「中央銀行デジタル通貨」でも米中が覇権争い

「中央銀行デジタル通貨」をめぐる世界の動きが、新たな局面に入っている。
中央銀行デジタル通貨とは、中央銀行が発行主体となり、現金そのものを電子データに置き換えること。
中国は、数年内の「デジタル人民元」の発行に向けた準備を急いでいる。
アメリカのフェイスブックが主導する暗号資産、いわゆる仮想通貨「リブラ」は、ドル建ての発行など当局の意向をくんだ計画に変更し、発行を目指している。

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特に、他国に先んじてデジタル通貨を研究してきた中国は、アメリカとの覇権争い=ドル覇権への挑戦という側面もあるとみられ、実用化に向けた動きを加速させている。

日本でも「骨太の方針」で初めて言及

日本はどうか。
「デジタル円」の検討は今、急速にピッチを速めている。
7月17日、政府の「骨太の方針」が閣議決定され、初めて中央銀行デジタル通貨についての言及が盛り込まれた。
わずか2行ではあるが、「中央銀行デジタル通貨については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」との表現で、日銀に取り組みを求める姿勢を示した。

その直後の7月20日、日銀は決済機構局内に「デジタル通貨グループ」を新設したと発表した。
中央銀行デジタル通貨の検討に本腰を入れるため、2月に発足させた研究チームを改組し、正式な組織に格上げした形だ。
グループ長には局長級の奥野審議役が就いた。
また、7月29日には、日銀の雨宮副総裁が日本記者クラブでの講演で、「現時点でデジタル通貨を発行する計画はない」としたものの、こうも述べた。

日銀 雨宮副総裁;
将来必要になった時に的確に対応できるように準備する観点から、一段ギアをあげて検討を進めていく必要があると考えている

日銀・雨宮副総裁(7月29日 日本記者クラブ)
日銀・雨宮副総裁(7月29日 日本記者クラブ)

実現へ向けて克服すべき「2つの壁」

日本でも現金がなくなる日は来るのか?
ただ、実現に向けた課題は多い。
7月2日に日銀が公表したレポートでは、
「『誰もがいつでも何処でも、安全確実に利用できる決済手段』であることが求められる」とした上で、検討課題として、誰でも使える「ユニバーサル・アクセス」と、いつでもどこでも利用できる「強靭性」という2つのテーマを挙げている。

「ユニバーサル・アクセス」の観点では、現在のデジタル決済はスマートフォンを使ったタイプが浸透しているが、高齢者などは保有していないケースも多い。そこで、「多様なユーザーが利用可能な端末の開発が重要となる」と指摘している。

また、「強靱性」については、通信や電源が確保されていない「オフライン」の環境でも決済できる機能を備えることを求めている。
特に然災害の多い本では、強靭性を備えた決済⼿段へのニーズはいと考えられる」と指摘している。

また、こうした技術的な課題だけでなく、セキュリティ面やプライバシーの確保といったコンプライアンス面での課題も残る。
日銀のレポートではこうした課題解決に向けて、実証実験に乗り出す方針を明らかにしている。

世界に遅れを取らないために…民間でも進む議論

一方、民間では、3メガバンクやJR東日本、NTTグループなどが参加する「デジタル通貨勉強会」が6月に発足し、議論を重ねている。
仮想通貨の取引所を運営するディーカレットが事務局を務め、オブザーバーには金融庁、財務省、総務省、経済産業省、日銀が名を連ねている。
この会合は、中央銀行デジタル通貨だけに焦点を当てて議論するものではないとしているが、これまでの会合で以下のような意見が出されている。

「中国でデジタル人民元の開発が進んでいる。発行時期は決まっていないとしながらも、4つの都市でテストを実施しているとのことで、中国の本気度が伺える。」(6月4日開催)
「本勉強会が、中央銀行デジタル通貨を念頭に置いたものでないことは理解している。可能であれば、本邦において中央銀行デジタル通貨の議論がなぜ進まないか、その背景や理由を共有頂けると、民間でどのように進めていくべきかを議論しやすいのではないか。」(6月18日開催)
中央銀行デジタル通貨の実証実験を、民間で担うということも考え得るのではないか。こうした可能性も含めて議論したい。」(7月16日開催)

会合は、2020年秋をめどに報告書をまとめる方針を示しており、民間でのシミュレーションも加速している。

日銀は「現時点で中銀デジタル通貨を発行する計画はない」という基本姿勢は変えていない。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、デジタル決済の需要は着実に高まっている。
2大大国の覇権争いも絡み、今後のマネーの在り方を問い掛けることになる「中央銀行デジタル通貨」。
政府・日銀も、各国に遅れを取らないよう民間と連携しながら準備を進める必要がある。

(フジテレビ報道局経済部 土門健太郎記者)

土門 健太郎
土門 健太郎

フジテレビ報道局経済部 記者