誰もがなり得る「依存症」。

8月13日放送の「直撃!シンソウ坂上」(フジテレビ系)では、ゲーム障害、窃盗症、抜毛症の3つの依存症を取り上げ、体験者インタビューや再現ドラマから依存症の真相に迫った。

ゲームに夢中になり、いつしか「ゲーム障害」に

近年、長時間ゲームをすることで起こる依存問題が深刻化。「ゲーム障害」と呼ばれ、WHOは治療が必要な疾患として認定した。

今年4月、香川県では「ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行され、「18歳未満はゲーム1日60分まで(平日)」という内容に議論が巻き起こった。

今回、番組では昨年3月にゲーム障害になってしまった17歳の高校生・ムサシ(仮名)を取材。どのようにしてゲーム障害になったのか、過酷な闘病生活まで明かしてもらった。

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県内でもトップクラスの進学率を誇る公立高校に合格したムサシは、母親から合格祝いでもらったスマートフォンのゲームに、友人の勧めもあり、夢中になっていく。部屋にこもってゲームに没頭し、1日のプレイ時間は10時間にも及んだという。

そんな日々をムサシは「ゲームをやっているときは時間を忘れる。周りにそういう子は何人もいたので、これだけゲームをやっていておかしいとか思えなかった」と振り返る。

夜通しゲームをするせいで、授業中は居眠りし、ゲーム中心の生活に。そのため、1学期の終わりの三者面談では教師からムサシの成績を注意されるほどになっていた。

だが、母親はまだ原因がゲームのやりすぎだとは思わず、学校生活に原因があると考え、ムサシを心療内科に連れて行くと、医師からゲームに時間を取られすぎていると指摘される。

その言葉を受け、母親はムサシがゲームばかりしていたことに気づき、スマホの回線を止めるが、ゲームができなくなったムサシは家庭内で暴れ始めた。そんな息子を止められず、母親はやむを得ずネットの回線を戻してしまった。

この頃から母親はゲームの依存症を疑い始めたという。

このような状態について櫻和メンタルクリニック・山野かおる院長は「ゲームをやっていると感情をコントロールしたり、理性をつかさどる前頭前野の部位がなかなか働きにくくなる。欲望を抑えられないという状態に近くなっている」と解説。

それでもゲームの時間は減ることがなく、9月にはムサシの留年が決まる。高校に入学してから半年も経っていなかった。

息子の将来を案じた母親は、ムサシを連れて、依存症専門の病院へと駆け込み、「スクリーニングテスト」を行った。これは、ゲーム障害だけでなく、アルコール依存症やギャンブル依存症の可能性を調べるときにも用いられる方法。

例えば、「過去12カ月間で友人に会ったり、以前に楽しんでいた趣味や遊びをすることよりも、ゲームの方を選んだことがあるか?」といった質問に答え、当てはまる項目が多ければ依存傾向にあると判断される。

ほとんど当てはまったというムサシは、かなり重度の依存があると診断され、依存症の専門病院への入院を医師から勧められる。ムサシはアルコール、ギャンブル、薬物などさまざまな依存症患者がいる閉鎖病棟で、3ヵ月にも及ぶ、入院生活を送ることになった。

このときの心境を母親は「犯罪者もいるような、大人ばっかりの中に高校生の子どもを放り込むのはすごく勇気のいること。『それしか方法がないです』と病院の先生やソーシャルワーカーの人にも言われたんですけど、不安は本当に大きかった」と明かす。

特別な許可がない限り、外出はできない。夜になると禁断症状に苦しむ患者の声が聞こえてくることもあったという。だからこそ、ムサシ自身も「ここを出たい」「ゲームをやめる」と心に決めるも、「ゲームをしたい」という欲求に駆られ、眠れない夜が続いたこともあった。

そんなムサシに行われた治療はグループミーティング。これは患者同士で誰にも言えなかった過去や罪を告白し合って共感する治療法。ギャンブルや薬物などさまざまな依存症患者とともにミーティングを行った。

その効果について年間960組の依存症患者と向き合う、周愛荒川メンタルクリニックの精神保健福祉士・八木眞佐彦さんは「グループミーティングの良さは、何を話しても決して批判されない安心感があること。自己否定感でいっぱいになればなるほど、依存行動が必要になってしまうのですが、お互いがお互いの体験を一切の批判を交えずに話し、体験を語り合うことで閉ざされた心が広くなっていく」と解説した。

ムサシの場合は、このグループミーティングのおかげでゲームへの欲求は徐々に治まり、「ゲームをしたい」という悪夢を見ることはなくなったという。

そして今年の1月に無事に退院し、休学していた学校に復学。新たな生活を送っているという。

しかし、ムサシが陥ったゲーム障害の対処法で気を付けるべき点があると八木さんは指摘する。それは「ゲーム使用あるいは、ネット使用が唯一の心の杖となっている場合が非常に多い。それを無理やり取り上げてしまうと自傷行為などに発展してしまうこともあります。お子さんの心的苦痛が何かを一緒に探り、依存する理由や緩和する手段を複数、専門職と一緒に考えていくことがとても有効です」ということだという。

