消耗部品交換なしで高い脱水性能を長期間維持する。繊維状物質や無機分の多い汚泥でも詰まらず脱水できる―。そんな進化型汚泥脱水機を開発したのは、汚泥脱水機も排水処理もまったく知らない中途入社の3人でした。
汚泥脱水機ヴァルートデュオ™
アムコン株式会社(https://www.amcon.co.jp/)は、世の中のあらゆる施設・設備に「一歩進んだ快適便利を提供する」ことを理念に、水に関する3つの事業①汚泥脱水機や各種排水処理装置などの製造販売、②給排水設備点検や改修工事、排水管清掃などを行う建物設備メンテナンスサービス、③水質検査や各種環境分析などを行っています。
当社では、長年切望されていた新しい汚泥脱水機ヴァルートデュオ™を2021年6月に発売しました。
汚泥脱水機とは、排水処理の過程で生じる「汚泥(多量に水を含む泥状の産業廃棄物)」を脱水し、汚泥の嵩を減らすことで、環境負荷や産廃処分費を削減するための機械です。
多重板型スクリュープレスという新しいジャンルを生み出した汚泥脱水機ヴァルート™の誕生から紆余曲折を得てはや30年。ヴァルート™のウイークポイントを克服したヴァルートデュオ™はどのように生み出されたのか。当時開発を担当したヴァルート事業部 開発部部長の和田光司、同部の伴野公威、山崎隆志にインタビューしながら、開発の秘密を解き明かします。※所属名・役職は当時のものです。
開発を任されたのは、何もわからない排水処理業界の新人でした
― リボーンヴァルートプロジェクトという新しいプロジェクトが始まったのが2017年10月でした。プロジェクトメンバーは全員入社したばかりの皆さんで、私自身驚いたのを覚えています。
和田:プロジェクト開始時点で当社に在籍していたのは山崎さんだけです。
山崎:とはいえ僕も10月に入社したばかりで。
和田:伴野さんは2018年1月、私は2月入社。3人共に異業種からの転職です。汚泥脱水機はもとより排水業界の知識が何もない3人でプロジェクトを本格始動しました。
左:ヴァルート事業部 開発部部長 和田光司
右:ヴァルート事業部 開発部 山崎隆志
― 長くヴァルート™に携わってきた方々が社内にいる中で、どうして新しく入った皆さんが選ばれたのだと思いますか。
和田:何かをブレイクスルーしたい時には、固定観念が邪魔する場合があります。そこで業界知識がなくても、ゼロから新製品開発を経験したことがあるメンバーを含むチームを発足させたのではないでしょうか。
― このリボーンヴァルートプロジェクトというのはどのようなプロジェクトだったのでしょうか。
和田:当社は継続的に製品開発を進めていて、2010年に消耗品の交換が少ない新コンセプト製品を発売しました。
残念ながら製品の大型化に課題があり販売中止しましたが、その後も耐久性と脱水性能を向上させた新形状スクリューなど、常に製品を進化させてきました。
そんな中、大型化の課題で一度は諦めた製品の再開発がこのプロジェクトで、開発コンセプトとしては4つになります。
<設計コンセプト>
1. 濾過体内で汚泥が詰まる(中詰まりする)ことがなく、広範囲な汚泥に対応
2. 交換部品コストを大幅に低減させる
3. 長期に渡って脱水性能を維持させる
4. 小型機から大型機まで製品をラインナップする
汚泥を脱水する濾過体
― お客様から多繊維汚泥や無機汚泥を脱水できないか、というご相談は昔からたくさんあったのでしょうか。
和田:はい、多数ありました。多繊維汚泥だった場合、構造上、装置内部で汚泥が詰まって安定的に脱水できず、お客様からご相談があっても場合によっては提案を諦めていました。
― 入社してからは、まず何から始めたのでしょうか。
山崎:私はその時点で検討していた構造が他社特許に抵触しないか調査していました。
伴野:私はゼロベースで独自に構造検討を開始していました。
ヴァルート事業部 開発部 伴野公威
和田:遅れて入社した私は、「既に開発検討を開始しているが、我々3人は、プロジェクト本来の目的を理解しているのか?」「開発コンセプトは正しいのか?」など多数の疑問がわき、開発の着手から5か月経過していましたが、一旦開発を中止して開発コンセプトの妥当性を検証することにしました。
理由は、我々が主体的に開発を進めていく上で、開発目的を理解し納得する必要があると考えたからです。まず着手したのが、汚泥脱水機に関わる他社特許の調査です。特許は現状に対するなんらかの改善なので、ここで市場のVOC(顧客の声)が理解できると考えました。分析すると、”脱水機全般”だと、「安定的に稼働させるための運転制御」、円筒の中をスクリューが回転し汚泥を加圧脱水する”スクリュープレス脱水機”であれば、「筒内の中詰まり防止」、リングを積層した濾過体の中をスクリューが回転する”多重板型スクリュープレス”だと「消耗部品の低減」に関する特許が圧倒的に多かったです。
つまり脱水機を安定的に稼働させることと、メンテナンスコストを低減させることが、顧客要望として多くあると理解しました。また、当社の開発コンセプトが間違いないことも立証できました。
― 開発の目的を理解・納得してから始めたのですね。それからどのように新しい機械の開発が始まったのでしょうか。
和田:次に取り組んだのは自社技術の理解です。社内にある資料をかき集めて、その時々でどんな課題があって、製品を改善してきたかを分析しました。
結果の良し悪しに関わらず、社内の知見がこれからの開発に役立つと思ったからです。ここまでの検討で2か月を費やしました。やっと構造検討を開始したのはここから。 しかし、伴野さん、山崎さんを苦しめる私からの質問攻めが始まるのですけどね。
問題の根本原因を探る「なぜなぜ分析」で曖昧さを減らし、無駄のない構造へ
― その「構造」というのは、どのように思いついたのでしょうか。
