新春恒例の宮中行事「歌会始の儀」が1月19日、皇居・宮殿「松の間」で行われ、天皇皇后両陛下、秋篠宮ご夫妻をはじめ皇族方が出席されました。年の初めに共通のお題で和歌を詠み披露する「歌会始」。2024年のお題は「和」です。

歌会始の儀
歌会始の儀
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明治7年以降、広く一般の人からも歌を募っている「歌会始」。今回、海外も含め、約1万5千首の一般応募があり、その中から選ばれた10人の歌が、古式ゆかしい節回しで詠みあげられました。

能登半島地震の被災地に心を寄せられる両陛下

石川県の宮村瑞穂さん、32歳の歌です。

花散里が 一番好きと 笑みし友 和服の似合ふ 母となりぬる

源氏物語の登場人物で穏やかで慎ましい性格の「花散里」が好きだった大学時代の友人が、2023年、出産して母になったことを詠んだ歌です。

石川県かほく市役所に務める宮村さんは、能登半島地震のため、この日の参加をためらったそうですが、「こういう時期だからこそ行って、石川の話をしてきてほしい」と上司に背中を押され出席を決めたそうです。

宮村瑞穂さん
宮村瑞穂さん

歌会始後に行われた懇談で、天皇皇后両陛下は宮村さんに被災地を気遣う言葉をかけられたといいます。

宮村瑞穂さん:
まず天皇陛下から、この度の能登地震のことをご心配してくださるお声がけをいただきまして、奥能登の方は本当に大変なことになっておりまして、そのことをお伝えしましたところ、お二人とも本当に心から心配してくださっている表情で、相づちをうちながらお話を聞いてくださいました。本当に心の底から能登半島地震のことを心配してくださっているのだな、お心を寄せてくださっているんだなというのが伝わってきました。

今年の皇族代表に選ばれた 承子さまの歌

一般の入選作に続き、皇族代表として高円宮家の長女・承子さまの歌が詠みあげられました。

突然に 和鳴(わめい)にぎやか 秋空を 烏もどりて 夕暮れを知る

時折訪れる神社の杜で、カラスが戻ってくると15分ほどで辺りが暗くなり、それが正確な日暮れの時報のようだと感じたことを詠まれています。

高円宮家の長女・承子さま
高円宮家の長女・承子さま

歌会始の選者で、皇室の和歌の相談役・宮内庁御用掛も務める永田和宏さんは、この歌について次のように解説しました。

永田和宏さん:
「和鳴」という言葉は、鳴き交わすということですよね。その「和鳴」の使い方がとてもユニークで面白かったです。よく勉強されていて、面白い言葉を引き出してこられたと思いますし、とても素直な歌ですけども「和鳴」という言葉でうまく生きていると思いますね。

「歌会始」選者の永田和宏さん
「歌会始」選者の永田和宏さん

秋篠宮家の次女・佳子さまは紅葉について詠まれました。

待ちわびし 木々の色づき 赤も黄も 小春日和の 風にゆらるる

毎年、紅葉を楽しみにされている佳子さま。2023年12月の小春日和の日に、色鮮やかな葉が風に揺れる情景をご覧になり、歌にされました。

永田和宏さん:
本当に素直な歌で、叙景歌としては非常に優れた歌になっていると思いますね。

2023年12月 赤坂御用地を散策し紅葉を楽しまれる佳子さま
2023年12月 赤坂御用地を散策し紅葉を楽しまれる佳子さま

学業を優先し今回も出席を控えた、両陛下の長女・愛子さまが寄せられた歌です。

幾年(いくとせ)の 難き時代を 乗り越えて 和歌のことばは 我に響きぬ

学習院大学文学部で、日本文学を学ばれている愛子さま。大学の授業で学んだ中世の和歌が、戦乱の世も越え、千年の時を経て、現代に受け継がれていることに感銘を受けたことを詠まれました。

2023年11月 宮内庁書陵部で「百人一首」の写本を読まれる愛子さま
2023年11月 宮内庁書陵部で「百人一首」の写本を読まれる愛子さま

永田和宏さん:
単に和歌を習っただけではなくて、それを今、自分が作っているというところで、この歴史が綿々と続いてきた、こんな難しい困難な時代をこれだけ生き継いでくれたんだという、ある種の喜びと、それに自分が携われる喜び。そういうことが一緒に歌われているんじゃないでしょうかね。

愛子さまを通じて平和を願われた 皇后さまの歌

皇后さまの歌です。

広島を はじめて訪(と)ひて 平和への 深き念(おも)ひを 吾子(あこ)は綴れり

愛子さまは、中学の修学旅行で初めて広島を訪れ、平和の大切さを肌で感じ、卒業文集に
「世界の平和を願って」という文を綴られました。日頃から陛下と共に、平和を大切に思う気持ちが末永く受け継がれていくことを願われている皇后さまは、この作文を感慨深く思い、歌にされました。

永田和宏さん:
得てして「平和」という言葉で歌を作ろうとすると「平和は大切」「平和を守らなければならない」という形に行きやすいのですが、この場合は、我が子を通じて、我が子が平和ということを学んでくれた、その喜びを母親として感じておられる。ここがすごく、この歌としては大事なところではないかなと思いますね。

平成29(2017)年3月 学習院女子中等科の卒業式に臨まれる愛子さまと両陛下
平成29(2017)年3月 学習院女子中等科の卒業式に臨まれる愛子さまと両陛下

皇后さまの歌には、若い世代に平和の大切さが受け継がれていくことへの願いも込められていると永田さんは解説します。

永田和宏さん:
愛子さまの世代、昭和が終わって平成というのは、一度も戦いの経験をしたことがない時代でしたので、実際になかなか若い人たちに平和というものを真剣に考える糸口がなくなってきている。そのような時に、やはりそういう現場に行ってその悲惨さを知るということが大事で、特に今の世界情勢を見ると、若い人がそれを考えてくれるように願っている思いもあるんだろうと思いますね。

全国各地での交流を詠まれた 陛下の歌

皇太子時代から47すべての都道府県を訪問している陛下は、全国各地への訪問で、温かい歓迎を受け、様々な人たちと交流できた喜びを詠まれました。

をちこちの 旅路に会へる 人びとの 笑顔を見れば 心和みぬ

平成25(2013)年8月 仮設住宅で住民と交流される両陛下(宮城・七ヶ浜町)
平成25(2013)年8月 仮設住宅で住民と交流される両陛下(宮城・七ヶ浜町)

永田和宏さん:
大変な災害に遭った方とかをお見舞いされるわけですが、そういうところで笑顔を見るとほっとするという、そこのところを「和む」という言葉で歌われていて、そこで出会った人々、あるいはいろんな苦難の場にいる人々にとっては大きな励ましになるんです。それがまた陛下が「慰問の旅」「励ましの旅」を続けられる一つの力にもなっているんだと。そういうことをお詠みになっていると思いますね。

両陛下、皇族方、それぞれの思いが込められた歌が披露された「歌会始の儀」。来年、2025年のお題は、「夢」に決まりました。一般の応募は9月30日まで宮内庁で受け付けています。
(「皇室ご一家」1月28日放送)