4月から大きく変わったことに、運転手の労働時間の規制強化がある。いわゆる「2024年問題」の影響は、物流・運送業、そして地域交通を支えるバス会社にも及んでいる。すでに4月から路線の減便・廃止をしたバス会社は、運転士が少なくなる中で維持を模索している。そんな中で、住民主体で送迎サービスを始めている地域もあった。

バス会社 苦渋の決断

福島県いわき市遠野町。新常磐交通は、4月のダイヤ改正で路線バスの運行を廃止した。住民は「高齢者は免許返納すると、病院関係、医療関係で不便になるのではないか」と話す。

いわき市遠野町 バス停はあるが…2024年4月のダイヤ改正で運行廃止
いわき市遠野町 バス停はあるが…2024年4月のダイヤ改正で運行廃止
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「日曜日・祝日と土曜日含めて、こういうところは大幅な減便をやらざるを得なかった。こういうところが、大きな影響が出てくるだろうなということで、非常に申し訳ないし、心配しているところであります」と話すのは、新常磐交通の門馬誠常務。路線バスの減便・廃止は苦渋の決断だったという。

新常磐交通の門馬誠常務
新常磐交通の門馬誠常務

一番の要因は 運転手不足

新常磐交通では、4月のダイヤ改正で14区間合わせて43.31キロの路線バスを廃止した。一番の要因は「運転手不足」
門馬常務は「免許を持っている方がだんだん少なくなって、高齢化している。辞める方がいても新しい人が来なくて、非常につらい業種である」と話す。

運転手不足で14区間の路線バスを廃止
運転手不足で14区間の路線バスを廃止

運転手確保の努力をするも…

新常磐交通では、大型2種の免許取得に補助金を支給するなど、人材の確保・育成に力を入れているが、運転士が不足している状況が続いている。

免許取得のための補助など行うが…
免許取得のための補助など行うが…

さらに運転手の労働規制強化がダイヤの維持を難しくしている。門馬常務は「退勤から出勤までの間”休息期間”が、今までは8時間で良かったが、今度9~11時間取りなさいと。1時間のびたところをどこで埋めるかって、夜のダイヤで埋めるしかない」と現状を語る。

労働規則強化がダイヤの維持を難しく
労働規則強化がダイヤの維持を難しく

路線の維持を模索

「地域住民の交通手段を最優先」に…市民からの要望を受け、特に通学で多く利用される一部の路線は、回送する車両を実車運行に切り替えるなどして維持した。市民にも協力と理解を求めながら、路線の維持を模索している。

回送車両を実車運行するなど路線の維持を模索
回送車両を実車運行するなど路線の維持を模索

新常磐交通の門馬常務は「採算性のところで、やはり労働条件の向上は目指していかないといけない。そういった総合力で一生懸命やって、一般路線を守っていくとこれが大切だろうと思う」と話した。

地域住民の交通手段を最優先に
地域住民の交通手段を最優先に

残業時間に上限 人員が必要に

3月までは「時間外労働」いわゆる「残業」に規制はなかったが、2024年4月からは「1年間で960時間」という上限が設けられた。これによって、これまで以上に運転手の確保が求められるが、担い手が不足し「安定的に物や人を運べなくなる」恐れがあるなど、様々な影響が懸念される。住民の移動手段をどう維持するか?福島県福島市では地区の住民同士が助け合う地区がある。

これまで以上に運転手の確保が求められる
これまで以上に運転手の確保が求められる

住民同士で地域交通を守る

福島県福島市の土船地区で、3年前から続く「おでかけサポート」は、講習を受けた地区の住民がドライバーとなり、利用者を目的地まで送る。
ドライバーの宍戸定雄さんは、一日に多いときで2回、高齢者の通院や買い物などの送迎を行っている。

福島市土船地区の「おでかけサポート」
福島市土船地区の「おでかけサポート」

高齢者見守りの側面も

おでかけサポートを週に2回利用している宍戸セツさん(87)は、3年前に家族の勧めで運転免許を自主返納してから、このサポートを利用している。

免許を返納した高齢者も利用
免許を返納した高齢者も利用

福島市内のスーパーまで往復で約30分。移動時間はコミュニケーションをとりながら、健康状態を聞き取ることなどを大切にしている。現在「おでかけサポート」の利用者は約20人。燃料費だけを、ドライバーに支払う。(8キロ以内500円・8キロ以上1000円)

移動時間はコミュニケーションの時間に
移動時間はコミュニケーションの時間に

利用している宍戸セツさんは「楽です。うんと助かるの。タクシーは高いもの。バス停が遠くて、バスは利用できないんだ」と話す。

「うんと助かる」と利用者にも好評
「うんと助かる」と利用者にも好評

高齢化も踏まえたサービス

この地区では路線バスが走っているが、宍戸さんは「2024年問題」や加速する高齢化などを踏まえ、地域の住民同士が助け合い移動手段を確保する必要があると考えている。「一人住まいの方がどんどん増えている。そういう人たちのサポートは誰がやるの?って言ったときに、若い方にこのサポートというものを理解してもらって、じゃあ私もやりたいという人を募っていきたい」と話した。

住民同士が助け合い移動手段を確保する必要がある
住民同士が助け合い移動手段を確保する必要がある

問題ではなく改善へ 専門家の指摘

新たな移動手段の模索もあるが、交通政策の専門家は「2024年“問題”ではなく、これをきっかけに“改善”につなげるべき」としている。
「運転手を確保できない限り、今まで通りのサービスを維持することができないですし、サービスの改善を図っていくことも難しい」と話すのは、交通政策を専門にする福島大学の吉田樹教授。

“問題”ではなく、これをきっかけに“改善”につなげるべき
“問題”ではなく、これをきっかけに“改善”につなげるべき

これまでもバスやタクシー業界は、慢性的な長時間労働や低い賃金から運転手の深刻な人手不足に直面していたという。そうした背景によって、労働規制が強化されたことを理解した上で、行政・地域・住民がどのように公共交通を維持するかを考えることが大切だとしている。

どのように公共交通を維持するかを考えることが大切
どのように公共交通を維持するかを考えることが大切

「2024年問題と言われていますけれども、実はそれをきっかけに労務環境を改善していく。本来は”2024年改善”じゃなきゃいけない。もう少し、皆さんで広く薄く負担をしあいながら、地域の公共交通を守っていくということが必要になってくるだろうと思っている」と話す。

本来は”2024年改善”であるべき
本来は”2024年改善”であるべき

吉田教授は、運転手の働き方だけでなく給与面の改善も求められていると指摘する。地域交通を守るために、私たちも普段から公共交通を利用して「乗って支える」ことが重要と話していた。

(福島テレビ)

福島テレビ
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