働き方改革で産婦人科医は増えるのか

4月から施行される「医師の働き方改革」では、これまで実質“青天井”とされていた医師の時間外労働が、原則960時間(週80時間相当)までとなる。「なり手不足」と言われた産婦人科には、どの様な影響があるのか。

「働き方改革」を進めながら、医療の質と安全性を守るために何が必要なのか。日本産科婦人科学会の加藤聖子理事長に現状や課題を聞いた。

国が2000年頃から20年ほどで、病院で勤務する医師の数を3割にあたる約8万人増やしてきた一方で、産婦人科医の数は“横ばい”状態だ。

産婦人科医師数の推移(「令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計)より)
産婦人科医師数の推移(「令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計)より)
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「なり手不足」と言われた産婦人科医の人材確保の現状について加藤理事長は「最近は学会を上げてリクルート活動をやって、年間500人という目標数に近い数字は入ってくれるようにはなっています」と改善傾向にあるとしているが、なぜ産婦人科医は増えないのか。

令和4年の調査でも、時間外・休日労働時間が年1860時間(換算)を超える医師の割合が高い診療科は、脳神経外科(9.9%)、外科(7.1%)、形成外科(6.8%)に次いで産婦人科(5.9%)だったうえ、医師1人あたりの1カ月の平均当直回数は4.9回に上っていることからも、「なり手不足」の一因は長時間労働の職場だからと言える。

若い医師が自分の専門を選ぶ際に重視していることについて加藤理事長は「今の若い世代はQOL(Quality of Life=生活の質)をすごく大事にしています。QOLが保たれるような診療科は比較的多く入っています」として、産婦人科においても「メリハリのある勤務」が必要だと指摘する。

日本産科婦人科学会・加藤聖子理事長
日本産科婦人科学会・加藤聖子理事長

若い世代では女性の方が多い産婦人科医

また加藤理事長によると、近年産婦人科では50歳以下では女性医師が男性医師より多く、特に若い世代では女性医師が6割から7割を占めているという。女性が多いことから出産・育児・介護などの理由で、当直勤務ができない医師も増えていて、当直勤務可能な医師が長時間労働に陥りやすいという。 

一番の解決方法として加藤理事長は「一人がある患者さんの全てを見るというのは難しくなるので、チーム医療を組んで、何人かで一人の患者さんを診るというような形がいいのではないかと思います。当直帯の医師と日勤帯の医師に分かれますので、シフトをうまく組むということが大事です」と提案する。

(イメージ)
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「集約化」と「タスクシフト/シェア」

ここでポイントになってくるのが、「集約化」と「タスクシフト/シェア」という考え方だ。

加藤理事長は「周産期母子医療センターなどの大規模な施設に分娩の取り扱いを集める『集約化』をしていくことが今後更に重要になってくる」と訴える。

医療の質を保つためには、どうしても「マンパワー」が必要になる。そのため、地域に複数ある医療機関を医師ごと1つに「集約化」することでマンパワーを増やすことができ、合併症発症など緊急時にも医療の質を担保することが可能だ。また、当直の回数を減らすことも同時に実現できるという。

「タスクシフト/シェア」は、医師の仕事の一部を看護師らと分担するというもので、医師の労働時間の削減に効果的だと言われている。

加藤理事長は「当直ができない医師が日曜日の日直をやってくれるだけでも、別の先生はその時間帯休めるということになります。みんなで分け合ってやっていくのが良いと思います」と医師間の「タスクシェア」によっても、長時間働ける人のみに業務が偏ることがなくなり効果的だとしている。

こうしたビジョンを示した上で加藤理事長は、4月から始まる「働き方改革」について「結局、残業時間を減らさないといけないということになりますので、やはり今以上に上手く時間と人を配分しなければならなくなり、特に地方では集約化する病院を決めていくことになるんではないかと思います」と指摘する。

生命の誕生から女性の一生を見る診療科

加藤理事長は「産婦人科は、『生命の誕生』から『老年期』まで女性の一生を見ることができ、自分に合った分野も見つけやすい診療科です。皆さんが自分のやりたいことを見つけて、目標を持って楽しみながら働けるような診療科を目指したいと思っています。」とやりがいの多い仕事だと若い世代に呼びかけている。

産婦人科医に限らず、医師が心身共に健康で充実して働くことができる環境を整備することは、「質の高い安全な医療を持続的に提供できる社会」の実現に向け必要不可欠だ。

4月の「医師の働き方改革」がその試金石になると言える。

(執筆:フジテレビ社会部 松川沙紀)

松川沙紀
松川沙紀

フジテレビ社会部・省庁キャップ こども家庭庁担当