インターネットで良い物件を見つけたけど、不動産会社に問い合わせたら「決まってしまった」などと言われ、契約できなかったことはないだろうか。

世間では「おとり物件」と呼ばれることもあるが、AIでこれがなくなるかもしれない。不動産の情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営する、株式会社LIFULLは自社開発のAIで、自社サイトに掲載中のおとり物件を見抜くことに取り組んでいるという。

AIによる検知の仕組み(提供:株式会社LIFULL)
AIによる検知の仕組み(提供:株式会社LIFULL)
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検知の仕組みは、LIFULLに蓄積された過去の物件情報、独自調査による募集状況の情報などを学習させたAIで、おとり物件と思われる賃貸物件をピックアップするというもの。

AIによる平均検知精度の推移(提供:株式会社LIFULL)
AIによる平均検知精度の推移(提供:株式会社LIFULL)

平均の検知精度は、取り組みを始めた2019年ごろは20%後半だったが、2021年10月~2022年9月は68%に、2022年10月~2023年9月は87%にまで向上したという。

宮廻優子さん(提供:株式会社LIFULL)
宮廻優子さん(提供:株式会社LIFULL)

興味深い試みだが、なぜ、AIの活用を進めているのだろう。物件選びのときに注意してほしいポイントはあるのだろうか。LIFULLの情報審査グループ長・宮廻優子さんに聞いた。

おとり物件は3つのケースに分かれる

――そもそも、おとり物件とはどのようなもの?

おとり物件と呼ばれるものは(1)実在はするが既に募集終了した物件(2)実在しない架空の物件(3)実在はするが取引の意思がない物件、これら3つに分けられます。全体の比率としては(1)が圧倒的に多いですが、(2)や(3)のようなところもあります。


――募集中と広告されているのに、問い合わせると契約できないことがあるのはなぜ?

賃貸物件には建物を管理する「管理会社」、募集中の物件に入居希望者を仲介する「仲介会社」など複数の企業が関わるため、契約情報の更新にタイムラグが起きがちです。人手不足で情報の共有や更新が追い付かない、ヒューマンエラーで忘れるといったパターンが目立ちます。ただし、おとり物件を掲載することで集客につなげているようなケースもあります。

店舗に誘導されるケースも(画像はイメージ)
店舗に誘導されるケースも(画像はイメージ)

――おとり物件にだまされた話を聞くことはある?

物件を見に行く約束をしたのに、直前になって「決まってしまった」と言われた。現地集合を希望しているのに店舗への来店を促されて、別の物件を紹介された。という話は聞いたことがあります。必ずしも、おとり物件による意図的なものかはわかりませんが「だまされた」と思う方もいらっしゃいます。

AIなら募集状況を把握しやすい

――AIでおとり物件の検知に取り組む狙いは?

仲介会社は自社を通じて物件が契約されると手数料がもらえるため、募集している物件の部屋がひとつでも10社や20社の仲介会社が同じ情報を掲載することがあります。こうなると、契約が決まった後も、他の仲介会社による掲載情報は残ってしまうようなことが起こりがちなので、管理会社からの協力を得るなどして、システムで非掲載とする対応をしています。

ただし、1社のみが掲載していて、管理会社が特定できない物件であった場合、募集状況の把握が難しいこともあります。AIであればこうした情報も検知できる可能性があると期待しています。


――検知とその後の対応はどう行っている?

まずはAIによって検知された物件は本当に募集が終了しているか、管理会社に確認します。その後(物件情報を掲載している)仲介会社に問い合わせをして「募集を終了しているので非掲載にしてください」などとご案内します。

掲載を止める必要がある場合は、悪意にかかわらず非掲載に(画像はイメージ)
掲載を止める必要がある場合は、悪意にかかわらず非掲載に(画像はイメージ)

――仲介会社に悪意があるかどうかを聞いたり、判断したりはしている?

LIFULL HOME’Sとしてユーザーにサイトを見ていただく方のため、正しい情報を届ける必要があります。そのため、悪意のあるなしに関わらず、掲載を止める必要があると判断した物件があれば、非掲載にしていただくようご案内をしております。


――AIの検知精度を向上させるために工夫したことは?

検知の軸や条件を少しずつ変えた、AIの学習モデルをいくつか用意し、並行して検知を進めるようにしました。精度が高いモデルがどれか比べることができますし、精度が一時的に下がったとしても、他のモデルで深掘りして検知することができます。

おとり物件にみられる特徴や傾向は?

――おとり物件にみられる特徴や傾向はある?

築浅でセキュリティも良く、家賃も相場より安いのに、不動産の情報サイトにいつまでも掲載されているようなことがあれば、集客目的の可能性もあると思います。良い物件には、裏側の理由があるかもしれないということですね。

物件の情報を事前に調べるのも良いという(画像はイメージ)
物件の情報を事前に調べるのも良いという(画像はイメージ)

――物件選びの際に、私たちが注意できることは?

お客さまご自身もある程度、物件の情報が怪しくないかを事前に調べておくと良いと思います。例えば、物件の家賃は相場と比べてどうか、他の不動産情報サイトと同じ条件か、といったことを調べてみると知識も身についてくると思います。LIFULL HOME'Sには「掲載110番」という、正しくない物件情報の通報フォームもあるのでご連絡いただければと思います。


――おとり物件の撲滅に向けた、今後の目標は?

AIの検知精度を100%近くに高めたいですね。将来的には、AIがおとり物件を自動で検知し、非掲載になるような仕組みができればと考えております。物件情報の鮮度を高め、全て募集中の物件となることで、オンラインで物件の申し込みや契約ができるようなところまで、実現できれば良いですね。



新しい住まいを探すのは楽しいが、思うように進まないと疲れてもくるはずだ。AIの活用で、物件探しや契約がスムーズに進行することを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。