警察官といえば、事件や事故の対応をするイメージが強いと思うが、それだけではない。

地域に溶け込み、オリジナルのチラシを作り安全を守ろうとする警察官夫婦を追った。

「安心」「孫みたい」地域となじむ警察官

「あ、お疲れさまです。上厚真です」

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胆振の厚真町の駐在所で勤務する井下雄貴さん(33)。

旭川市や北海道南部の松前町などの署の勤務を経て、約2年前に苫小牧警察署 上厚真駐在所に異動してきた。

「(Q:駐在所ってどういう場所?)自宅と仕事場がつながっている建物になります。駐在所は警察官が住み込みで働いている場所です。通勤時間は“ゼロ分”です」(井下雄貴さん)

数人の警察官が交替で勤務する「交番」とは違い、「駐在所」は一人で住民の安全を守りながら、自らもその町で生活する。

仕事の一つは住民の生活実態を把握すること。

駐在所の警察官ならではの業務で、何か困っていることがないか聞き取っていく。

「何か最近困ったこととかないですか?」(上厚真駐在所 井下雄貴さん)

「ないね。(家に)来てくれるから安心。転勤しないで」

「私より若いんだけど、いろいろ愚痴聞いてくれる。地域にいい方来てもらったなぁと思って」

「孫みたい。私の孫も年が同じくらいなんです」(いずれも地元の住民)

人柄の良さに地元の人は井下さんにほれぼれ。

上厚真の唯一の警察官としてすっかり地域に欠かせない存在となっている。

飲酒運転や詐欺の注意 チラシ作りも大事な業務

駐在所に戻った井下さん。

パソコンを使って警察官の仕事っぽくない、ある作業をしていた。

「見やすさにこだわっているので、簡単に見やすく伝わるように心がけて作っています」(上厚真駐在所 井下雄貴さん)

作っているのは詐欺の防止を呼び掛けるチラシ。

駐在所では飲酒運転や詐欺などといった注意を呼び掛けるチラシ作りも大切な業務の一つだ。

この日は、1週間後に迫った年に一度の地元の祭りで詐欺防止を呼び掛けるためのチラシ作り。

北海道内外から約3万人が集まる大イベントで呼び掛ける。

完成に近づいてきた、と思いきや少し不安げな井下さん。

「ここまで作っても奥さんのイラストがないと、これで見やすいのかわからない」(井下雄貴さん)

夫は文章 妻はイラスト 夫婦で力合わせてチラシ作り

実は井下さんの妻・麻美さん(31)も苫小牧署に勤務する警察官だ。

キャラクターのデザインをするのが得意だという麻美さん。

夫婦ならではのチームワークを発揮し、文章は井下さんが、イラストは麻美さんが担当してこれまで様々なチラシを作ってきた。

「仕事が終わったらこの時間帯に娘を迎えに行って自宅に帰る」(井下麻美さん)

麻美さんは午前10時から午後3時までの時短勤務を終えると、母親として4歳の娘・碧唯ちゃんを保育園にお迎えに。

「何しているの?」(碧唯ちゃん)

「タマネギみじん切りしているの」(麻美さん)

帰ってきたらすぐに夕飯の支度にとりかかり、一通り下ごしらえしたら1週間後に控えた祭りでのお披露目に向けてデザイン制作に取り掛かった。

家事をこなしながら仕事 小さいころから「絵を描くのが好き」

スマートフォンで厚真町のキャラクター「あつまるくん」をモチーフにしたものを描いていく。

「(Q:仕事しながらの作業は大変?)絵を描くことは幼稚園のころから好きで、暇さえあれば描き続けてきて、絵は趣味みたいなものなので逆に楽しいです」(麻美さん)

日々の警察官の業務をこなしながらのチラシの制作。

2人のこの熱い想いはどこからくるのだろうか。

「復興は町の人の努力で進んでいると思いますが、巡回していたら心に震災当時の傷を抱えていらっしゃる方もいる」(井下雄貴さん)

地震被害が大きかった厚真町 いまだ癒えぬ“心の傷”

2018年9月6日に最大震度7を観測し、44人が亡くなった胆振東部地震。

37人が死亡し、被害が最も大きかったのは厚真町だった。(災害関連死含む)

地域住民の思いがわかる駐在所の警察官家族として不安を少しでも解消し、心に寄り添いたいという想いがあった。

「活動で少しでも町の人が笑顔になってくれればいいなって」(井下雄貴さん)

いよいよ祭り当日 丹精込めたチラシの評価は?

祭り当日 会場には大勢の人が。

そして、迎えた祭り当日。

会場には大勢の地元の人や観光客の姿があった。

「2人で作ったものです。完成品がついにでき上がりました」(井下雄貴さん)

2人で丹精込めて作った作品。

どんな反応があったのか。

2人で作ったチラシ 住民の反応は。

「俺のところ(詐欺メール)いつも携帯にきてるぞ。わやだぞ」(地元の住民)

「気を付けてください」(井下さん)

「最高だと思うよ。上手だよ。こういうのはなかなかないと思う」(地元の住民)

「すごいリアル。2人で作るのはすごいと思った」(地元の住民)

「子どもにも分かりやすそうでいいと思う。続けてほしいです」(地元の住民)

好評で喜ぶ井上さん 「(妻と)またいろんな活動をしていこうと思う」

「やっぱり喜んでくれるとうれしいですね。やる気も出る。奥さんと一緒に2人でまたいろんな活動をしていこうと思う」(井下雄貴さん)

地域の暮らしと治安を守る警察官。

これからも夫婦で力をあわせ、住民とともに歩もうとしている。

北海道文化放送
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