1910年の韓国併合以降の出来事について韓国人が日本を批判するときに、決まって持ち出す言葉がある。「ドイツを見習え」だ。ドイツはナチスによる欧州での蛮行をしっかり謝罪していて、日本も同じように韓国に謝罪しろという趣旨だ。

そんなドイツ好きな韓国にとって皮肉な話がある。G7・主要7カ国首脳会議への韓国の参加をめぐる騒動だ。

G7招待で歓喜する韓国大統領府

事の発端は5月31日、アメリカのトランプ大統領が「現在のG7の枠組みは時代遅れだ」として、8月下旬にもアメリカで開催が検討されているG7に韓国、ロシア、オーストラリア、インドを招待するとの意向を示した事だ。

中国との対立が先鋭化するなかで、対中国包囲網を強化しようとのアメリカの意図が見える。

事の発端はトランプ大統領の「現在のG7の枠組みは時代遅れだ」発言
事の発端はトランプ大統領の「現在のG7の枠組みは時代遅れだ」発言
この記事の画像(4枚)

中国との貿易に依存し、中国との関係悪化を望まない韓国は、同盟国アメリカからの提案との板挟みに苦しむと思われた。韓国メディアも同様の危機感を見せていたが、文在寅大統領は翌6月1日、トランプ大統領との電話首脳会談で「喜んで応じる」とあっさり承諾した。

韓国大統領府の報道官はその翌日、「韓国が世界秩序を導くリーダー国の一員になるという意味」「国の格の上昇と国益に大きく役立つ」と誇らしげに語った。

さらには「大統領が出席すれば一時的なものではない。G11またはG12という新しい体制の正式メンバーになる」と、G7の正式メンバー入りまで前のめりに言及したのだ。

「上下」「長幼」などをことさら気にする韓国では「国の格」は日本とは比較にならないくらい重要視される。G7入りは、日本と「同格」という国際的なお墨つきを得ることにつながり、文政権にとって大きな得点になる。

もともと「K防疫は世界一」との国家的自尊心を高めるPRを続けていた事もあり、大統領府は中国との軋轢よりも、「国の格の上昇」に歓喜した形だ。

「日本の破廉恥さの水準は全世界で最上位レベル」

こうした韓国の「歓喜」に水を差す形になったのが、日本政府の反応だ。

菅官房長官は6月29日午前の会見で「G7そのものの枠組みを維持することは極めて重要であると考えています。最終的にどのような開催形式になるかについては、アメリカが調整するものであると思います」と発言した。

「開催形式を調整するのはアメリカ」と発言する菅官房長官
「開催形式を調整するのはアメリカ」と発言する菅官房長官

外交関係者によるとG7の正式メンバーになるには、参加国全ての同意が必要だ。現状の枠組み維持を求める日本の主張は、韓国のG7メンバー入りを阻むことを意味する。この日本の姿勢に対する韓国大統領府の反応は、外交上例を見ないほど激烈なものだった。

大統領府関係者は韓国メディアの記者を前に「隣国に害を及ぼすのに慣れている日本の、誤りを認めたり反省しない一貫した態度について、今さら驚くこともない」「日本の破廉恥さの水準は全世界で最上位レベルだ」「国際社会、特に先進国は日本のこのような破廉恥水準を十分に認知しているので、(G7の拡大および韓国参加構想に)格別な影響はないと見る」と語った。

責任ある地位にある高官の口から他国を評価する際に「破廉恥ランキング世界トップレベル」などという言葉が出てくるとは信じがたいが、事実だ。

ドイツもG7拡大反対

韓国大統領府は日本の破廉恥さを先進国は理解しているので、G7参加には影響はないと強調したが、実際はそうでもないようだ。ドイツのハイコ・マース外相は7月26日、現地メディアのインタビューで「G7とG20は合理的に組織された体制」「私たちはG11やG12を必要としない」と語ったという。ロシアの参加に反対するというのがメインの話ではあるが、G7の枠組みを維持するという、日本と全く同じ姿勢を見せた。

ドイツは世界的に見ると先進国に分類されるが、韓国大統領府が言うように「日本が破廉恥であると理解」はしていなかったようだ。日本と同様の姿勢を示したことで、ドイツも韓国大統領府の言う「破廉恥ランキング世界トップレベル」にランクインするかと思われたが、7月28日現在なぜか大統領府は沈黙している。韓国外務省が「G7拡大に対するドイツの一般的な立場を表したと理解される」とコメントしただけだ。日本と違い、ドイツにはかなり遠慮しているようだ。

大統領府は外務省の意見を聞かない?

韓国大統領府の対応について、ある韓国政府関係者は「トランプ大統領は韓国なども招待すると言っているだけなのに、それをG7に仲間入りすると勝手に思い込み日本を非難するのは愚か過ぎる。拙速さが恥ずかしい」と嘆いた。

G7では議長国が招待した国を参加させる「アウトリーチ会合」が行われた実績があるが、韓国大統領府が一足飛びに「正式加盟」と色めき立った事を「拙速」と批判した形だ。

韓国大統領府関係者の発言に、韓国政府関係者からは「拙速さが恥ずかしい」と嘆きの声も・・・
韓国大統領府関係者の発言に、韓国政府関係者からは「拙速さが恥ずかしい」と嘆きの声も・・・

また韓国の保守系メディアからも「世界のリーダー国になると叫んだ大統領府は面目が立たなくなった」(中央日報)、「米中対立が深まるなか中国を排除したG7拡大は、主要国の立場が大きく分かれる複雑な事柄であるのに、大統領府が過度に急いで『韓国がG11またはG12という新しい国際体制の正式メンバーになる』と言ったため、かえって立場が狭くなった」(朝鮮日報)と批判する声が出ている。

今回の韓国大統領府の対応は、複数の外交関係者に聞いてみても「プロの外交官が関与しているとは思えない、あり得ない対応」という評価だ。膨大な人事権を背景とした強大な権力を大統領が握る韓国では、外務省ではなく大統領府が外交のリーダーシップを握る事が多い。特に「保守政権を支えた官僚機構は敵」という認識が強いとされる文在寅政権では、外務省の官僚を退ける傾向が強いとの話はよく聞く。

それでも混迷する日韓関係について、双方の外交当局は話し合いを続けている。外交の基本を度外視した「破廉恥」ウンヌンの発言を聞くにつけ、怒りや驚きとともに、日韓関係を何とかしようと考える関係者の努力が水泡に帰すかもしれないという空しさすら感じるのだ。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。