施設が老朽化 49年の歴史に幕

鹿児島市鴨池2丁目、鹿児島市電・郡元電停前にあるイオン鹿児島鴨池店は、かつて鴨池動物園があった場所に1975年、「ダイエー鹿児島ショッパーズプラザ」としてオープンした。

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1970年代初頭に三越を抜き小売業売り上げ1位に躍り出たダイエー。1973年の第一次オイルショックで節約ムードが続く中、鹿児島に初登場した大型スーパーだった。オープン初日は雨にも関わらず長蛇の列ができ、この日訪れたのは、なんと延べ8万人にのぼった。
2階まで吹き抜けになっている1階のエスカレーター前のスペースでは数々のイベントが開かれてきた。高齢者に歌や踊りを楽しんでもらおうというイベントだったり、水着のファッションショーだったり。

1999年には、プロ野球・当時の福岡ダイエーホークスの日本一を祝したセールでにぎわった。応援に感謝して「サンキュー」の39円セールが行われ、王貞治監督の背番号にちなんだ「89円セール」などが人気を集めた。

2015年9月、「イオン鹿児島鴨池店」として生まれ変わったが2024年、施設の老朽化を理由に8月いっぱいでの閉店が発表された。

利用客からは「(閉店は)本当に困ります」「ちょっと寂しい感じもします」との声が多く聞かれた。中には「キャラクターショーとか。当時は大きなお店も少なかったし、親がどこかに出かけるときによく連れて行ってもらった記憶があります」と話す男性や、「昔はよく来ていた。同級生と待ち合わせしたり、ここで何年かぶりに会ったり、楽しい時間を過ごしました」という女性も。単に買い物にとどまらず、出会いの場、身近なアミューズメントの空間でもあったのだ。

生活にも影響「どこに行こう?」

地元の鴨池町内会会長で、75年にわたってこの地域に住む大重幸一さんは、オープン当時について「ダイエーに行けば何でもあるよと。一通り、食べるものからそろうということで、(当時は)強いインパクトがあった」と振り返る。

地域の悩みについて語る、地元町内会会長の大重幸一さん
地域の悩みについて語る、地元町内会会長の大重幸一さん

その大重さん、「(鴨池町内会は)75歳以上が約270人ちょっと。どこに(買い物に)行こうかという声を聞きますね。不便だという声を聞いています」と閉店に伴う地域の悩みを打ち明けた。

イオン周辺のスーパーまでは1km近くの距離がある
イオン周辺のスーパーまでは1km近くの距離がある

イオン鹿児島鴨池店の周辺はマンションや住宅が多い。近くにコンビニはあるが、イオン以外のスーパーは1km近く離れている。交通量も多く、車のない人や高齢者にとっては生活が大きく変わることも考えられる。

鹿児島の経済に詳しい九州経済研究所・福留一郎経済調査部長は「『買い物弱者』というと過疎地をイメージしがちだが、(イオン鹿児島鴨池店の閉店で)街中でも買い物弱者が生まれかねないのと、夜遅くまで営業しているので仕事帰りの共働きの方も利用していて、ちょっと不便になるのではないか」と懸念する。その上で福留氏は「施設の老朽化」について、「築50年近くになると施設の維持・更新も、最近は資材がそろわないという事情もあるし、耐震のためのリニューアルなどお金もかかったりするので、老朽化は大きな問題」とした。

跡地は何に?コンセプトは…

跡地は何に活用されるのか。イオン九州では建物を解体後、イオングループが商業施設や複合型施設などを視野に再開発するとしている。具体的には未定ということだが、「イオングループ」の施設ができるということは決まっている。福留氏は「(再開発するのは)それだけ採算が取れる見込みがあるということだと思う」とみる。

イオン九州は、今、商業施設に求められていることをどうとらえているのか。イオン九州によると、「地域のお客様が集まる、モノだけではなく、コトも楽しめる空間としての施設」ということだ。

実は全国のイオンの中にも鴨池店と同様に一度閉店し、生まれ変わった店舗がある。その一つが大分の「イオン湯布院店」だ。2023年5月に閉店した「マックスバリュ湯布院」から2024年3月にリニューアルオープンした。日本を代表する温泉地の一つ、湯布院に立地する同店のコンセプトは「湯布院で生きる 湯布院と共生する まいにちサイズのコンパクトなイオン」。地元客はもちろん、観光客も意識した店になった。

「鹿児島ならではのコンセプトを」と語る福留一郎氏
「鹿児島ならではのコンセプトを」と語る福留一郎氏

福留氏はこの店舗について「地域の住民にも、国内外から訪れる観光客にも支持されないといけないということで、湯布院としては地域にあった形になっている」と評価する。そして、「鹿児島も、地域に合った鹿児島ならではのコンセプトを考えていかなければいけないのでは」と提言した。具体的には「おもてなし」だという。「鹿児島の人のもてなしに感動したという人(観光客)もいるし、住民にとって便利で、ここに行けば何でもそろうということも大事だから、そういったところを兼ね備えたところがよいのではないか」との見解を示した。

鹿児島県内の商業施設の今

ここ数年、鹿児島市では、鹿児島中央駅前や天文館にマンションや商業施設、飲食店、ホテルなどを備えた複合施設が次々に誕生した。

そして新たに、鹿児島中央駅と天文館の間にある加治屋町にマンションや商業施設が一体となった26階建て複合施設の建設計画も発表された。その一方で、老舗百貨店の山形屋は約360億円の負債を抱え、経営再建に着手している。

高度成長時代に隆盛を極めた百貨店。その後に台頭した大型・安売りスーパー、そしてコンビニやファストファッションなどの専門店の出現にネット通販の拡大と、時代とともに変化を続ける商業の形。人口減少とともにパイが減少する中、福留氏は「これからは強いものが勝つのではなく、変化に対応し時代に合ったものが勝つのではないか」と予測する。

約半世紀の歴史に幕を下ろすイオン鹿児島鴨池店。時代の変化に応じてどんな風に生まれ変わり、鹿児島の経済をどのように活性化させていくのか、注目していきたい。

(鹿児島テレビ)

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