月9ドラマ「君が心をくれたから」で舞台となった長崎は、放送終了後も聖地巡礼で盛り上がりが続いている。テレビ離れが進む中、西の果て長崎で「君ここ」の一大現象を巻き起こしたドラマの撮影は、地方の観光の可能性がまだ十分に残されていることを実感するきっかけとなっている。

長崎の街は「まるで物語の世界」

ドラマで長崎が舞台となることは、脚本家の宇山佳佑さんが監督とプロデューサーに提案したことから始まった。宇山さんが長崎を初めて訪れたのは5年ほど前のこと。長崎駅から車に乗って目的地へ向かう際、その街並みに心を奪われたと話す。

ロケ地となったグラバー園 旧三菱第2ドッグハウスより長崎港(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)
ロケ地となったグラバー園 旧三菱第2ドッグハウスより長崎港(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)
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脚本家 宇山佳佑さん:
路面電車が街を行き交い、港には大きな客船が停泊している。湾を挟んだ向こうには稲佐山の青々とした緑と、山の斜面に沿って家々が建っている。

それに造船所のクレーンの風景も素敵でした。大通りから少し入ると異国情緒あふれる建物や石畳の道が広がっていて、教会と寺院の鐘の音が同時に聞こえてくる。まるでなにかの物語の世界に足を踏み入れたかのような気持ちになりました。

街の中心は現代的なのに、そのすぐ傍には趣ある洋館や中華街、旧香港上海銀行のような歴史ある建造物があって、様々な文化がひとつの街の中で同居している光景は非常に魅力的でした。

「この道を登場人物たちに歩かせたい」「こんな洋館に住んでいる人物を書いてみたい」と思わせる魅力が長崎には詰まっていました。

 
 ロケ地となった崇福寺電停(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)
ロケ地となった崇福寺電停(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)

路面電車、港の風景、石畳、和洋中の歴史的建造物。すべてがドラマに登場し、物語を盛り上げるエッセンスとなった。長崎人には当たり前の風景が、違った切り取り方でドラマで登場すると、街の美しさを再認識した。観光資源としてのポテンシャルの高さに改めて気づかされたのだ。

地元が気づけなかった観光資源

長崎は観光地だけに地域資源のポテンシャルは全国的にも秀でている。今回のロケでも多くの観光地が登場した一方で、長崎人にとっても意外な場所がクローズアップされることとなった。

そのひとつが諫早市の「結の浜マリンパーク」だ。穏やかな波と美しい海が魅力の人工ビーチ。県民にとっては海水浴場としての認識が強い。「朝日」としてのロケ地のポテンシャルは見いだすことは難しかったと話すのは、ロケに携わった長崎県観光連盟の佐藤壮さんだ。

結の浜マリンパークでのメイキングシーン
結の浜マリンパークでのメイキングシーン

観光地として新しい可能性を見いだせたのは2カ月以上に渡るドラマスタッフのロケハンによる成果である。天候に左右されながらも幾度となく朝日を狙い、撮影に挑んだマカロンのシーンは、視聴者をはじめ地元関係者にも深い印象を与えた。

ロケ地となった祈念坂(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)
ロケ地となった祈念坂(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)

佐藤さんは「異国情緒あふれるロケーションが多く、今回のドラマでも撮影直前までロケ地の選定に時間を要した。歴史的に中国、オランダの影響を強く受ける長崎特有の「和華蘭文化」が融合してできた景観は様々なシチュエーションにも対応できる最大の強みだと感じた」という。

コミュニケーションが生まれているロケ地

雨ちゃんのおばあちゃんの家として使われた「東山手甲十三番館」。2月の来館者数は9000人と過去最高を記録した。

聖地巡礼で賑わう東山手甲十三番館
聖地巡礼で賑わう東山手甲十三番館

ロケ地を訪れると、ロケに携わった地元の人たちが撮影の様子をたくさん話してくれる。本来の観光地にロケ地という新たな付加価値がついたことで観光客の好奇心をかき立て、現地の人とのコミュニケーションも生まれて旅の満足度を高める要因につながっている。

ドラマの世界観が観光スタイルを変える

ドラマ放送中に製作された「ロケ地マップ」は大好評で、2万部が増刷されるほどの人気だ。このマップを片手に、ロケ地では聖地巡礼をする姿が続いている。東山手甲十三番館をはじめロケ地の多くが「居留地」と呼ばれる東山手、南山手のかつて外国人が住んでいたエリアに点在している。

ドラマが佳境に入った3月上旬、このエリアにロケ地になったことを紹介する手作りの「案内板」が設置された。取り組みを進めたのは、同エリアの街づくりを推進する長崎居留地歴史まちづくり協議会だ。案内板は、十三番館をはじめグラバー園や孔子廟などに設置され、このブームを一過性に終わらせることなく、居留地の魅力を伝え続けたいとしている。

手作りの案内板を設置
手作りの案内板を設置

協議会の担当で長崎市まちづくり事業推進室の平山広孝さんは、今回の聖地巡礼は長崎観光のスタイルに変化をもたらしていると話す。

これまでの長崎観光は代表的なスポットに観光客が集中し、滞在時間が短いことが課題だった。君ここの聖地巡礼ではロケ地マップを片手にエリア全体をドラマの世界観に浸りながら巡り、長い時間をかけて長崎観光を楽しむ姿を多く見かけるようになっている。

ロケ地マップを片手に聖地巡礼
ロケ地マップを片手に聖地巡礼

聖地巡礼者が増えていることで、新しい試みにもつながっている。地元の若者からなる民間の観光案内所「HUBs Iashibashi(ハブス石橋)」では居留地エリアのロケ地巡りツアーを企画した。この日は雨だったが、「雨」もドラマの世界観を引き立て、「雨=君ここ=長崎」で思い出深いツアーになったと話す。

思い思いの発信が聖地巡礼につながる

ドラマで地元の良さに気付いた人たちがSNSなどで自由に発信していることも、一大現象の盛り上げに大きな影響を与え、観光客誘致につなげようと自治体も力を入れている。

第2話で登場した佐世保市の「九十九島観光公園」は、永野芽郁さんも「寒すぎて思い入れのあるロケ地」として挙げた場所だ。

ロケ地となった九十九島観光公園(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)
ロケ地となった九十九島観光公園(写真提供:(一社)長崎県観光連盟)

極寒のロケで山田裕貴さんが暖房器具でまつげと前髪が燃える事件を、山田さん自身もラジオでエピソードを語り、さらにその様子を佐世保・小値賀の観光サイトのブログでも発信すると、ブログの視聴回数は4万回に迫る勢い。訪れる人も増えているという。

稲佐山から見下ろした長崎市内の街並み
稲佐山から見下ろした長崎市内の街並み

観光地としてはもちろん、ロケ地としても長崎のポテンシャルを大いに引き出してくれた「君が心をくれたから」。聖地巡礼がテレビと地元が連携した新しい長崎観光スタイルの定着につながることが期待されている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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