兵庫県芦屋市で今年5月史上最年少市長として就任した髙島峻輔氏(26)。灘高、東大、ハーバード大学卒業ときらびやかな経歴を持つ髙島氏が、最もこだわりたいテーマが「教育」だ。しかし、その一丁目一番地と言える教育委員の人事案が今月市議会で否決された。躓いたかたちとなった教育改革を今後どうするのか?髙島氏に聞いた。
「最もこだわりたいテーマが教育」
――今年5月に史上最年少市長として就任して半年を超えましたが、振り返ってみていかがでしたか?
髙島氏:
本当に面白い仕事で、こういう仕事をさせて頂けるのはすごくありがたいというのが率直な気持ちで、やりがいと責任を感じています。市長になって意外だったのが、役所から外に出て市民の方々と直接話す機会を多く持てたことです。市長の仕事というと予算や人事など経営者的なものと見られがちですが、市のイベントへの参加や視察などを通して市民の皆さまと直接対話する機会を増やしています。市長が市民の皆さまの声を直接聴ける機会があることは、とても重要なことだと思うからです。
この記事の画像(5枚)――髙島さんは所信表明で、「最もこだわりたいテーマが教育」とおっしゃっていましたね。就任以来どのような取り組みをしてきたのか教えてもらえますか?
髙島氏:
就任後、最初に取り組んだ施策の1つは学童保育(放課後児童クラブ)の環境改善です。芦屋市では小学校の児童数が減る一方で、学童保育の希望者数が増えています。そこで補正予算を組み、新しいプレハブの建物を建てて来年度のスタートに向けて学童保育の専用スペースを確保することにしました。また、利用児童数を予測したところ、特にこの先5年間の教室数が足りないことが判明したため、市の財政負担を減らすため5年間のリース契約で整備しました。
髙島氏が目指す「ちょうどの学び」の姿とは
――髙島さんは「ちょうどの学び」実現を目指すともおっしゃっていました。次の世代に最も重要なのは学びへの意欲だと。
髙島氏:
よく「勉強ができる人を伸ばす教育をしたいのか?」と聞かれますが、「ちょうどの学び」とは一人ひとりの習熟度や学力だけに応じた学習のことではありません。いまの学校教育の一番大きな課題は、1人ひとりが「なぜこの勉強をしているのか」納得していないことだと思っています。「ちょうど」とは、皆それぞれが自分の好きなことや関心があることにぴったり合う学びを自分で創り上げていくことです。
例えば、目の前の数学が、自分の興味のあるサッカーにどのように結びついているのか知る。Jリーグのチームは統計分析をしていますよね。自分の好きなことが学校の授業につながっていくと、学びへの意欲は自然と高まると思うんです。
――「ちょうどの学び」の実現のために、教育現場では何が必要だと思いますか?
髙島氏:
学校の先生の働き方改革と最新の技術の導入、この2本柱が大事だと思っています。就任後、来年度予算の下準備のために、市のすべての公立小学校と中学校を回って、校長先生や先生たちにお話を聞きました。一番大きかった声はやはり「時間がない」だったんです。
ただ「自分たちが忙しくて大変だから楽にしてください」ではなく、「授業や生徒指導の質を上げるために時間が欲しい」ということでした。子どもたちのためにも先生自身が学べる環境や時間をつくらなければならないと思っています。その上で、AI等の新しい技術を使って学びの質を上げられるところは上げていきたいですね。
人事案否決「結果を真摯に受け止める」
――子どもたちとの交流も積極的に行いましたね。
髙島氏:
市の中学生の代表者と7月と10,11月の2回、お話しました。7月の1回目のとき、ある中学校の生徒たちが「校則を変えたい」と改正案を持ってきたんです。私は敢えて受け取らず、「どうしたら先生に納得してもらえるか」と中学生と作戦会議をして、あとは頑張ってねと。3カ月後にその生徒たちから「先生と議論して校則が変わることになった」と報告がありました。
自分たちで社会を変えることができるという成功体験こそが大事です。一度うまくいくと、もっと社会に関わりたいという意識も高まるのではないかと思います。
――髙島さんが提案した、教育改革の一丁目一番地ともいえる新たな教育委員の人事案が市議会で反対多数で否決されました。元さいたま市教育長の細田氏を後任とすることに「縁もゆかりもない」との反対がありました。
髙島氏:
まずは、結果を真摯に受け止めています。市議会議員の皆さまは市民の代表です。これからも対話を尽くしていきたいと考えています。
今回の人事は4人いる教育委員のうち、主に教育の専門家の方の後任でした。8月に市の教育大綱を作った際に、細田さんも含めてアドバイスを頂き、未来を見据えた教育にぜひ引き続きお力添えを頂きたいと考えました。芦屋の子供たちのためにも、議会の皆さまとともに最高の教育を実現できるよう取り組んでまいります。
インクルーシブ教育をさらに深めたい
――今後教育の姿として実現を目指したいものは何ですか?
髙島氏:
芦屋市がこれまで大切にしてきたインクルーシブ教育をさらに深めたいと思っています。障がいのある子どもも無い子どもも一緒に学んでいこうという理念ですが、それぞれの特性に合った学び方ができないと本当の意味でのインクルーシブは成り立ちません。今はグレーゾーンの子どもも含めて、様々な特性を持った子どもが増えています。真のインクルーシブを目指すには、1人ひとりの特性に合った学び方を一緒に見つけられるような環境を作らなければなりません。
――障がいの有無だけでなく、すべての子どもの特性に合った学びのすがたですね。
髙島氏:
例えば、目で見るほうが学びやすい子がいれば、耳で聞くほうが学びやすい子もいます。話すことで学びが深まる子もいれば、黙々と1人で学ぶ方が合う子もいる。それぞれに合った学び方が尊重される環境が必要ですよね。単に一緒にいるだけではそれぞれの子どもたちに寄り添った学びにはならない。だからこそ、真のインクルーシブ教育を目指して、障害のあるなしに関わらず、誰もが学びやすい環境を公立の学校で整えたいと考えています。
――ありがとうございました。
(画像提供:芦屋市)
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】