退院から7ヵ月経った今、ムサシはこんな思いを抱いている。

「今、新型コロナウイルスのこともあり、ゲーム依存になりかけている人も多いと思うので、将来自分でゲーム依存のミーティングやグループを立ち上げて、自分と同じように困って苦しんでツラくなっている人たちを一人でも多く救えるようになりたいと思っています」

「買うのがもったいない」から始まった窃盗症

万引きがやめられない「窃盗症」(クレプトマニア)。

万引きをすることでスリルや解放感を得るため、窃盗行為を繰り返してしまう精神障害のこと。

そんな窃盗症によって4度も刑務所へ入ることになってしまったレオさん(仮名)、46歳。彼女は今、群馬県渋川市にある特定医療法人赤城高原ホスピタルに週に1度通院し、治療を受けながら今も窃盗症と闘い続けている。

ここは、アルコールや薬物などの依存症を抱える患者に対し、薬に頼らず、カウンセリングやミーティングによる治療で回復を目指す専門病院。

「この病気は治ると思っていないので、自分はいつも爆弾を抱えながら生きていかなきゃいけない」と語るレオさんは、なぜ窃盗症になってしまったのか。

そのきっかけは、レオさんが中学生の頃にあった。父親は酒浸りの上に、家族に暴力を振るい、矛先はレオさんにまで向けられていた。父親から受ける過酷な虐待がレオさんを非行に走らせ、いつしか不良仲間とつるむようになっていった。

そして、「誰かに必要とされたい」という一心で手を染めたのが万引きだった。気づけば中学2年生にして常習犯に。レオさんは暴走族の一員となり、万引きや未成年での飲酒・喫煙といった非行を繰り返したが、17歳のとき、シングルマザーになったことを機に、心境にも変化が起こった。

「親になってまで万引きをやっていられない」と思ったことで、非行から足を洗い、息子と過ごす幸せな日々を送っていた。

だが、25歳のとき、国の難病に指定されている全身性エリテマトーデス(SLE)という病を発症したことで、また万引きを繰り返すことになってしまう。

この病は、関節痛だけでなく、皮膚の発疹や発熱、全身のだるさなど、炎症による症状で日常生活が困難になるというもの。その病を治すため、専用の治療薬を毎日飲んでいたが、この薬の副作用には「強すぎるほどの空腹感」があり、食欲を抑えることができなくなってしまった。

異常なまでに食べ物を求め続けた結果、過食と嘔吐を繰り返す、摂食障害まで併発した。

そして買い物へ行くと、「買うのがもったいない」という、これまで思ったこともなかった考えがレオさんの頭をよぎるように。

店員のスキを見計らい、財布にお金が入っているにもかかわらず、一つ百円ほどの菓子パンを万引き。こうした「もったいない」という気持ちが窃盗症の入り口になってしまった。

赤城高原ホスピタル・竹村道夫院長は「窃盗症は多くの場合、摂食障害を発症して過食や嘔吐を繰り返し3年以内に万引きを始めるのが一番多いパターン。心理的な飢餓感に加えて、生理的な飢餓感。お金を持っていても減るのが怖くて盗る、ということにつながっていく」と解説。

さらにレオさんは「快感みたいなものがありました。タダでモノが手に入ることはお得だし、罪悪感はありますが、それに勝ってしまう。ドキドキ、ハラハラして成功するというスリル。その1回の万引きでタガが外れました」と当時を振り返った。

最初は空腹感を満たすため、食料品を万引きしていたが、気づけばスリルを求めて特に必要のないものまで盗むようになっていったという。

こうして万引きは5年にわたって続けられ、その間、何度も見つかり、注意を受けたことはあったがやめられず、34歳のときに初めて逮捕される。それでもやめられず再び逮捕。3度目でついに懲役1年8カ月の実刑を受け、その後も刑務所を入ったり出たりを繰り返した。

そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、服役中に息子を育ててくれた母親だった。母親はレオさんが病気ではないかと考え、一緒に赤城高原ホスピタルを訪れた。

そこで医師から告げられたのが「窃盗症」。レオさんは重度の窃盗症だったため、半年入院することになった。

しかし集団生活になじめず、わずか9日で自主退院してしまう。そして、6度目の逮捕で懲役2年の実刑を受ける。

8年間で6度も万引きで逮捕された彼女の体には何が起きているのか。

竹村院長いわく、快感や幸福感をもたらす神経伝達物質「ドーパミン」が窃盗でスリルを感じることで活性化され、快感や高揚感が生まれ、それが慢性化すると脳が刺激を求め続ける状態になってしまうという。

こうして4度目の服役を終えたレオさんは、自ら赤城高原ホスピタルに再入院を申し込み、治療を受けることになった。

竹村院長は「万引きや窃盗をやめるということだけじゃなく、やめた後に残る“心の空洞”を埋め戻さなきゃいけない。それを放っておいたらダメです」と話した。

この病院で行われる治療が患者同士で誰にも言えなかった過去や罪を告白し合い共感することで安心感を得るミーティング。こうして現在、6度目の逮捕から約4年間、レオさんの再犯はない。

