いよいよ始まった医療現場の「働き方改革」。勤務時間が制限される中、医師が行う医療行為の一部を担うことが可能な、ある“看護師”が注目されている。

新たな役割を担う“看護師”

福岡市の済生会福岡総合病院。7階の控室に発足したばかりのチームの拠点がある。

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「特定行為看護室」、メンバーは5人。
これまで医師にしかできなかった医療行為の一部を担う専門スタッフのチームだ。

一般の看護師との大きな違いをチームリーダーの三山麻弓さん(50)は「医師の指示を1個1個待たずに対応できるというところが、この特定行為看護師の大きな違いなのかなと思います」と話す。

特定行為看護師室の5人は、どの病棟にも属さず各セクションの依頼に応じ、院内を駆けまわる。この日、行っていたのは、前日に緊急手術を受けた患者の動脈から血液を採る「医療行為」。

特定行為看護師・三山麻弓さん:
いままでは、医師しか直接動脈に針を刺して採血をするというのができなかった。この特定行為について国が決めている38の中の1つにこの行為が含まれています。

質の高い医療の提供が狙い

厚生労働省は、動脈からの採血のほか人工呼吸器の取り外しや調整など、38の医療行為を「特定行為」と設定。従来、医師しか行うことができなかった医療行為の一部を担う特定行為看護師の研修制度を2015年にスタートさせた。その大きな狙いは現場医師の負担軽減だ。

手術のサポートなどの特定行為に加えて、医師が最も助かると話す役割の1つが「手術終わりの管理」だ。手術終わりに執刀医と特定看護師が患者に関する情報を共有する。

一般的に手術後は容態が変化しやすく「集中治療室への移動」や「呼吸器の管理」などは、この病院ではこれまで医師が行ってきた。そこを特定行為看護師が担うことで、医師たちの負担が大きく軽減され、質の高い医療の提供につながるという。

救急科・改田祐紀医師も「特定看護師さんがしてくれることで、僕らがその時間が違うことに使えるという意味では医療の質が担保できるし、ほかのことでも質を上げられる」と話すなど医師からの期待も大きい。

患者の命に関わる重要な役割を担当

質の高い医療を実現する上で大きなカギを握るとされている特定行為看護師だが、実際の現場で看護師が医療行為を担うことは簡単なことではない。

特定行為看護師・三山麻弓さん:
特定行為看護師って、やっぱり、医療行為の一部を担うので職種の違う畑に入っていかないといけない。最初は私たちも言われましたね。「これでもし合併症が起こったときは誰が責任取るの?」って。

リスクを背負いながらも最善の医療を提供するため日々、患者と向き合い続けている特定行為看護師。この日の集中治療室で三山さんは「ある重要な仕事」を任されていた。

それは、気管切開術。
人工呼吸器を付け、意識のない患者は、人工呼吸器のチューブを口から入れている。しかし長期間、付け続けていると感染症などのリスクが高まるため気管を切開し、口から入れているチューブを抜いて、管を直接挿入することになった。

「それでは気管切開術を行います。時間は20分、出血は少量の予定です。よろしくお願いします」手術が始まった。口から入っているチューブの操作を行うのが三山さんの主な役割だ。

タイミングがずれると肺に空気が届かず、命に関わるおそれもあるため、作業は慎重に進められる。

手術の様子:
三山さん「じゃあ、5cm進めます…。(危機の数値を確かめて)バイタル、問題ないです…。じゃあ、チューブを抜いていきます…。25、24、21、もうちょっと?」
医師「先端が見え始めてます」
三山さん「…18」
医師「はい、ストップです、管、入れます。はい、入りました」

手術開始から約20分。無事成功。看護師の表情にも安堵(あんど)の色が浮かぶ。

手術を終え、救急科の柳瀬豪医師は「(三山さんは)試験に合格して業務に当たれているので、仕事はもう間違いないですね」と三山さんを高く評価した。

救急科・改田祐紀医師:
勤務的に人が足りないときはですね、休日の若手医師が来て、頭元に立って、手伝ってくれるということもあったんですけども、そこが軽減できてると。

三山さんはこれからの医療現場について「いままでの風習で、これは医師がやること、これは看護師でやることとか言うんじゃなくて、本当にこれは医師がやった方が良いのか、タスクシフトという意味で考えていかないといけない」と語った。

この特定行為看護師は、福岡県でも年々増えているが実は、病院側がまだ体制を整えられず特定看護師がいても「上手く活用できていない」ケースもある。今後は病院内の体制づくりが大きなカギを握ることになりそうだ。

(テレビ西日本)

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