被災地の復旧、復興に欠かせないのがボランティアの存在だ。しかし3カ月が経った今も奥能登では「ボランティアの姿を見ない」という声が上がっている。なぜボランティアの活動が滞っているのか。その理由を探った。
ボランティアが来た
石川県輪島市打越町。がれきに挟まった車を重機などで動かそうとしていたのは自治体が派遣したボランティアの人たちだ。作業を依頼した表幸正さん(76)は、大地震で自宅前が道ごと崩落し車を動かせない状態となっていた。「これで最後」と思って買った、お気に入りの車だ。昨年末以来、近づくことさえできなかった愛車にエンジンがかかった。「ありがたいなぁ。あとは段差を埋めて車を出すだけやさけ、埋めたら出せるな。一人ではどうしようもないしね。これで上げてくれたら本当にうれしいですよ」。ようやく前に進めるかもしれない。ここに至るまで3カ月がかかった。近くでボランティアを見かけたり、ボランティアに関する情報に自らたどり着けなかったため、これまで依頼せずにいたそうだ。
この記事の画像(7枚)ボランティアの姿を見ない
被災地では「ボランティアの姿を見ない」という声が多く聞かれる。全国の被災地でボランティア活動を続けてきた登山家の野口健さんは「いろんな被災地を見てきましたけど、今回の被災地で明らかに違うのはボランティアが少ない、ボランティアを見ない」と指摘する。ボランティアに参加した男性も「珠洲に12人とか聞いてびっくり。100人単位で来てもらわないと全然進まない」と稼働人数の少なさに驚く。
1日の稼働人数は全体の1%?!
石川県が被災地に派遣する災害ボランティアは1月27日から本格的に活動が始まった。これまでに3万4000人が登録を済ませている。しかし実際に活動しているのは1日当たりおよそ310人と登録者全体に対して1%程度しか被災地に送り込むことができていない。防災研究の第一人者で、県の災害危機管理アドバイザーも務めてきた神戸大学の室崎益輝名誉教授は「県が集めて送り出しているボランティアの数ではニーズに応えきれていない。壊れている住宅の中から大切な物を取り出して、取り出さないと公費解体も進まない。今のペースでいくと5年も10年もかかって、いつまで経っても復興ができない」と話す。室崎教授によると2011年の東日本大震災は3カ月で約50万人、2016年の熊本地震は約10万人のボランティアが被災地に入っていた。一方、能登半島地震の被災地で活動したボランティアの数はこれまでに約1万2500人。同じ最大震度7を観測した過去の大地震と比べると、能登の被災地はボランティアが圧倒的に少ない状況だ。(※能登半島地震の数字は4月1日時点)
当初は個人ボランティア自粛を要請
県がボランティアを派遣する手順は次のようになっている。まず住民のニーズや必要なボランティアの数をそれぞれの市や町から1週間ごとに聞き取る。そのうえで向かわせる人数を調整し現地に派遣している。このように被災自治体の前に県が入りボランティア派遣の調整弁となる方式自体、過去にはなかったものだと室崎教授は指摘する。「県がボランティアの安全管理というのを考えたと思う。今回のように県が登録制をとるのは僕の知る限り初めて」。
馳知事の口からは「個人的なボランティアの皆さんはお控えいただきたい。ボランティア登録は早め早めにお願いできれば」という発言が何度も聞かれた。厳しい道路状況や宿泊事情を受けボランティアが個人で能登へ入るのは自粛するようにという呼びかけだ。「SNSでこんな時に被災地に入るボランティアがいてけしからんだとか、被災地に行くのは犯罪者だ、みたいな通知が出た。被災地に入ることに対する批判がすごく多く、それをみんな見ているのでボランティアが入るのを躊躇した」と室崎教授は話す。様々な被災地でボランティア活動を行ってきた登山家の野口健さんも馳知事の発言が今でも尾を引いていると考えている。「あのときは人命救助が優先だったから、それは分かる。次のフェーズになってボランティアの受け入れが必要になって来たときに、『来ないでくれ』の10倍くらいの勢いで言わないと、来ないでくれの方がインパクトが強い。『日本中の人、助けてくれ』というのをリーダーは繰り返し言い続けるべきだと思う」。
「きのどくな」という控えめな心情
一方、ボランティアを受け入れる側に問題はないのか。受け入れの窓口となる奥能登6つの市と町では住民の依頼を受けてから職員が現地調査をしている。そのうえで県にボランティアの派遣を依頼していて、今のところ必要なボランティアの数は確保できているという。それでは
「ボランティア不足」は起こっていないのだろうか。ボランティアに力を借りた表さん。助けてもらえたはいいけれど、複雑な気持ちを抱いていたようだ。「これ全部タダでやってもらうってきのどくやわ。申し訳ない。これだけのことをしてもらったらありがたいだけでは済まん気がするけど…」。多くの県民が普段から口にする「きのどくな」という言葉。与えてもらうだけではすまない、申し訳ないという慎ましい気持ちが込められている。「できることなら家の片付けも」と思っていた表さん。しかし今後住めるかどうか分からない家の片付けを依頼するのは申し訳ないと手つかずのままだ。このような気持ちから「助けてほしい」と声を上げられずにいる人は少なくないのではないだろうか。
ニーズを進んで拾う
室崎教授は「被災者というのはとても遠慮がちなので、ニーズというのは待つのではなく取りにいかないといけない。全ての家に対してローラー作戦をして何が困っているかを聞いていかないといけない。ボランティアの人数が足りているか足りていないかは被災者の苦しみや悩みが解決されていっているかでみないといけない」と指摘する。ボランティアにできるのは力仕事だけではない。例えばニーズを聞き取るための調査もボランティアに任せてみるのはどうか。受け身で依頼を待つだけでなく被災地のニーズを進んで拾いにいくこともボランティアの力を借りてできるはずだ。被災した人たちが求めていることは何か。ボランティアに任せられることは何かを今一度考える必要がありそうだ。
(石川テレビ)