金融・原油市場が中東ショックに揺さぶられ、イラン・イスラエルの報復の応酬リスクに身構えている。19日の日経平均株価は一時1300円を超えて値下がりしたほか、原油先物価格は前日から4%高い水準をつける場面があった。
「イランで爆発」下げ幅1300円に拡大
19日の東京株式市場は、前日のニューヨーク市場でハイテク関連の株価が下落した流れを受けて、取引開始直後から、半導体関連銘柄を中心に売りが広がっていたが、午前中、イランで爆発があったという中東メディアの報道が伝わると、日経平均株価は一気に下げ幅を広げ、一時1300円を超えて下落した。終値は3万7068円で、3月末から3300円以上の値下がりとなった。
この記事の画像(10枚)イランとイスラエルの報復の連鎖のおそれの高まりは、中東からの原油の供給不安を広げ、価格の上昇圧力を強める。
原油先物市場で代表的指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターメディエート)は、アメリカ東部時間の18日夜に、一時1バレル=86ドル台まで上昇し、前日から4%高い水準をつけた。
原油価格が跳ね上がれば、エネルギーの輸入コスト上昇を通じて、国内企業の業績を圧迫させる懸念から、株価を一段と下落させる悪循環をもたらすおそれがある。また、アメリカでは、原油高騰により高インフレが長引くことが、利下げ開始の時期を一段と後退させ、経済の先行きの不透明感を強めて、世界全体の株価の下押し要因になる可能性がある。
過熱感などから潮目の変化も指摘されるようになってきた株式相場だが、リスク回避の動きが広がっていけば、これまでの上昇基調から局面が変化するのではとの見方も出ている。
6月分から補助金なくなる電気・ガス代
原油高の暮らしへの影響も心配される。
ガソリン価格については政府の負担軽減策が延長されたが、電気・ガス代の補助金は、5月使用分で半分になったあと、6月使用分からなくなる。標準的な家庭で、電気代で1400円分、ガス代で450円分が値上がりする計算だ。
また、電気代は、再生エネルギー普及のため電気代に上乗せされている賦課金の上昇が反映される分、4月使用分から800円ほど上がることになる。
こうした国内要因に加えて、エネルギー価格が上昇すれば、光熱費負担は一段と増していく。さらに、さまざまな容器・包装材や衣服クリーニングをはじめ、石油製品を使う商品やサービスの代金の値上がりへと波及していけば、家計の負担増が一層進むことになる。
円安+原油高で年間家計負担11万円増
19日に発表された3月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いた指数が106.8となり、前年同月比で2.6%上昇した。
食品価格の高止まりが続くなか、食料の上昇率は4.8%となった。
電気代は1.0%、都市ガス代は10.1%低下したが、2月の低下率がそれぞれ2.5%、13.8%だったのに比べると、下げ幅を縮小している。
一方、円安進行が続く円相場は、19日に1ドル=153円台後半の水準をつける場面があったものの、その後は154円台後半での値動きが続いている。
中東情勢悪化でエネルギー価格が上振れし、円安で輸入品価格が上昇していけば、コストプッシュ型のインフレが再燃する可能性がある。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストが行った試算では、円相場が1ドル=155円、WTI原油価格が1バレル=86ドルで推移した場合、2024年度の家計負担は世帯平均で、前年度と比べて11万円を超えて増える結果となった。
植田総裁「円安影響大きければ、政策変更も」
円安をめぐっては、日銀の植田総裁から注目の発言があった。
植田氏は、アメリカ・ワシントンでのG20財務相・中央銀行総裁会議後の18日の会見で、円安進行による物価高について、「無視できない大きさの影響になれば、金融政策の変更もあり得る」と述べ、輸入品の価格が上昇して、基調的な物価上昇に影響を及ぼす事態になれば、追加利上げも辞さない姿勢を示した。
さらに、19日に現地で行われた講演で「基調的な物価上昇が続けば、利上げを行う可能性が非常に高くなる」と述べたうえで、「金利を引き上げる場合、経済や物価がどう反応するか大まかな見通しを持っておく必要があるが、日本はこの30年間、持続的に金利が上昇したことがない」と話し、「過去のデータを使って反応を推定するのはとても難しく、私たちにとってチャレンジになる」との認識を示した。
日銀会合の日に行われた2022年の円買い介入
日銀は、25日から2日間の日程で、金融政策を決める会合を開く。
3月にマイナス金利解除を決め、17年ぶりの利上げに踏み切ってから初めての開催となり、展望レポートで、新たな物価見通しを公表する。
春闘での高い賃上げ率や円安・原油高などを踏まえ、今後の姿をどのように示し、会合後の会見で植田総裁が、この先の政策運営についてどう語るかが焦点だ。
2022年に24年ぶりとなる円買い介入が行われた9月22日は、日銀が当時の黒田総裁のもとで開いた金融政策決定会合の2日目にあたった。「大規模な金融緩和の継続」という決定内容が公表されると、日米の金利差拡大を意識した円売りが勢いを増して、円相場は24年ぶりの水準となる1ドル=145円台に突入した。
さらに、黒田氏が会見で「当面金利は引き上げるということはない」と発言し、金融政策の先行き指針の修正は、「2~3年後の話として考えてよい」との認識を示したことで、円相場が145円台後半に下落して下げ足を速め、146円をうかがう値動きになると、政府は、円買い介入に踏み切り、円相場は反転、1時間足らずのうちに、5円ほど円高が進む展開となった。
介入に向けた地ならしか
円だけでなく、世界の主要通貨が軒並み対ドルで下落傾向を見せ、ドル独歩高の様相が強まるなか、ワシントンで17日に開かれた日米韓による財務相会合では、共同声明に「最近の急速な円安・ウォン安への日韓の深刻な懸念を共有する」との文言が盛り込まれた。通貨安への懸念をアメリカを巻き込んだ形で表明するのは異例だといえる。
続いて開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」とした過去の合意事項を再確認し、財務省の神田財務官は「日本の主張に沿った形になった」と強調した。
こうした流れについて、市場関係者の間からは、為替の急速な変動はよくないとするコンセンサスのもと、仮に日本が円買い介入を行う場合もこの枠組みに沿ったものであることを確認しておくことで、介入に向けた地ならしになった、との見方も出ている。一方で、介入の効果については、アメリカ金利の高止まりによる日米金利差という構造的な要因にあらがうのは難しく、アメリカが利下げ局面に入るまでの時間稼ぎにしかならないとの声も強い。
円安と原油高の影響の広がりが懸念されるなか、155円台をうかがう円相場の動きや介入の可能性、さらには、日銀の決定会合での議論の行方と、市場動向や為替・金融政策から目が離せない週になりそうだ。
(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)