世界に衝撃を走らせたアメリカ大統領選挙を戦うトランプ前大統領への銃撃。演説会場に集まった観客が撮影した映像には、その時のようすが捉えられていた。
「アメリカの歴史に刻まれる瞬間」

男性:トランプの演説会で誰かが銃撃を始めた!何が起こったんだ。
バンバンバン!(銃声)
女性:キャー!どこにいるの?
女性:あっち、あっち、あっち、あっち!あっち!
男性:Oh my god (なんてことだ)
観客が捉えていた恐怖と混乱のようすだ。そして聴衆からは「USA!USA!USA!」のかけ声がとどろいた。

男性:銃声を聞いた、わからないけどトランプは立ってる!立ってる!
パニックになる人々の叫び声が響く。
聴衆の声:あいつは銃を持っている!!
バン!バン!バン!(銃声)
聴衆の声:あいつは屋根の上にいる!あっちに行くな。あいつは屋根の上にいるんだ。
聴衆の声:あいつが頭を吹き飛ばされるのが見えた。(警察官の声が聞こえる)
聴衆の声:あいつは数発発砲した。最初の数発はあいつだった!
バンバンバン!という銃声とともに、トランプ氏はうずくまった。
ニューヨーク・タイムズが公開した銃撃の瞬間を捉えた写真を見ると、トランプ氏のすぐ後ろに通過する銃弾とみられるものが写っている。現地メディアのカメラマンが、ステージ間近で捉えた銃撃直後の写真だ。
シークレットサービスが身をていしてトランプ氏を守る緊迫した瞬間の数々だ。これらを撮影したカメラマン本人がその時の様子を語った。

銃撃後のトランプ氏を撮ったカメラマン エバン・ブッチ氏:
私はステージの真正面にいたんです。発砲音を聞いた瞬間、これはアメリカの歴史に刻まれる瞬間だと分かりました。

銃撃後のトランプ氏を撮ったカメラマン エバン・ブッチ氏:
トランプ氏がステージを降りる途中、群衆に向かって拳を振り上げ、手を振り始めました。写真でわかるように顔から血が流れていました。
カメラマンが間近で撮影したトランプ氏の耳は、えぐれたようにも見える。ここを銃弾がかすめて行ったのだろうか。
FBIピッツバーグ支局特別捜査官 ケビン・ロジェック氏:
ドナルド・トランプ前大統領に対する「暗殺未遂事件」が発生しました。前大統領の他に2人が重傷を負い、1人が死亡しました。
FBI・連邦捜査局は会見で、今回の銃撃をトランプ氏への「暗殺未遂事件」として捜査を開始し、容疑者を特定した。トーマス・クルックス容疑者は、演説が行われたペンシルベニア州に住む20歳の男だ。なぜトランプ氏を狙ったのか?その謎多き素性が徐々に明らかとなってきた。

千田淳一記者:
事件発生から6時間以上が経過しました、現在の時刻は0時30分頃です。何らかのものを探してると思われます。横にある建物の上から容疑者がトランプ前大統領を狙ったとみられます。
会場の聴衆が撮影した映像を見てみると以下のような音声と映像が記録されていた。
声)あいつは銃を持っている!!
バン!バン!バン!(銃声)
声)あいつは屋根の上にいる!あっちに行くな。あいつは屋根の上にいるんだ。

