2023年、内密出産などで生まれた赤ちゃんに共通する「ある状態」がわかった。内密出産で生まれた子どもや、「こうのとりのゆりかご」に預けられた子どもにその真実をどう伝えるのか...子どもを支える施設の取り組みに迫る。
国内唯一の「内密出産」 過去に14例
熊本市にある慈恵病院の蓮田理事長が抱いているのは、内密出産で生まれた赤ちゃんだ。

慈恵病院・蓮田健理事長:
この子、1番硬いんだそうです

病院の相談室職員など、スタッフで情報を共有しているカンファレンスでは、11月9日は内密出産などで生まれた赤ちゃんの体の“硬さ”がテーマになった。熊本市の慈恵病院では、母親が病院の一部の職員にのみ身元を明かし出産できる「内密出産」に、国内で唯一取り組んでいる。

慈恵病院・蓮田健理事長:
自宅で1人で出産する女性たちが死産に見舞われたり、赤ちゃんを殺したりする事件があとを絶たない中で、病院という場所で安全に出産できる、生まれることができるのは意味のあること

慈恵病院は、2007年から親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご」の運用を続けているが、ゆりかごは母子ともに命の危険がある孤立出産を招くおそれがあるとして、内密出産の受け入れも始めた。
2021年12月に最初の内密出産が行われて以降、これまでに14例が明らかになっている。

慈恵病院・民永里織相談員:
「お母さん、美人だったよ。目があなたに似ているのよ」とか声をかけます
内密出産を希望する女性から相談を受け、対応にあたる新生児相談室。相談室長を務めるのは、蓮田理事長の妻・真琴さんだ。

新生児相談室・蓮田真琴室長:
みんなこの子たち(内密出産で生まれた赤ちゃん)の幸せを願っている。そこを大きくなったときに感じてほしいなと思います
赤ちゃんの“硬さ”に覚えた違和感
真琴室長は、これまで内密出産などで生まれた赤ちゃんのケアをする中で「抱っこしたときに、体をくっつけずに離れようとするところや、落ち着かない、抱っこしても安心してないようなところがある」と感じていた。

真琴室長や相談員が感じてきた赤ちゃんの体の“硬さ”。2023年10月、真琴室長は蓮田理事長とともに匿名で出産できる制度のあるフランスを視察した。フランスでも、不安を抱えた母親から生まれた赤ちゃんの中には、体の硬さがみられるケースが確認されていた。現地では「調子の悪い赤ちゃん」と表現して理解され、赤ちゃんに対しての心理ケアが行われていることがわかった。

慈恵病院・蓮田健理事長:
潜在的に思っていたことがフランスでは常識になっていたことで、自信というか思っていたことは間違っていなかった。無事の出産を達成し、母の不安を和らげ調子の悪い赤ちゃんにならないようにする。そのあと真実告知となるので、重い課題を持ち帰ってしまった難しさはある
議論進む「真実告知」のあり方
一方、赤ちゃんの成長にともなって、のちに直面することになるのが、子どもに生い立ちをどう伝えるかという問題だ。
慈恵病院・蓮田理事長:
出自を知る権利というのは、16年間ずっとゆりかごで悩んできた

内密出産で生まれた赤ちゃんは、熊本市の児童相談所によって乳児院に移管され、その後、特別養子縁組などの道を探ることになる。母親の情報は現在、慈恵病院が保管している。しかし、その出自情報をどう取り扱うべきなのか、日本では法の定めがなく課題となっている。
2023年5月、慈恵病院と熊本市は共同で検討会を立ち上げた。検討会では、出自情報の範囲、情報開示の手続き、情報の保存、さらに、ゆりかごや内密出産で生まれた事実を子どもに伝える「真実告知」のあり方などについて議論している。

大西一史・熊本市長:
どんなに私たちが「生まれてきてよかったよ」と「みんなで生きていくんだよ」と言ったって、自分はなぜ誰からどうやって生まれてきたのかわからない苦悩は、想像できないほど重たいものでもあるし、その人、1人の人生を左右すると思う。検討結果が一定程度出た段階で国とも協議して制度づくりに生かしていけたら
(テレビ熊本)