児童養護施設に入る理由の9割は“家庭内の虐待”。つらい経験から「気持ちを言葉にできない」子供もいる。心の傷を癒やし自立するには「平凡な日常を積み重ねる」ことが大切だと子供に寄り添う施設の職員は語る。

3歳~18歳がひとつ屋根の下で

佐賀・基山町にある児童養護施設「洗心寮」。

児童養護施設「洗心寮」(佐賀・基山町)
児童養護施設「洗心寮」(佐賀・基山町)
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この施設では、3歳から18歳までの約20人がひとつ屋根の下で寝起きを共にしている(2024年3月時点)。

この施設で保護者の代わりに子供たちと生活を共にしているのが、児童指導員の佐藤裕侑さん(40)。

男子棟を担当する佐藤さんはこの日、学校から帰ってきた子供たちとキャッチボールをした。心の距離を縮める大切な時間だという。

洗心寮・佐藤裕侑さん:
1対1の時間をあえて作って『最近どう?お兄さんから見たらちょっと表情暗そうに見えるよ』『最近めっちゃ楽しそうだけど何かいいことあった?』とか聞ける環境をなるべく作るように、毎日はできなくても、意識してやっている

入所理由の9割が“家庭内の虐待”

両親がいないなど複雑な事情で子供たちが入所する児童養護施設。施設に入る理由の9割が“家庭内の虐待”だ。

入所している小学5年生男の子:
3歳くらい(のとき)に来た、何も覚えてない。みんな笑顔でいるから、つらい時には遊んだりして解消できる

気持ちを“言葉にできない”子供も

つらい過去の経験から、自分の存在を否定的に捉える子供たちが多いという。自分の気持ちを言葉にすることができない子供もいて、佐藤さんはその心理を次のように説明した。

洗心寮・佐藤裕侑さん:
一方的に叱られて、怒られて怒鳴られてという形になると自分の気持ちを言葉にすることができない、言葉にすることによって『怒られるんじゃないだろうか』『大人がどう感じるんだろうか』と考えすぎてしまって結果的に言葉にできなくなる

“平凡な日常”を積み重ねていく

子供たちと食卓を囲む佐藤さん。ご飯をほおばる子供たちと言葉を交わしながら食事を楽しむ。そのひと時は、ふつうの家庭と同じように和やかだった。

子供たちの心の傷を癒やし、自立させていく。
そのためには1日3食あたたかいご飯を食べる、一緒に遊ぶなど、ごく平凡な日常を積み重ね寄り添うことが大切だと佐藤さんは言う。

洗心寮・佐藤裕侑さん:
子供たちにとってはここが居場所なので、当たり前のことを、当たり前に。意識せずにやれるようになることが大事なのかなと

ある日曜日、佐藤さんは子供たちを乗せて車を走らせた。向かった先は商業施設。

一見ただの買い物にも見えるが、これには大切な意味があるという。

自立に向けて…金銭感覚を養う

子供たちは年齢に応じて国から生活費などの支給を受ける。しかし、施設を出た後は1人で生活しなければならない。

金銭感覚を養うため、佐藤さんはあえて自分自身で支払うよう促す。限られた金額では全てを買うことができないため、優先順位を決めておくよう子供たちに語りかけていた。

洗心寮・佐藤裕侑さん:
当たり前を当たり前に教えてあげられる環境づくりが大事だと思っているので、やっています

保護者として“学校行事”にも

子供に関わる仕事に携わりたかったという佐藤さんは、19年前の2005年に児童指導員となり、のべ150人の子供たちを担当してきた。

児童養護施設では、他の職員とともに早出や遅出、宿直などシフトを組んで子供たちに寄り添い、施設の中にとどまらず、卒業式など“学校行事”にも保護者として参加する。

「自立するのが本当に一大事」

この日、「洗心寮」を卒業する子供たちの激励会が開かれた。

18歳を迎える一部の子供たちは施設を巣立ち、ひとりの大人として生活していくことになる。

高校3年生:
家みたいに過ごしやすくていい場所だった

高校3年生:
洗心寮に入っていなかったらまた違う性格になっていたかもしれない。本当に忘れないと思うし、本当に感謝しています

「夢は自分のお店を持つこと。飲み物とかスイーツとか出したい」と今後の目標を語る高校生の姿もあった。

心の傷を癒やし、自立できるよう日々寄り添ってきた佐藤さん。巣立っていく子供たちを目にして自らの仕事への思いを語った。

洗心寮・佐藤裕侑さん:
寮から自立をするのが本当に一大事。本当に人生の中で大きなことなので、そこの“背中を押す第一歩目”という気持ちです。『あそこ(寮で)育ったから今これだけ頑張れる』と言える、思ってもらえるような支援をしていかないといけないと思っています

子供たちに寄り添う佐藤さんの日々はこれからも続く。

(サガテレビ)

サガテレビ
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