2024年は4年に1度のうるう年で2月が29日まである。この「うるう年」とは別に、「うるう秒」があることを皆さんは知っているだろうか。
「うるう秒」とは、“地球の自転によって決まる時刻”と“原子時計によって決まる時刻”のズレを修正するもの。わたしたちの日常生活に影響がないよう、不定期で1秒追加する形で実施されてきたが、実は2035年までに“廃止”される方針なのだ。
ということは“うるう秒の廃止”に伴って、将来的にはうるう年がなくなったりするのだろうか?また、そもそも「うるう秒」はなぜ存在するのか?
気になる疑問を明石市立天文科学館の井上毅館長に話を聞いてみた。
「うるう秒」が調整してきたもの
――「うるう秒」とはどんなものなの?
一言で言うと、「天文時」と「原子時」の調整です。
太陽が昇って真南にきたらお昼の12時というように、昔から人類は天体の動きで時刻を決めてきました。このような天体の動きを利用した時刻を「天文時」と言いますが、これは地球が自転している周期に対応しています。
普段の生活においては、天文時でよかったのですが、20世紀に入ると天体観測の結果や高精度な時計が出現することにより、地球の自転にわずかな遅れ・進みがあることが分かったのです。
1967年には「1秒」の定義がセシウム原子時計に基づく「原子時」に改められました。時計としては正確で安定した「原子時」を使いたい。一方で日常生活は、太陽が昇って沈むのに合わせて「天文時」を使いたいですよね。そこで、正確な原子時計とふらつく地球の自転のズレを解消する必要があります。
そのズレを調整するために1秒挿入されるのが「うるう秒」なのです。うるう秒で調整された時刻を「協定世界時」といいます。
――うるう秒を入れる判断はどのようにしているの?
地球の自転は平均すると1日に約1000分の1秒遅れる傾向です。1000日たつと1秒の差、つまり3年ほどで1秒のズレが発生します。おおむね3年に一度のペースですが、これには不定性があります。そこで、地球の自転の遅れ進みを世界中の天文台が観測しています。
そして、天文時(正確には世界時UT1)と協定世界時とのズレが0.9秒の範囲を超えそうだったら、うるう秒を入れる判断をします。うるう秒の調整は、1972年に開始されてから2024年までに27回実施されました。
――うるう秒を挿入するタイミングはどのように決めているの?
うるう秒挿入が決まったら半年前にアナウンスされます。実施されるのは、6月の最後か12月の最後、翌日の0時になる直前です。これはイギリス・グリニッジの世界標準時を基準にしているので、イギリスと9時間の時差がある日本では、6月の場合だと7月1日の午前9時直前、12月の場合だと1月1日の午前9時直前になりますね。
――うるう秒が廃止されてしまうと、「天文時」と「協定世界時」はズレたままになるということ?
うるう秒挿入のために決めていた「天文時と協定世界時のズレの許容値は0.9秒以内」をやめ、“ズレの許容値”を広げる議論をしようとしています。これを実質「うるう秒の廃止」といっているのです。
数年に一度ずつ挿入する必要がある「うるう秒」の代わりとして、100年くらいは調整不要な「ズレの許容値」を定め、今後「うるう分」や「うるう時間」などが導入される可能性もあります。
――もしこのままズレが調整されなかったらどうなるの?
はるか未来の話になりますが、地球の自転と時刻が切り離されれば、当然日が昇る時間が変わってきます。1世紀で1分、1000年で10分、6000年後は1時間ズレた時間を人類は使うことになってしまう。将来に対して無責任なのではと、心情的な問題が出てきますね。
ただ、これから宇宙時代。例えば火星に人が移り住むような時代になるかもしれません。そんな中、地球の自転による秒よりは、宇宙全体に流れる時刻で暮らしたいと考えるのが自然なのではという論調もあります。
わたしとしては、今の時刻は地球の自転に根ざしている安心感があるので、それがズレてしまうのはいやだなぁという思いがありますね(笑)
現実的には、将来にズレの解消の必要性が生まれてもローカルタイムの調整というところに落ち着く気がします。
不定期なうるう秒調整で大変な業界も
――うるう秒はどのように挿入されている?
うるう秒を入れる方法は、基本的には「60秒」が入る形です。日本の標準時午前9時直前に挿入する場合、午前8時59分60秒が追加されます。
――うるう秒がなくなると、どんな良い影響があるの?
うるう秒の調整は不定期に発生します。事前に想定できないタイミングで時刻の流れが不規則になるので、IT業界は大変だと思います。
過去にはうるう秒の調整で航空機の搭乗予約システムがダウンし、フライトに影響を与えた事例もありました。このようなインシデントのリスクががなくなるという意味では、うるう秒がなくなることを歓迎する人はかなり多いでしょう。
春分や秋分の日の決定は、地球自転の影響から解き放たれるので、かなり長期にわたり予想できるようになるでしょう。
――うるう秒がなくなると、困ることはないの?
天体観測をするときは、現在の時刻・場所でのデータを参照して星の方角を探しますので、地球の自転を含んだ時刻の情報でないと困ったことになります。日時計も徐々に合わなくなるでしょう。
また、システムによってはうるう秒を前提として組んでいるケースも存在します。そうした場合は変更が余儀なくされるでしょう。
うるう年は永遠?
――では、「うるう年」と「うるう秒」に何か関係があるの?
うるう年とうるう秒では、2つの基準となる周期を調整する意味合いが共通しています。天文時と原子時のズレを調整するのがうるう秒ですが、うるう年は地球の自転と地球の公転のズレを調整するものです。
地球は1日1回転、24時間かけて自転します。そして地球が太陽の周りを公転するときは、365日と約6時間かけて元の場所に戻ってきます。
4年たつと、6時間×4年で24時間分の余りが出ますので、1日足してあげないと季節と暦がズレていってしまいます。4年に1度のうるう年が1日多いのはそのような理由です。
――うるう秒がなくなる影響で、うるう年がなくなることはあるの?
うるう年は永遠だと思います。現在のうるう年は太陽の動きをもとにして作られたグレゴリオ暦で、1582年に導入されたものです。4年に1度だけではなく、400年に3回うるう年を外すという、かなり丁寧な調整をしています。廃止されることはないと思います。といいますか、うるう年はないと困りますね(笑)
日常生活に影響のないように挿入されるため、意識しないと存在をほとんど気にかけることのない「うるう秒」。調整される時間はわずかに感じるかもしれないが、うるう秒があったからこそ、天体の動きと時刻が結びつき、星に基づいた時刻で生活する基盤ができていた。
うるう秒に代わり、今後どのようなズレの調整が行われるのかにも注目したい。