愛媛県の新文書の波紋
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題。安倍首相が3年前に加計孝太郎理事長と面会し、獣医学部新設について説明を受け、「新しい獣医大学の考えはいいね」と発言していたなどと記された愛媛県の新たな内部文書が、5月21日に国会に提出された。
安倍首相は面会や発言を否定し、加計学園も面会を否定するコメントを発表しているが、愛媛県の中村知事は文書の信頼性を強調し、野党の追及は激しさを増している。
猛反発の野党
立憲民主党の辻元国対委員長は、「総理が知らないわけないと思っていたことが裏付けられた。嘘を嘘で上書きして書き直そうとしても無理だという事ではないか」と批判し、共産党の小池書記局長も、「首相の進退に関わる重大な事実。加計ありきではなく、安倍ありきであることがはっきりした」と政権退陣に直結する事案だとしている。
改めて整理すると、野党が問題視しているポイントは2つだ。
1.安倍首相が嘘をついているのかどうか
2.加計学園の獣医学部設置をめぐり、行政がゆがめられたのかどうか
愛媛県の新文書を踏まえ、この2点について検証してみたい。
愛媛県新文書の内容は真実か…白黒をつける方法は
今回の愛媛県新文書が真実なら、安倍首相が加計学園の獣医学部新設計画を知った時期は、これまで国会で答弁していた「2017年1月」ではなく、加計氏から計画を聞かされ「いいね」と言った「2015年2月」ということになる。すると、安倍首相がこの会話を忘れていたのでない限り、国会で嘘をついたことになる。
では、新文書にある安倍首相と加計理事長の会話が真実かを確かめるにはどうすればいいか。カギを握る人物は
1.安倍首相
2.加計理事長
3.愛媛県職員にこの話を伝えた学園関係者(事務局長)
4.文書を作成した愛媛県職員
の4者ということになる。
この中で、安倍首相はすでに面会や発言を否定した。
一方の愛媛県職員については、中村知事が「ありのまま県職員が聞いたことをメモにした」と述べているように、文書に書かれた内容を学園関係者から確かに聞いたとの立場を間接的に示している。
残るキーマンは加計理事長と学園関係者ということになる。

自民党長老も前知事も『加計学園の人が本当か話してもらわないと』
自民党の長老・伊吹元衆院議長は24日の派閥総会で次のように述べた。
伊吹氏「愛媛県はたぶん聞いた話をそのままメモにして残してたと思いますよ。しかし愛媛県が総理と会ったわけじゃないのよ。愛媛県の担当者のメモに出てくる話をした加計学園の人が、それが本当かどうかということを話してもらわないといけない」
また、加計問題に関し、一貫して安倍政権を擁護する姿勢を示している前愛媛県知事の加戸守行氏は、文書の内容は「伝聞の伝聞だ」と指摘した上で、FNNの取材に対し、次のように述べた。
加戸氏「ポイントは加計の事務局長が愛媛県・今治市側に、うちの親分(加計理事長)は、総理に会って話したら「いいね」!と言ってもらったよってことだけでしょ?あれが正しいのか。全く架空の話なのか、それはもう加計の事務局長に聞くしかない。事務局長は言わなかった、(愛媛県側が)意味を取り違えたというような話じゃないか」
加戸氏は、加計学園の事務局長が話せば真実がわかるとして、そこで話す内容まで予想してみせた。
さらに加戸氏はもう1人の当事者、加計理事長についても
加戸氏「国民が今、納得するとすれば、加計さんが出てきて、親友だけれども一度も言ったことはありませんと、国会で胸を張って言えばいい話ですよね。ただ、そこまでやるんですかと。犯罪でもなんでもない人を証人喚問して、いつから国会は弾劾法廷と化したんですか」
このように加計氏に何らかの形で証言してほしいとの意向を示した。
加計理事長や学園事務局長が証言すれば、白黒がつくのではないかという指摘。今後、両者が事実関係を明らかにする機会を求める声は強まるかもしれない。
ただ、野党側は加計氏の証人喚問を求めているものの、必ずしも証言で真相の白黒がつくとは考えてはいない。
むしろ、愛媛県側には証拠の文書があるのだから、安倍首相側が面会や発言内容を否定するなら、記憶ではなく具体的な証拠をもって証明すべきだと要求している。
しかし政府与党は「ないことの証明」は難しいとしていて、真に白黒がつく見通しは依然立っていないのが現状だ。

行政はゆがめられたのか
では、獣医学部新設の過程で行政がゆがめられたのかについてはどうだろう。
野党側は、今回の新文書を受け、「獣医学部新設が初めに加計ありき、官邸ありきで始まったことが新文書で明らかになった。首相案件、官邸の最高レベル、総理のご意向という文言の信ぴょう性はより深まった」(立憲・福山幹事長)と指摘し、首相の意向を受けて、あるいは忖度して、行政がゆがめられたとの見方を強めている。
一方、加戸前知事は、加計学園の獣医学部の新設は、行政がゆがめられたのではなく、逆に獣医師会の反対による岩盤規制という行政のゆがみが、安倍政権の政策によって正されたのだと強調している。加戸氏はこう言う。
加戸氏「(第一次)安倍内閣、福田内閣、麻生内閣で、(特区での獣医学部新設について)けんもほろろな扱いが、鳩山内閣になって、民主党の議員らが動いた途端に、「対応不可能」から「平成22年度実施へ向けて検討」となってね。うわー、来年にはできるぞっと思ったら、獣医師会の議員連盟が結成され、68名の民主党議員が出席してね。途端に言葉は22年が23、24に代わるだけで、8年間ずるずるきた。自民党も、獣医師議員連盟にみんな既得権益でギューッと縛られていたから、私も自民党に腹が立っていたのよ。で、民主党に期待していた。それがひっくり返って、なるほどなと。国家戦略特区は、ある意味で政治の正しさというか、こういう仕組みを作った第二次安倍内閣を高く評価してますよね」
と述べて、行政のゆがみは、むしろ岩盤規制を守る側の獣医師会と、その獣医師会に支援されてきた国会議員達にあったのだとの見解を示している。
安倍首相もこうした加戸氏の主張と歩調をあわせていて、野党側の主張とは真っ向から対立している。
加計学園問題が国会で取り上げられてから1年あまり。本質ともいえる、「行政のゆがみとは何か?」という議論は深まらない状況が続いている。
(政治部 中西孝介 福井慶仁)