米大統領選挙に無所属で立候補しているロバート・F・ケネディ・ジュニア候補が、副大統領候補に年齢制限ギリギリの若い中国系の女性ハイテク起業家を指名し、ケネディ陣営の思惑通り話題をさらっている。

「中国系米国人の女性弁護士・起業家」を副大統領候補に指名

ケネディ候補が指名したのは、カリフォルニア州の弁護士、ニコール・シャナハンさん38歳。

米国の連邦憲法は修正第12条で「憲法上大統領の職に就く資格がない者は、合衆国副大統領の職に就くことはできない」(アメリカン・センター訳)としているので、副大統領にも「出生により合衆国市民である者。年齢満35歳に達している者。合衆国内に住所を得て14年を経過している者」という大統領の就任資格が適用される。

副大統領候補に選ばれたニコール・シャナハン氏(38)
副大統領候補に選ばれたニコール・シャナハン氏(38)
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シャナハンさんは1985年9月16日生まれなので、この年齢制限をクリアしたばかりだ。米国には今から167年前に第14代副大統領に36歳のジョン・C・ブレッキンリッジ氏が就任したことがあったが、同氏以外に30歳代で副大統領になった者はなく、シャナハンさんは異例に若い副大統領候補と言うことができる。

生まれは、カリフォルニア州オークランド市。母親は中国移民で、米国へ来て2年目にシャナハンさんを産んだ。白人の父親は双極性障害と統合失調症の診断を受け、一家は生活補助に頼る赤貧の暮らしを強いられたという。

「私は過酷な幼少時代を過ごしました。悲しみや恐れ、それに不安定な生活です。時として暴力も振るわれました」

彼女は雑誌「ピープル」電子版のインタビューにこのように語っている。

「でも何も持たずに育つと想像力が身につき、機転がきいて、素早く行動できるようになるものです」

貧困は彼女をたくましくしたようで、12歳で近くのハンバーガー店でテーブルを拭くアルバイトをはじめ、15歳になるとレストランのホステスの仕事もするようになった。

「ママに稼いだチップを見せると、その額にびっくりしていましたよ」

シャナハン氏とグーグルの共同創設者、セルゲイ・ブリン氏(EPA=時事・2019年11月撮影)
シャナハン氏とグーグルの共同創設者、セルゲイ・ブリン氏(EPA=時事・2019年11月撮影)

その後、サンタクララ大学法学部を卒業して特許問題の弁護士となり、スタンフォード大学法学部のフェロー(特別研究員)をしているときに決定的な出会いがあった。米国の代表的IT企業「グーグル」の共同創業者セルゲイ・ブリン氏と意気投合して結婚、娘をもうけた。

シャナハンさんはこの頃からシリコンバレーで頭角を表し、ハイテク企業への投資に腕を振るう一方で、環境問題などの取り組みに助成金を提供する非営利団体「ビアエコー財団」を創設し、自ら会長を務めて社会活動に積極的に参加し政治にも関わっていった。

ケネディ氏がスーパーボウルで放映したCM
ケネディ氏がスーパーボウルで放映したCM

2024年2月に行われた米国最大のスポーツ・イベント、アメリカンフットボールの「スーパーボウル」の中継番組の中で、ケネディ候補のCMが30秒放送され関係者を驚かせたが、700万ドル「約10億円」と言われる料金の大半を支払ったのはシャナハンさんだった。

 「当初ケネディ氏を重視していませんでしたが、インタビューを聞いて選挙活動に引き込まれてゆきました。この国の民主主義への希望を感じたからです」

指名を受けてのスピーチで、シャナハンさんはケネディ候補を支持するようになったことをこう説明した。

シャナハン氏指名の狙いは

一方ケネディ候補は、シャナハンさんを指名した理由を次のように語った。

3月26日にシャナハンさんを副大統領候補に指名したと発表
3月26日にシャナハンさんを副大統領候補に指名したと発表

「米国の若い世代は未来への信頼と国への誇りを失いました。これにはバイデン氏もトランプ氏も何ら回答を与えられません。真の変化を望むならば、リスクを取ってでもケネディチームに参加してください」

そのケネディ候補も70歳を越え、81歳のバイデン大統領と77歳のトランプ大統領との高齢者対決を批判できる立場にない。しかし、38歳のシャナハンさんにはそれを補って余りある若さがある。

また、ケネディ候補がマサチューセッツ州など東海岸の伝統的知識層を代表する存在なら、シャナハンさんはシリコンバレーなど西海岸のハイテク社会を代表してバランスが取れているとも言える。

さらに今年の大統領選の最大の争点に、移民の受け入れ問題があるが、苦難を乗り越えて成功を収めた移民2世のシャナハンさんが移民について論ずる時に対抗馬が反論するのは難しいだろう。

シャナハンさんは2022年にブリン氏と離婚した後、世界一の資産家イーロン・マスク氏と浮名を流したこともあったが、これも深追いされず逆に彼女の存在感を高めることにもなったようだ。

ケネディ陣営は、注目度では二大政党にかなわない中で「話題作り」の効果を狙ってシャナハンさんを選んだと考えられるが、今のところその思惑が的中してマスコミを騒がしているようだ。

問題があるとすれば、今米国では中国に対する反発が強い折に、中国系のシャナハンさんがどう受け入れられるかということだろう。

今年の米国の大統領選に立候補を表明している5人の候補者の支持率は、これを書いている時点では次の通りだ。(リアル・クリア・ポリティクスまとめ)

⚫️ドナルド・トランプ(共和党)42.3%
⚫️ジョー・バイデン(民主党)39.3%
⚫️ロバート・F・ケネディ・ジュニア(無所属)10.4%
⚫️ジル・スタイン(緑の党)2.0%
⚫️コーネル・ウェスト(人民党)1.9%

 今後、ケネディ候補への支持がトランプ、バイデン両氏を凌駕することは考えにくいが、シャナハン効果で選挙の行方を混乱させる「スポイラー(壊し屋)」になるかもしれない
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。