日本時間14日、トランプ氏への「暗殺未遂事件」でFBIが容疑者と特定した20歳のトーマス・クルックス容疑者。容疑者が住んでいるペンシルベニア州はアメリカ大統領選挙の激戦州だが、現地メディアによると、その身元には不可解な点があるという。
3年前の2021年。クルックス容疑者は、バイデン大統領の民主党支持団体にお金を寄付。だが、2023年、18歳になるとトランプ氏と同じ共和党員になっていた。
そのクルックス容疑者がなぜトランプ氏に銃口を向けたのか。事件後、トランプ氏は自身のXにこう投稿している。
トランプ氏のX:
私は右耳の上部を貫通する銃弾を受けた。何かがおかしいとすぐにわかったのは、ビュンビュンという音と銃声が聞こえ、銃弾が皮膚を裂くのを感じたからだ。多く出血したので、私はそのとき何が起こっているのかを理解した。
会場はお祭りのような雰囲気
突如、トランプ氏を襲った銃弾。その時、会場で何が起きていたのか。演説前の会場周辺では、大統領選の激戦州・ペンシルベニアにトランプ支持者たちが続々と詰めかけた。
支持者の女性:
トランプが勝つわよ!彼が考えを推し進めてバイデンを負かすわ。
屋台の男性:
プレッツェルと冷水~
会場までの道には、トランプ氏がデザインされたTシャツや帽子などのグッズも数多く売られ、まるで、お祭りのような雰囲気となっていた。そこに「次のアメリカの大統領です!大統領!ドナルド・トランプ!」の場内アナウンスが流れ、熱狂の中、登場したトランプ氏。
トランプ氏:
ペンシルベニアの皆さん、こんにちは!私は帰ってきました。私はバイデンやハリス氏を打ち負かして、ホワイトハウスに戻ります。そして、アメリカを取り戻します!
それは、トランプ氏が登壇してから7分4秒後のことだった。
トランプ氏:
何が起こるか見てて下さい!
その後、発砲音が複数聞こえ、トランプ氏は耳を抑えてしゃがみ込んだ。シークレットサービスが集まってくる。鳴り響いた、複数の発砲音。よく見ると、最初の発砲音で右耳をおさえ、しゃがみ込んだトランプ氏。その後も発砲音が連発し、シークレットサービスがトランプ氏を囲む。起き上がったトランプ氏の右耳や右の頬には赤い鮮血が確認できるも、それでも何度も右拳を突き上げる。
パニック状態の会場は、再び沸いた。会場の観衆からは「USA!USA!USA!USA!」のコールも聞こえる。シークレットサービスの肩を借り、車に向かったトランプ氏は車に乗り込む間際も、再び右拳を突き上げた。トランプ氏は医療施設に搬送され、命は別状はなかったというが、退避するトランプ氏を見ると右耳の上側が赤く染まり、頬や口元にも生々しい血の跡が確認できる。
銃弾は一体どこから発射され、どのようにトランプ氏に当たったのか?銃撃直後の会場を改めてよく見ると、気になる動きがあった。
「キャー!」という悲鳴と共に騒然となる会場。その時、トランプ氏の後ろ側の観客席・左奥の聴衆たちが会場の外の同じ左側を見ていた。さらに会場の奥にある屋根には、ライフルを持ったシークレットサービスの姿が確認でき、やはり、観客席・左奥の方向に注意を向けている。現地メディアによると、まさにその方向にある工場の屋根に、クルックス容疑者はいたという。

その距離、およそ130メートル。そこから、会場はどのように見えていたのか。当時の状況をCGで再現すると、130メートル先にいるトランプ氏は肉眼でも確認できるほどの距離で、さらに屋根から会場までは遮るものがなく、トランプ氏の横顔がはっきりと見えていたと考えられる。
そして、現地メディアによると、ここから放たれた銃弾は、原稿を映し出すモニターに跳ね返り、右耳に当たった可能性があるという。
さらに、会場をよく見るとトランプ氏の左後方、容疑者がいた側に座っていたとみられる聴衆が搬送されていた。銃撃に巻き込まれた聴衆1人が死亡し、2人が重体だという。
会場にいた人は「銃声が数発聞こえて全員が凍り付いたようでした」「私たちは銃弾が跳ね返る音が聞こえたので、近くの子どもたちに覆いかぶさって守ろうとしました」「銃弾が跳ね返り、1つがスピーカー塔に当たりました。跳ね返っている音が聞こえたので、地面に伏せたんです」とそれぞれ振り返る。
聴衆をも襲った銃撃の恐怖。一方、人々が見つめる先にいたのは…。
会場にいた人:
あそこに人がいるね。あの人が撃ったんじゃないか。
屋上に横たわった、クルックス容疑者とみられる男性の人影だった。シークレットサービスは「午後6時15分、集会会場の外にある高い位置から、容疑者と思われる狙撃手が複数回発砲した」と声明を出している。シークレットサービスの警護担当は容疑者を制圧。その人物は死亡した。

実は、何度も発砲音が響いた直後、壇上のマイクがトランプ氏とシークレットサービスのこんなやりとりを拾っていた。
シークレットサービス:大丈夫ですか?
シークレットサービス:銃撃犯は倒れました。移動して大丈夫です。
トランプ氏:大丈夫か?
シークレットサービス:大丈夫です!
銃撃後、即座に容疑者が射殺されたことを知ると、
トランプ氏:靴を取らせてくれ。
シークレットサービス:(靴)取りましたよ。
シークレットサービス:待って下さい。頭が血まみれです。
トランプ氏:待て。(右拳を突き上げる)戦え!戦え!
これを受け聴衆は熱狂する。流血しながらも、顔を出し右手を突き上げたのは、もう安全だとわかっていたからなのか。
トランプ氏は銃撃後、SNSに以下のように投稿した。
発生した銃乱射事件について、アメリカのシークレットサービスや警察の迅速な対応に感謝したい。そして何より、死亡した集会参加者の家族と重傷を負った人の家族に、哀悼の意を表したい。私たちの国でこのような行為が行われることは信じられない。
そしてこの銃撃後、続々とコメントを出したのは、歴代の大統領たちだった。
バイデン大統領は会見で「今のところ、彼は無事だとわかっています。いいですか、アメリカにこうした暴力はふさわしくありません。異常です。これは異常なんです」とし、トランプ氏に電話で話したという。
さらにバラク・オバマ元大統領は「トランプ前大統領が、重傷でなかったことに私たちは安堵しました。この機会に、政治における礼儀正しさと敬意を、改めて誓うべきです」とSNSで投稿。
また、ビル・クリントン元大統領も「暴力は許されません。ヒラリーと私はトランプ前大統領が無事であることに感謝するとともに、被害を受けたすべての人たちに心を痛めています」とSNSに投稿した。
アメリカ史で繰り返される大統領らの命を狙う凶弾
大統領や候補者の命を狙う凶弾は、アメリカの歴史の中で繰り返されてきた。1865年4月14日、第16代リンカーン大統領暗殺事件は、リンカーン大統領がワシントンで演劇を鑑賞中、後頭部を銃撃され、その翌日に死亡した。その後も、2人の大統領が凶弾に倒れ、そして世界を揺るがす暗殺事件が起きた。
1963年11月22日、第35代ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件。
ケネディ元大統領(1963年当時):
今現在のアメリカでは経済はよくなっているが将来を見越しておかなければいけない。
史上最年少の43歳で就任し、高い人気を誇ったケネディ大統領。翌年の大統領選に向けてダラスでパレードをしていた、その時、多くの人が見守る中で銃弾が頭部を直撃した。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋(まえしま)教授は「近年は特にこういう大統領選挙の時の集会とかはかなり厳しくなっています。変なものを持っていないか金属探知機を使ってチェックされますので、近年ではあまり(事件が)目立たないですね」と分析する。
近年さらに厳しくなっているというセキュリティの中で、なぜ今回、暗殺未遂事件が起きたのか。Mr.サンデーはケン・ボムベース氏を取材した。ケン・ボムベース氏はかつて、オバマ氏やクリントン氏など合わせて10年以上警護を務めた、要人警護のプロだ。

