福井市が制作した観光PR動画が「政教分離違反」にあたるおそれがあるとして、公開5日で市が削除した。動画で紹介した「テクノ法要」が宗教行為にあたり、宗教的中立性に違反する可能性があるというのが理由だ。
行政が保つべき宗教との距離を専門家に聞いた。

海外からも人気の“テクノ法要”

福井市にある浄土真宗本願寺派・照恩寺の朝倉行宣住職は、7年前からテクノ法要と名付けた独特の法要を行っている。

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「テクノ」とはシンセサイザーなどの電子楽器でつくられた音楽で、テクノ法要はこの音楽に合わせてお経を読む。本堂内ではレーザーや浄土をイメージしたプロジェクションマッピングを照射し、音と光でこれまでにない独特の空間を演出する。

このテクノ法要は新しい時代の法要として、若い世代を中心に支持を広げている。さらにインターネット上に動画を公開したところ、海外からも注目を集めている。朝倉住職はフランスやアメリカの大規模イベントなどにも招かれている。

公開5日で動画が削除…中立性に違反

北陸新幹線の福井開業が3月に迫る中、福井市は海外向けのPR動画を作成し、1月に動画投稿サイトにアップした。動画の中でこのテクノ法要も紹介。新型コロナウイルス感染症による行動制限が解除され、増加する海外観光客にも福井市をPRする狙いがあった。

しかし公開から5日後、福井市が突如、ネット上から動画を削除した。福井市に聞くと、「政教分離の原則」が関係しているからだという。

福井市おもてなし観光推進課国際室は「福井市の顧問弁護士から『政教分離の観点から問題のおそれがある』と指摘され、トラブルを未然に防ぐため停止の措置を取った」と述べている。

「政教分離の原則」は日本国憲法第20条に規定され、国家に宗教的中立性を求めるものと解釈される。福井市はテクノ法要を取り上げることが「特定の宗教を援助・助長しているととらえられる可能性がある」とし、政教分離の原則に違反するおそれがあるとした。

一方、テクノ法要を行う朝倉住職は福井市の判断について理解を示した。

照恩寺・朝倉行宣住職:
行政の指針として、宗教活動を支援となることは好ましくないと承知している。今回の市の判断は妥当。テクノ法要が宗教活動だとするならば仕方ないこと

朝倉住職は6年前、独立行政法人「国立文化財機構」が設置する東京国立博物館でテクノ法要を行った実績がある。

照恩寺・朝倉行宣住職:
テクノ法要は見方によって芸術的な側面でとらえてもらうこともあり、国立博物館でも行った経緯がある。寺だから宗教でなく、観光で見に行くこともある。そんな側面でとらえてもらってもいいのでは

“ワンクッション”がカギに

宗教や文化などを研究する上越教育大学大学院の塚田穂高准教授(専門・宗教社会学)に話を聞くと、「公金が投入されているので、慎重に中立性・公平性を確保しなければならないので、市が直接紹介するのは厳しい。内容や形式面で特定宗教色が強い」と話す。

寺を訪れる目的は参拝、拝観など人それぞれ。行政が宗教関連施設を観光スポットとしてPRしたい場合は、どのような措置をとる必要があるのか。

上越教育大学大学院・塚田穂高准教授:
観光協会のような一般社団法人が扱うと民間性が強い。自治体そのものでないところが主体となり動画作成をするなど、ワンクッションかませた進め方を模索するべき

福井県内には宗教を想起させる観光施設がある。例えば曹洞宗の大本山永平寺がある永平寺町では、寺周辺の道の駅などは町から委託を受けた民間の会社が運営している。

また、塚田准教授によると「パワースポット」という言葉も宗教的な場所を指すという。行政が聖地として寺や神社など直接PRできないため、“緩衝材”として使用している一例だと話した。

(福井テレビ)

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