和田:「なぜなぜ分析」って聞いたことあります?発生した問題の根本原因を探る分析手法です。問題に対してなぜそれが起きたのかを繰り返し掘り下げていくことで根本原因にたどり着くと言われています。私が、「なんで?」「なんで?」とその都度、深堀りしていくので、二人は面倒な人だと感じていたはずです。
検討結果を堀り下げていくと「なぜこの構造にしたのか」、各々の要素で理由が明確になってくるので、「なんとなく」とか、「これまでもこうだった」とか曖昧な部分が少なくなり、一つ一つに意味のある無駄のない構造になりました。
山崎:あとは、当社は多重板型スクリュープレス脱水機のパイオニアですから、社内には開発の初期段階から今までの莫大なノウハウをもった社員がいるので、いろんな部署のメンバーにヒアリングし、我々の調査から得た仮説とすり合わせを何度も何度も重ねて、アイデアを煮詰めていきました。
開発初期のプロトタイプ
チェコの開発チームとも「なぜなぜ分析」。原価を抑えた設計変更へ向けアイデアを試行錯誤
― 「なぜなぜ分析」はいろんな仕事に役立ちそうですね。他に大変だったことはありますか。
和田:僕らが開発終盤に悩んだのは、原価を目標値に収めることです。新構造で理想の性能を追求するあまり、原価は目標未達。そのためほぼ全部品の設計見直しが必要でした。この初期にコスト意識が低かったことは反省点です。
伴野:ベアリングや継ぎ手など既製品は各拠点で購入します。日本で安く選定した部品がヨーロッパではすごく高いケース、またその逆もあり、チェコにある子会社の開発チームと情報共有し、どうにかして原価を抑えるため何度も設計変更の試行錯誤を繰り返しました。
― 子会社とも協力して開発を進めていったのですね。
和田:はい、開発の節目ごとでチェコの開発チームにレビューしてもらい、様々なフィードバックを得ました。ヨーロッパの方々は日本人のような曖昧さがなく、理由を明確に知りたがる人たちで、これはまさに「なぜなぜ分析」ですよね。 実際、質問に答えていくうちにより良いアイデアが生まれることもありました。彼らも私も理解しないと前に進めないのですよね。もう細かいところまで論議して。「終わりはあるのか?」と不安になったこともあります。
チェコ開発チームとの「なぜなぜ分析」
― このレビューが終わってから実機を作って実験という流れでしょうか。
和田:そうですね、実機を作って問題が起きたらまた同じようにレビューの場を持ちました。
伴野:発売した後も見直しをかけて、常にブラッシュアップしています。
実際、現在も少なくとも月一回くらいはこの打合せが続いています。
牛糞や食品残渣の脱水など、思いもよらない使い方で喜んでもらうことができた
― では、デュオが完成してお客様の反応などは何かありましたでしょうか。
和田:最初に福島にあるサトーファーム様という牧場に納入しました。200頭位の乳牛を育てられていて、徹底的に省人化し可能な限り機材がオートメーション化されています。我々の製品は、牛糞と牛舎の寝床になる藁(敷料)を発酵させて堆肥をつくる工程で、牛糞と敷料を発酵する前段階の発酵に適した水分量に調整するために活用されています。導入前は、ショベルカーを使って牛糞と敷料におがくずを混ぜていました。これを日に何度も。省人化された環境で、現場スタッフによるこのショベルカーの作業はすごく大変だったようです。それが適切な水分量に脱水できるので、脱水した牛糞をそのまま発酵させる場所に撒けば良い。「すごく楽になった。人1人の仕事がなくなった」ととても喜ばれました。
伴野:おがくずは購入していたそうなので、省人化だけでなく材料費もカットできています。
和田:もう1つの事例として廃プラスチックリサイクル工場があります。プラスチック片などの不純物が多くて、従来機では筒内で詰まり安定的に脱水できなかったのですが、新型機では安定的に脱水可能です。この排水処理フローは日本国内だけでなく海外にもあるため、グローバルに市場拡大できる可能性があります。
山崎:他にも食品残渣を絞って、そのカスと油を分離するために活用頂いている事例もあります。
和田:このように新規の市場に進出出来ている一方、従来機で十分脱水できる工場にもヴァルートデュオ™を採用してもらえる事例が増えてきました。それは、安定的に稼働し、定期交換部品も減少したことが評価されているのだと思います。
社内全体のノウハウと開発協力の「総合力」が成功のカギ
和田:この製品は、確かにこの3人で開発を開始しました。しかし実際には、社内にたくさんのノウハウがあり、皆に開発に協力して頂きました。つまり会社の総合力で作り上げた製品です。
― ヴァルートデュオ™は、徹底的に製品の問題と原因を掘り下げ、社内だけでなく国を超えグループ会社の総合力で生まれた製品でした。「社会に一歩進んだ快適便利を提供する」ために、これからもアムコンは「挑戦と創造」を続けていきます。
【汚泥脱水機ヴァルートデュオ™を「下水道展'24東京」で実機展示いたします】
【汚泥脱水機ヴァルートデュオ™の詳細はこちら】
https://www.amcon.co.jp/sludge-treatment/products/hr-series/
【会社概要】
会社名 :アムコン株式会社
所在地 :〒223-0057 神奈川県横浜市港北区新羽町1926
代表者 :代表取締役社長 相澤学
設立 :1974年11月22日
事業内容:ヴァルート事業部…汚泥脱水機、各種排水処理装置などの開発製造販売
アムコン24事業部…ビル/マンションの給排水設備メンテナンスサービス
分析事業部…水質分析/各種環境分析
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