4つの市民襲撃事件で死刑判決を受けていた特定危険指定暴力団「工藤会」トップの控訴審で、福岡高裁は一審判決の一部を破棄し、野村悟被告(77)に無期懲役を言い渡した。
トップ・野村悟被告 控訴審判決
2024年3月12日、野村被告らの控訴審が開かれた福岡高裁。多くの警察官が配備され、ものものしい雰囲気となった中、午前10時開廷。ともにダークスーツを身にまとい、落ち着いた様子で法廷へと姿を現した特定危険指定暴力団「工藤会」総裁・野村悟被告とナンバー2で会長の田上不美夫被告(67)。
一審では野村被告が死刑、田上被告が無期懲役の判決を受ける中、福岡高裁は野村被告に対する部分を破棄。4つの事件のうち、元組合長事件は無罪、ほか3つの事件についてを有罪とし、無期懲役を言い渡した。
一審判決の破棄が言い渡されると、野村被告は少し体を前に乗り出し、裁判長の顔を食い入るように見つめていた。
“死刑弁護人”迎え控訴
起訴状によると、野村被告と田上被告は共謀し、1998年、大型港湾工事などへの影響力を持っていたとされる元漁協組合長・梶原国弘さん（当時70）を利権獲得のため射殺した殺人事件と3つの殺人未遂事件の、あわせて4つの市民襲撃事件を起こしたとされている。
逮捕後、野村被告らは一貫して全面無罪を主張。対する検察側は元組員など延べ91人の証人尋問を行い、工藤会が会長の田上被告ではなく、総裁の野村被告の指示なしに事件を起こせない“上意下達”の組織であることを立証した。
2021年8月、一審判決で福岡地裁は“推認”という言葉を39回用いたうえで、野村被告を4つの事件の「首謀者」と認定した。
足立勉裁判長：
量刑判断の中心となるのは元組合長事件である。被害者1名の殺人事件におけるこれまでの量刑傾向をみると、保険金目的殺人等において死刑の選択がされる傾向が認められる。しかも、それが反社会的集団である暴力団組織により計画的に実行されている点において、特段の事情がない限り、被告人野村に対しては極刑を選択すべきである
そう断罪し、関与を裏付ける直接的な証拠がないまま殺人事件の首謀者であることを決め手として、史上初めて指定暴力団のトップに死刑判決を言い渡した。
しかし、無罪を主張する野村被告と田上被告は控訴、新たに「死刑弁護人」の異名で知られ過去に死刑判決を覆したこともある安田好弘弁護士を主任弁護士に迎えた。
一審判決の一部を破棄 「無期懲役」に
2023年9月から始まった控訴審。野村被告は一審同様、全面無罪を主張したが、田上被告は看護師と歯科医師が工藤会組員から襲われた事件について、当時組織ナンバー3の菊地敬吾被告(51)に“独断で犯行を指示した”と主張を変えた。
控訴審 第2回公判・田上被告：
私も否認すれば（無罪主張が）通ると思ってました。被害者のこと、家族のこと、総裁のこと、いろいろ考えました。自分の判断で総裁まで巻き込むこととなり本当に申し訳ない気持ちです
さらに弁護側は、元漁協組合長が射殺された事件については工藤会の元幹部たちが独断で実行したと主張した。
一方、検察は4つの事件のいずれについても「野村被告と田上被告の共謀を認めた一審の判決の判断に不合理な点がないことは明らか」と主張し、控訴を退けるよう求めていた。
そして、3月12日の控訴審判決。一審の野村被告の死刑判決について福岡高裁は、一審判決の一部を破棄した。
福岡高裁の市川太志裁判長は、死刑判決の決め手となった1998年の元漁協組合長射殺事件について野村被告を無罪とし、無期懲役の判決を言い渡した。一方、田上被告について福岡高裁は控訴を棄却し、一審と同じく無期懲役とした。
なぜ野村被告だけ元漁協組合長射殺事件について無罪と認定したのか。
市川太志裁判長：
元組合長事件については、田上被告の共謀に誤りはない一方、野村被告については共謀について論理則、経験則に照らし是認できない。破棄は免れない
市川裁判長は、元漁協組合長殺害を実行犯らに指示できるのは野村被告と認定した一審判決について、当時、実行犯となった工藤会傘下組織の意思決定のあり方が不明で「野村被告の指示がないと犯行が実行されない組織であったということはできない」としたうえで「事実誤認がある」と指摘した。
野村被告は、うなずきながら判決を聞いていた。
その一方、福岡高裁は工藤会捜査を担当していた福岡県警の元警部が銃撃された事件など3つの市民襲撃事件については、野村被告が「工藤会の実質的な最上位者として指揮命令し実行させた」と認定している。
判決を受けて弁護側は有罪部分についてすべて不服とし、即日上告していて、検察側は「判決内容を十分に精査し適切に対処したい」としている。
（テレビ西日本）
