現代は「おひとりさま」「ソロ活」が広まり、外食や旅行をひとりで楽しむことも珍しくなくなったが、実は当然の流れかもしれない。
博報堂生活総合研究所が1993年に実施した「ひとり意識・行動調査」を、2023年に再び行ったところ「ひとりでいる方が好き」と考える人が増えていたという。この調査は、ひとりについての価値観を首都40㎞圏内在住の25~39歳の男女に聞いたもので、調査人数は1993年が1200人、2023年が627人と違いはあるが、質問内容などの条件は同じ環境で行われた。
調査ではまず「ひとりでいる方が好き」「みんなでいる方が好き」の2つの考えを示し、どちらが自分の考えに近いかを質問。そうすると、1993年はみんな派が56.2%、ひとり派が43.5%だったが、2023年はみんな派が43.7%、ひとり派が56.3%と逆転現象が起きていたという。
また、普段の生活に近い考えを「はい」「いいえ」で選んでもらうと、2023年は「意識してひとりの時間を作っている」などの項目で同意する回答が増えたが、一方で「ひとりで食事をするのは淋しい」という項目には、同意しない回答が増えたという。
食事や娯楽もひとりで楽しみたい
このような考え方の違いがわかったが、では行動面には変化が出ているのか。
飲食店や施設をあげて「ひとりで行きたいか、ひとりで行くのは嫌か」を場所ごとに聞くと、2023年はほとんどの場所でひとりで行きたいと考える割合が増えていた。特に「喫茶店・カフェ」(33.4ポイント増)、「ファストフード店」(25.8ポイント増)、「映画館」(19.4ポイント増)といった場所は、ひとりで利用することが好まれていた。
また、仕事や生活など日常に関わる行動をあげて「ひとりでしたいか、したくないか」と聞くと、2023年はこちらもほとんどの項目で、ひとりでしたいと考える割合が増えていた。「会社の昼休み」(32.9%ポイント)、「残業をすること」(16.6%ポイント)など、会社や仕事関連の時間もひとりで過ごすことが好まれる傾向が見られた。
このほかユニークなのが、待ち合わせ以外で「喫茶店・カフェにひとりでいてつらくない時間」。1993年は“つらくない平均時間”が49分だが、2023年は114分と倍以上に増えていた。
人々の価値観はなぜ、30年でここまで変わったのだろう。調査をした博報堂生活総合研究所の担当者に聞いた。
2023年は“接続過剰”の時代
――今回の調査を30年ぶりに行った狙いは?
ひとりを取り巻く環境が変容するなか、生活者がどう捉えるようになっているかを知ることが主眼です。ひとりといっても、人によって思い浮かぶことはさまざまです。私たちの日本社会の変化を映し返す鏡にもなるだろうという目論見もあります。
――2023年までの30年で、ひとりが好きな人が増えたのはなぜ?
大きな要因がふたつあります。ひとつは「社会がひとりでいる人を捉える雰囲気の変化」。1993年頃の日本は集団意識の強い時代で、ひとりでいることに居心地の悪さが付きまといましたが、その後は社会の空気が変わっていきます。会社内でも以前ほどは職場一体となっての働き方を求められなくなり、ひとりを許容される時代になりました。
二つ目の要因は「情報環境の変化」。現代はSNSの通知、仕事のメールやチャットなど何もしていなくても人とつながってしまう“接続過剰”の時代です。そのため、反動で「ひとりでいる方が好きだ」と感じる人が増えている。人と一緒でいるのが嫌いなわけではないけれども、ひとりの時間だってほしいという、一緒とひとりのバランスをとりたい欲求が高まっていると捉えることができます。
――調査では「意識してひとりの時間をつくる」といった人が増えていたが?
ここもバランスをとりたい欲求が関連していると思います。私たちが話を聞いた生活者にはSIMカードの入っていない2台目のスマホを持つ人もいました。メインのスマホをOFFにすることで、ひとりで考えたり活動したりするそうです。みんなで会話やSNSを楽しむような時間は持ちつつ、ひとりで趣味に向き合う時間もほしい。メリハリを意識的につける生活者が増えていると思います。
ひとりの時にしか得られない価値がある
――多くの場所で、ひとりで行きたい人が増えていたことはどう思う?
ひとりで食事をしたり、遊びに出かけたりすることを奇異な目で見る人が減ったことが大きいでしょう。個々の自由という認識に徐々に変わってきました。また、映画館やコンサートなどは、ひとりでいるときの方が映像や音楽に感受性を高めて没頭できる、人の感想に邪魔されずに自分なりに作品を消化できるといったメリットを挙げる方が多くいました。ひとりの時にしか得られない価値があるという側面もあるのです。
――会社での昼休みの過ごし方なども、ひとりで好まれるようになったのはなせ?
同僚と会社の食堂や外食店に行ったりする風潮が以前よりは薄れています。会社で昼休みを12~13時きっかりにとらなくてもよく、各人が仕事のキリのいい時に休む職場も増えています。そうすると、一斉には昼休みに入らないので、人を食事に誘わなくてもいい雰囲気になってきています。
もうひとつ要因を挙げれば、昼休みをスマホでSNSや動画、ゲームなどを楽しむ時間に充てたい人が増えていると思います。最近は昼休みにひとりで弁当片手に動画やSNSを楽しんでいる人をよく見かけるようになりました。人と一緒にいるのが嫌だというより、ひとりの方が向いている楽しみ方を昼休みにしたいというのが、変化の要因のひとつなのではないのでしょうか。
――喫茶店・カフェにいて“つらくない時間”の感覚が変わっていたのはなぜ?
1993年頃は「誰かとおしゃべりをする場」あるいは「人と待ち合わせをする際に一時的にひとりでいる場」としての性質が強かったです。長くひとりでいると浮いた存在になってしまい、居心地が悪くなってくる場所でした。
一方、2023年はひとりでのんびり読書をする人も、ノートパソコンを広げて仕事をする人もたくさんいるので、浮いてしまうことはありません。また、スマホさえあれば、ひとりを何時間でも楽しめてしまうので、そうしたコンテンツの手軽さも要因のひとつでしょう。
――1993年と2023年の調査結果を見て、感じたことや思ったことは?
ひとりというと「ぼっち」などと揶揄されたり、自嘲したりしますが、調査結果からは「ひとりは誰か一部の人を指すものではなく、誰にも少しずつひとり要素がある」とわかります。むしろ誰にとっても必要といってもいい時代になってきている。ひとりのポジティブな側面に光をあてることで、生活者や日本が元気になるように感じています。
担当者は「ひとりの価値に気づく日本人が、未来にはもっと増えていくと思います」とも伝えていた。ひとりを恥じる、馬鹿にするのではなく、楽しむ価値観の広がりを期待したい。