トランプ氏の警備について「大統領を経験したすべての人に生涯、警備がつきます。その上、大統領選の候補に指名されると警備のレベルが上がります。しかし今回は、地方の小さな会場でした。私は行ったことがありませんし、おそらく多くのシークレットサービスは初めて行く場所だと思います」と指摘する。

ボムベース氏は、今回の会場での警備の難しさを「屋外の会場には大きい課題があります。シークレットサービスは攻撃を加えられる範囲すべてに気をつけなければなりません」と指摘。
屋内の会場なら、入場者全てに厳しいセキュリティチェックを行えるが、屋外の場合、会場の外まで警備の範囲を広げなければならなくなる。今回、演説会場とクルックス容疑者がいた場所まではおよそ130mで、そこは警備の対象外だったという。

実際、クルックス容疑者を目撃した人は「私たちがいた隣の建物の屋根をはい上がっている男に気づきました。彼がライフルを持っているのがはっきりと見えたんです。私たちは近くにいる警察官に『おい、屋根の上にライフルを持った男がいるぞ』と言いましたが、警察は『え?何?』という感じで、何が起こっているのか、分からないようでした。そして気がつくと、5発の銃声が鳴り響いたんです」と語った。
ケン・ボムベース氏は「今回の警備は“失敗”だったといえるでしょう。今後、警備の手続きを変えなければなりません。あまり多くの人を会場に入れず、聴衆と大統領との距離を取ったり、ドローンのような他の技術を駆使したり。また、もっと多くの警察を動員すべきでしょう」と分析した。
そして、トランプ陣営はSNSに、飛行機のタラップから降りてくるトランプ氏の動画を公開した。銃撃された会場を後にしてから初めてその姿を見せたトランプ氏。映像からはケガをした右耳の状態はわからないが、足取りはスムーズで片手を上げあいさつをするようなしぐさも見せた。
今後の大統領選に影響は
今回の銃撃事件が、今後の大統領選にどのような影響を与えるのか。
ここまでの選挙戦で注目を集めていたバイデン大統領。

バイデン大統領:
それでは、勇気と決意を持ったウクライナの大統領にマイクを渡したいと思います。皆さん、プーチン大統領です!
バイデン大統領:
大統領になるのにふさわしくなければ、トランプ副大統領を副大統領には選んではいない。

討論会での失敗や、致命的な言い間違えにより強まっているバイデン大統領の撤退論。
「よくやったジョー」とトランプ氏からも揶揄される中、13日、ミシガン州の演説会場に登場したバイデン大統領は
バイデン大統領:
最近、さまざまな臆測が飛び交っている。「バイデンはどうするのか。選挙戦に残るのか。撤退するのか」答えはこうだ。続けるそして勝つ!
と改めて選挙戦の継続を宣言し、支持者からも「やめるな!やめるな!やめるな!」の声援が掛けられた。

しかし、ニューヨーク・タイムズによれば、これまでに、上院下院合わせ20人の議員がバイデン大統領の撤退を求めているという。
一方のトランプ陣営は、事件後、選挙動顧問党大会委員長の共同声明として「トランプ氏は、大統領選候補を正式に指名するミルウォーキーでの共和党大会に参加することを楽しみにしている」とし、トランプ氏の無事と共に、15日から行われる党大会への参加を発表した。
選挙戦の中で起きた暗殺未遂事件。その衝撃は、今後どのような広がりを見せるのだろうか。
(「Mr.サンデー」7月14日放送より)