積極的に治療を続けているが、レオさんは「いつ何時、誰も自分のことを受け入れてくれないような独りぼっちな生活になったら、もしかしたらまたやるかもしれないと思っています。でも今は盗らないで生活ができて楽しいです」と明かした。

髪の毛を抜くのがやめられない抜毛症に悩む女性

髪の毛を失った女性たちの支援団体「ASPJ」で活動する土屋光子さん、40歳。ウィッグを外したスキンヘッドの彼女は髪の毛などの体毛を抜かずにはいられなくなる抜毛症を患っている。

土屋さんが毛を抜き始めたのは小学校低学年の頃。きっかけは、枝毛を抜く姉のマネをしたこと。髪の毛を抜いたときの痛みよりもプチっとした感触の心地よさが上回ったことから、以来、髪の毛を抜くのがクセになってしまった。

土屋さんは「最初はただ抜いていたんだと思います。それから一つ一つ観察するようになって、毛根のところにゼリー状の透明な部分があって、その感触が何とも言えない。ハッと気が付いたら髪の毛の山ができていた。やっちゃいけないことだと思っていたので、人前ではやらなかった」と振り返った。

中学生になると一部分だけ薄くなった髪の毛について、「どう見ても落ち武者状態。世間一般にかわいいとは程遠い自分が鏡の前にいて、このままだと結婚できなくなるんじゃないか」と不安を抱いたという。

通常、髪の毛は抜けても自然に生えてくるが、無理やり抜き続けると、新しい毛が生えてこなくなることもある。

そのため、髪の毛を抜かないように「もうやめる」とつぶやき続けたり、手に軍手をはめて手首をテープで巻いくことで毛を抜きにくくしたり、それでも衝動に駆られたときはシャワーを浴びて気を紛らわしたがやめられなかった。

このような状況について、抜毛症に詳しいパークサイド日比谷クリニック・立川秀樹医師は「例えば、学校や家庭では人間関係をなかなかコントロールできません。人間関係のストレスに対して、何かコントロールできることをしないと心の平和が保てない。“抜毛”というコントロールできることに置き換えて、心の平和を保つんです。これが抜毛症の始まり」と解説した。

抜毛症は主にストレスが原因とされ、土屋さんが毛を抜き始めた時期は、両親の仲がどんどん悪くなり、モヤモヤした不安感が募っていた頃だったという。

しかし、両親が離婚をして生活が落ち着いても毛を抜くクセは治まらなかった。

高校生になると地毛では隠し切れず、オーダーメイドのウイッグを作ることにしたが、20万円もするほど高価で、かつ、ウイッグは消耗品のため、2年に1度買い替えなければならなかった。これまでウイッグに使った金額は数百万円に及ぶという。

精神科にも通い、睡眠薬や抗うつ剤などを処方してもらうも、症状は改善されなかった。人知れず、心の苦痛にさいなまれていたが、30代になって結婚をすると状況が変わった。

夫は抜毛症で髪の毛が薄くなった土屋さんの姿を気にすることもなく、受け入れてくれたのだ。これで吹っ切れた土屋さんはスキンヘッドになり、これまで秘密にしてきた抜毛症を自身のブログで公表した。

すると、スキンヘッド姿が美しいと評判になり、モデル活動をすることに。これで高額なウイッグに大金をつぎ込む必要もなくなり、完全にストレスがなくなったと思われたが、髪の毛を抜くクセはなくならなかったという。

土屋さんは「スキンヘッドの今は手で抜けないので、メイクのピンセットとかでピッと抜いたりしているので、死ぬまでずっとやっているのかな…」と不安を口にした。

なぜ、土屋さんは髪の毛を抜くことをやめられないのか。立川医師が土屋さんの症状を改めて分析し、病に関する新たな見解を土屋さんに伝えた。

立川医師は「強迫性障害化した抜毛症」と診断。「ばかばかしくて意味がないと分かっているけど、やめられない。これが強迫性障害の症状。なかなか苦労しても治らなかった原因は、心から脳の病に変わったからです」と明かす。

強迫性障害の原因は脳の神経伝達物質であるセロトニンの動きに異常が出るためだと言われている。

治すためにはセロトニンを調整する薬を使うなど、症状に合わせた専門的な治療が必要となる。立川医師は「個人差があるので何%かは言えないですが、症状を緩和させることはかなりの確率で可能です」と話した。

この話を聞き、土屋さんは「“治る”というビジョンが描けるので希望が持てる」と笑顔を見せた。

現在、土屋さんは抜毛症をはじめ、頭髪の悩みを持つ女性たちやその家族を支援する団体「ASPJ」で精力的に活動している。

(「直撃!シンソウ坂上」毎週木曜 夜9:00~9:54)

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