「黒いギャング」と呼ばれる鳥・カワウが世界遺産のある宮島に居座わり、貴重な原生林を枯らしている。広島県や廿日市市が対策を取っているが効果はなく、かえって被害が拡大してしまう悩ましい現状が続いている。
テープに慣れた? 対策に効果なし
宮島沿岸で羽を休める無数の黒い鳥。
五十川裕明 記者:
飛び立った、飛び立った!黒い集団が一気に飛んでいきました。数百ではないですね。1,000羽はいますか
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一斉に飛び立った鳥の正体は「カワウ」。冬の時期、宮島は広島県内最大のカワウの寝床となっている。その数は推定で数千羽。カワウのフン尿には酸性の物質が含まれるため「神の島」の原生林は枯れ、復元できない状況に陥っている。
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1月、廿日市市と県は警戒心の強いカワウを追い払おうと、寝床となっていた杉の浦地区の木々に「テープ」を張りめぐらせた。
対策から1カ月、再び寝床を訪ねてみると…
五十川裕明 記者:
以前は島の表側にいましたが、島の奥のほうからカワウがどんどんわき上がってくる感じです。前よりも数が増えていますね。数分間、次から次へとカワウが飛んでいきます
テープ対策の効果はほぼなくなり、カワウの大群は何事もなかったかのように寝床を奪還していた。
五十川裕明 記者:
テープを張った場所も、カワウのフンで白くなった部分が増えています。そして、においもひどくなっています。1カ月前、においはありませんでした。磯の香りとも違う腐ったようなにおい、鼻につく異臭が辺りにまん延しています
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宮島漁協・丸本孝雄 組合長:
もうテープに慣れとるんかもしれんね。以前はテープを張った時点でほとんどいなくなったんですよ
専門家「森林の保全が裏目に…」
瀬戸内海は冬場でも餌となる魚が豊富なため、カワウは関西方面などから飛来してくるとみられている。宮島ではここ数年、個体数が急増。対策を取っても寝床を移動しながら同じ場所にとどまり、根本的な問題解決にはつながっていない。
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その理由を専門家はこう話す。
水産研究 教育機構・坪井潤一 主任研究員:
森林がすごく保全されている点があると思います。複雑な地形ですと、風の裏側に入れる「風裏」ができるんですよね。だからカワウは杉の浦地区のように「浦」のつく場所にたまる。テープをちょっと張られたくらいでは諦めてくれません
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さらに、宮島漁協の丸本さんは「カワウの寝床の範囲が広くなっている」と指摘。1月のテープ対策で元の寝床を離れたカワウが、島の東側の包ヶ浦地区に居場所を見つけ、新たな原生林に被害をもたらしていた。
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宮島漁協・丸本孝雄 組合長:
少しだからいいかなと思っていたが、今見るとどうにもならんわ。何年かのうちには全部枯れて岩肌が出るようになるでしょう
海の魚を食べる「食害」も深刻
2月19日、丸本さんの姿は広島市内にあった。年に一度、県が開くカワウ対策協議会に出席するためだ。
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広島県 水産課・横内昭一 水産技術担当監:
瀬戸内海全体の要望として国にあげてはいるのですが、国にもなかなか具体的な対策がないというところ
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2023年12月の調査で、カワウは広島県全体に冬場で約7,000羽が生息。フンの被害以外にも、水に潜ってアユやメバルなどの魚を食べる「食害」が深刻だ。
出席した自治体の担当者や漁業関係者らは「捕獲」を含めた対応を話し合った。
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日本野鳥の会 広島県支部・日比野政彦さん:
持続的に対策を取らない限りは、相手は生き物ですからすぐに戻ってくる。たくさんいるから問題だという迎合的な話ではなく、正確なモニタリングデータに基づいた対策を
廿日市市が本格的な“捕獲”を検討
被害を減らそうと、県は空気銃などを使い、年間1,000羽程度の個体を捕獲している。それでも、カワウが飛来し続け、宮島の原生林が失われていく現状に専門家も警鐘を鳴らす。
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水産研究 教育機構・坪井潤一 主任研究員:
テープを張ると景観が悪くなるとか、エアライフルで撃つと樹木が痛むとか言ってられない状況だと思います。このままいくと本当に枯れてしまうので
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島全体が特別史跡と特別名勝に指定されている宮島は、自然保護に法的な制限があり、個人で対策を取ることはできない。廿日市市は3月、国などの許可を得て、カワウの捕獲作業に乗り出すことも検討している。
宮島漁協・丸本孝雄 組合長:
カワウがいなくなる対策がまだまとまらないので時間がかかるかもしれませんけど、諦めずに追い払い続けていくしか今は手がないですね
“豊かな自然”の裏返しではあるが、皮肉にもカワウに気に入られてしまった宮島。カワウは県をまたいで飛んでいくため、広島県や廿日市市だけで対策できる問題ではなさそうだ。繁殖地などの実態を解明して都道府県の連携が求められる。
(テレビ新広島)