3歳の女の子がタワーマンションから転落し死亡した事故。「一歩違えば、わが家だったかもしれない…」そう思いつつ何も対策をしていない無防備なベランダに目をやった。事故が起こる前に、今できることを考える。

持ち出した踏み台の高さは40センチ

住民:
驚きとショックで…。できる限り気を付けられるところを、改めて気を付けないといけないなと思いました

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4月16日夕方、広島市中区東千田町の53階建ての高層マンションで、20階から30階に住んでいた3歳の女の子が敷地内の植え込みで倒れているのが見つかり、その後、死亡が確認された。

当時、女の子は1人で部屋にいたとみられ、ベランダには踏み台が置かれていたということだ。ベランダの手すりには女の子が触ったとみられる跡が残っていて、女の子が部屋から踏み台を持ち出し、約135センチのベランダの手すりを誤って乗り越え、転落したとみられている。女の子の身長は103センチで、女の子が使ったとみられる踏み台の高さは、約40センチだったことがわかった。

転落事故があったベランダを調べる警察
転落事故があったベランダを調べる警察

「事故はいつ起きてもおかしくない」

後を絶たない子どもの転落事故。消費者庁によると転落事故は、夏ごろから秋にかけて増加。年齢は3~4歳が最も多いということだ。
子どもの事故防止を研究する専門家は、どの家庭でも起こりうると警鐘を鳴らす。

セーブキッズジャパン・北村光司 理事:
今回のような事故があったとき、「親が見ていなかったから悪いんでしょ」とか「その子がやりがちな子だったんじゃないか」、「うちの子はそういうことしないから大丈夫」などと思ってしまいがちです。実際はそうではなく、事故はいつ起きてもおかしくないと思っていただいて、環境面でいかに対策をするか

消費者庁による「建物からの転落死亡事故発生件数」のデータによると、2016年から2020年の4年間で20件、そのうち0~4歳の事故が14件起きている。

政府は「政府広報オンライン」で保護者に向けて注意喚起を続けてきた。オンラインの動画には、今回の事件と同じように「踏み台」にのってベランダの手すりに手をかける女の子の様子が撮影されている。

「政府広報オンライン」より
「政府広報オンライン」より

また、もたれかかった“網戸”が破れて転落するケースにも注意が必要。それらを映像化して発信することで、政府は注意を呼びかけている。

実験では3歳児の65%が柵を越えた

しかし専門家も「保護者の配慮には限界がある」と言う。
過去に、東京都生活文化スポーツ局によってこんな実験が行われていた。現在の建築基準法の高さ110センチのベランダの手すりを想定し、子どもが越えられるか調べる実験だ。

高さ110センチの手すりを越える実験(東京都生活文化スポーツ局より)
高さ110センチの手すりを越える実験(東京都生活文化スポーツ局より)

それによると、110センチのベランダの手すりを6歳児はほぼ全員が乗り越えた。4歳児は約7割が乗り越えた。2歳児でも乗り越える子どもがいた。踏み台がなくても手をかけさえすれば、子どもたちは簡単に手すりを乗り越えてしまう。大人が想像する以上に子どもの身体能力が高いことが伝わってくる。

また、こんな結果も出ている。
NPO法人「セーブキッズジャパン」が、子どもが30秒以内に柵を乗り越えられるか実験したところ、高さ120センチの柵の場合、3歳児の65.7%、4歳児の72.5%、5歳児の90.2%が乗り越えた。30秒間というと、保護者がちょっとトイレに行く間にでも起こりうる事故というのがわかる。

一方で、柵の高さを140センチにすると3歳児は0%、4歳児は27.5%と柵を乗り越える割合は一気に減った。ただ5歳児は73.2%なので、やはり対策は必要だ。

米NY市は窓にストッパーなど義務付け

子どもの転落事故防止について、国は次のような対策を呼びかけている。
○ベランダに足がかりになるものを置かない
○室外機は手すりから60センチ以上離す
○子どもの手の届かない場所に補助錠などのカギをつける
○子どもを一人にしない

セーブキッズジャパンの北村理事からはこんな提言も。
●国が規制を強化する
●対策に補助金を出す
保護者だけに対策を任せるのではなく、対策しやすいよう法整備する話も持ち上がっている。

実際、高層ビルの多いアメリカ・ニューヨーク市の事例では、条例でアパート3戸以上の所有者に対し10歳以下の子どもが住む場合、すべての窓にガードやストッパーを付けることが義務付けられている。

テレビ新広島 ニューヨーク支局・古賀 記者:
ニューヨークのこちらの家庭では、窓ガラスが10センチほどしか開かないよう安全対策が施されています

痛ましい事故を繰り返さないためには、個人と社会全体で対策を講じる必要がある

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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