分断から融和へ?
どちらが勝っても大変だと揶揄されてきた米大統領選挙の「老老対決」だが、ドナルド・トランプ前大統領が間一髪で暗殺から逃れて、一転盛り上がってきた。
この記事の画像(14枚)ペンシルベニア州バトラーの暗殺未遂現場では拳を突き上げて「ファイト!ファイト!」と連呼し、強さをアピールしたトランプ氏だが、ウイスコンシン州ミルウオーキーで行われた共和党大会では終始静かに振る舞い、指名を受けた。受諾演説では米国民の団結を訴えた。
メディアではこれを機に「分断から融和、結束、協調へ」といった論調が目立つが、ことはそれほど単純な話ではない。
そもそも暗殺未遂事件の前に勝負はほぼついていたのではないか。現職のジョー・バイデン大統領は6月27日に行われた候補者討論会で言い間違いを繰り返し、米メディアの判定は「トランプに惨敗」というものだった。
バイデンは撤退か?
バイデン氏はイタリアでのG7サミットでもそうだったが、時々「自分は今どこにいて何をしているのかわからない」ように見える。しっかりしている時もあるがかなり浮き沈みがある。これは筆者も含めて高齢の親を介護した人にはわかると思うのだが、責任ある仕事を長く続けるのは難しい。
米紙ワシントン・ポストは18日、ペロシ元下院議長が複数の議員に、バイデン氏が近く大統領選からの撤退に応じる可能性があるとの見解を示したと報じた。
ただ候補者を差し替えても時すでに遅し。民主党がトランプ氏に勝つのは難しいだろう。米国民にはたぶんトランプ氏という選択しかない。
前回の選挙結果をいまだに受け入れていないような人を大統領にしなければいけないというのはなかなか絶望的な状況だ。また国際社会にとっても対ウクライナ政策あるいは通商政策だけ考えても混乱が待っていることは明らかだ。つまり「分断」は続いており、融和などとんでもないということではないか。
それでも米国人の半数がトランプ氏を支持しているのは、バイデン政権の移民やLGBTなど「行きすぎた人権政策」に対する保守派の不満とともに、インフレを抑えることができず格差がさらに大きくなったということがあるからだろう。欧州でも同じようなことが起きていて、いずれ日本にも波及するのではないか。
数センチ差で助かった大統領候補
そしてそれよりも深刻なのはまもなく大統領になるであろう人がわずか数センチの差で危うく殺されかけたという事実だ。
当日の映像を見ると、シークレットサービスのスナイパーはトランプ氏が撃たれたのとほぼ同時に犯人を射殺しており、これは見事だったのだが、犯人が撃つ前に目撃者が警察官に通報しているのに、その情報がトランプ周りにいた警護官に伝わらなかったのは米国とは思えない警備の失態だった。
犯人が撃ったのは会場外の建物からだったのだが、そこの担当は現地警察で、目撃者の証言によると警察官は事態を把握できていなかったという。バイデン政権では民主党の左派議員が警察の予算削減を要求していたが、もし次期大統領の命を危うくするほど米国における治安維持能力が落ちているとしたらこれは由々しき問題だ。
日本の安倍晋三元首相が暗殺されてまる2年が経った。そして今回はトランプ氏が銃撃を受けた。国のリーダーが暴力によって簡単に排除されてしまうのに民主国家と呼べるのか。米国もそして日本も、まずそこを立て直さないといけない。
【執筆:フジテレビ報道局上席解説委員 平井文夫】