米大統領選挙の民主党の候補者として実質的に選ばれたカマラ・ハリス副大統領は、上院議員時代「最も左翼的な民主党議員」と判定されたことがあり、今後選挙戦でトランプ陣営の攻撃を受けることは避けられないようだ。
リベラルな思想色濃く…ハリス氏は“最も左翼的”
米国のGovTrackという政治調査組織は、議員たちの立法や投票行動からそのイデオロギーを分析し順位付けをしているが、ハリス副大統領が上院議員最後の第116議会(2019年1月3日~2021年1月3日)についても100人の上院議員の思想を「右翼的」かどうかという基準で判定していた。

それによると、最も「右翼的」とされたのはテネシー州選出のマーシャ・ブラックバーン議員で、妊娠中絶や気候変動説を容認しない議会活動から判定された。
以下、共和党議員から民主党議員へと名前が続くが、99番目に「カマラ・ハリス」という名前がある。ちなみに100番目は、自らを「民主社会主義者」と公言するバーモント州選出で無所属のバーニー・サンダース議員で、ハリス氏は「民主党の上院議員で最も右翼的ではない、つまりは最も左翼的」と判定されたのだ。
その根拠としてGovTrackは、ハリス氏が共同提出した法案や決議案のパターンと他の議員のそれとの相違を比較して、「上院民主党議員の中で最も左翼的と評価した」と結論づけている。

実際にハリス議員の上院での活動を再検証すると、
▲大麻合法化法案に賛成
▲妊娠中絶を制限する州に対して緩和策を司法省に提出するよう要求
▲売春の合法化
▲死刑の廃止
▲射殺事件の被害者が銃メーカーの責任を追求できる
▲重罪犯の社会復帰を支援する計画を提案
など、いわゆる「リベラル」な思想が色濃く現れている。
「トランプ陣営は“ウィリー・ホートン”を計画」
これに対してトランプ氏の共和党が「社会主義者の大統領を選ぶのか」と反対のキャンペーンを繰り広げることは容易に想像できるが、それで選挙戦を大逆転させた前例もあるのだ。
1988年の大統領選挙は、前半、民主党のマイケル・デュカキス前マサチューセッツ州知事がジョージ・H・W・ブッシュ副大統領を支持率で大差をつけてリードしていた。ところが選挙戦本番が始まる9月になると形勢は逆転して、ブッシュ氏が勝利してしまった。

この大逆転を産んだのは、たった1本のブッシュ側のテレビCMだった。
「デュカキスは死刑に反対するだけでなく、第一級殺人犯に週末に刑務所を出所できるパスを与える」
こうナレーションが終わると、画面に黒人の顔が現れる。そして、次のように続く。
「その一人がこのウィリー・ホートンで、強盗事件で少年を19回刺して殺害し終身刑になりましたが、週末に刑務所を出るパスを10回もらいました。ホートンは逃げ出して若い二人連れを襲って男性を刺し、女性を何回もレイプしました。刑務所出所のパスがデュカキスの犯罪対策なのです」
このCMは全米で繰り返し放送され、これがリベラルな前マサチューセッツ州知事の命取りになったと考えられている。
「トランプ陣営はカマラ・ハリスに対して“ウィリー・ホートン”を計画している」
米国の保守派ながら反トランプのニュースサイト「ザ・ブルワーク」は23日、表題の記事を掲載した。
"Trump confidants and advisers are bracing for the candidate to ratchet up the rhetoric beyond what the campaign had planned and move from defensible criticisms of Harris’s record into open racial animus."
— The Bulwark (@BulwarkOnline) July 23, 2024
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記事は「ドナルド・トランプの選挙キャンペーンは、カマラ・ハリス副大統領への本格的な電撃攻撃を準備している」とした上で、その標的を次のように挙げている。
「今後数週間でトランプ陣営は、ハリスが大統領候補だった2020年のジョージ・フロイド抗議デモの際に支援したミネソタ州の保釈基金、サンフランシスコ警察の巡査を殺害した男に対する死刑求刑を2004年に拒否したこと、そして2007年に彼女の地方検事局が残忍な暴行事件を起こした男に執行猶予を与える決定を下したことに焦点を当てる予定であることを示唆している」
いずれも、ハリス氏の犯罪者の救援や死刑反対の考えを反映したものだが、トランプ陣営の助言者の一人は「いずれもウィリー・ホートンのようだ」と「ザ・ブルワーク」に語っている。

バイデン大統領が大統領選を撤退し、とりあえずはカマラ・ハリスブームが沸き起こっているようだが、今後、デュカキス候補を潰したテレビCMのようなメッセージがテレビだけでなくSNSなどのメディアに氾濫すると、民主党は1988年の二の舞を演じることになりかねない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】