クマによる人身被害が前年の10倍を超える異常事態となっている秋田県。県内で多発しているクマの出没は、交通インフラにも影響を及ぼしている。新幹線や列車が緊急停車するケースが増え、JRも頭を抱えている。

クマの線路内への侵入相次ぐ

下りの秋田新幹線「こまち」は、東京駅から連結運転されている東北新幹線「はやぶさ」と盛岡駅で切り離され、在来線区間を通って終点の秋田駅まで向かう。

秋田新幹線「こまち」の車内
秋田新幹線「こまち」の車内
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10月中旬の夕方、出張先から秋田市に帰るため、秋田新幹線「こまち」に乗車していた時のこと。JR田沢湖駅を通過しトンネルに入って間もなく、列車が緊急停車。しばらくして車内アナウンスが流れた。

「ただいま列車がクマと衝突しました。関係機関に連絡を取っております。しばらくお待ちください」

「やはりクマか…」心の中でつぶやいた。しかし、クマとの衝突による衝撃や揺れなどは、まったく感じなかった。クマと新幹線車両との重量の差が桁違いだからだ。

JR東日本秋田支社によると、2023年、管内では、クマが列車と衝突したり、線路上に侵入したりして運行に影響したケースは44件あった。(10月20日時点)これは前年同期の5倍以上にあたる。

このうち30件は、クマによる人身被害が相次いでいる9月、10月の2カ月で発生し、全体の約7割を占める。

2020年から導入の特別ルールで運行

JR東日本秋田支社は事故を防ぐため、クマの目撃情報が特に多い奥羽線の大張野駅と羽後境駅の間に、クマやカモシカなどの動物を寄せ付けない市販の薬剤(忌避剤)をまいて対応している。

特別な柵を設けるには多大な経費がかかる
特別な柵を設けるには多大な経費がかかる

特別の柵を設けるにはメンテナンスを含め多大な経費がかかり、何らかの方法で線路内に侵入した動物が外に出られなくなる可能性もあるからだ。

緊急停車から15分ほど経過しただろうか。「こまち」は、ゆっくりと動き出した。

JRは、クマが原因で長時間にわたって列車の運転に支障をきたすのを避けるため、「衝突して死んだクマがレールの間にいて列車に接触しない場合は、時速5km程度の低速で運転する」特別ルールを2020年から導入している。

クマの駆除は猟友会に依頼することがほとんどだが、夜間の場合など、すぐに対応できるとは限らない。特別ルールは、こうしたことからも有効な手段となっている。

秋田駅中央改札口
秋田駅中央改札口

ゆっくり動き出した「こまち」は最寄りの在来線駅にいったん停止し、運転手による車両点検を実施。安全を確認した後、通常通り発車した。
秋田駅には当初より30分以上遅れたものの、無事到着した。

JR東日本秋田支社の井料青海支社長は「ことしは異常。絶対的な対策方法がない以上、クマには早く冬眠してもらいたい」と苦悩の表情を浮かべた。

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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