2024年の米大統領選ではバイデン大統領の高齢化が問題にされているが、対抗馬と目されるトランプ前大統領もここへきて失言が目立つようになり、認知力の低下が懸念され始めている。

保守派のテレビのトークショーの司会者でトランプ前大統領の支持者でもあるメーガン・ケリーさんは12月8日、FOXニュースのインタビュー番組に出演し、大統領選をめぐり次のように発言した。

「トランプ氏の認知力が低下しているのは疑いの余地もないわよ。彼の演説を聞けば明らかでしょう。言い間違いが増えているけれど、それは意図的な間違えではないのよ」

アメリカの民主主義と戦っている」トランプ氏“失言集”

このケリーさんの発言で「トランプ認知力疑惑」に火がつき、各メディアが改めて前大統領の失言などを探し出しているが、それをワシントン発のニューズレター「ワシントン・ウォッチ」12月9日号は次のようにまとめている。

9月15日、ワシントンDC、保守系団体の集会(Pray Vote Stand Summit):
バイデンは完全に腐敗している。米国史上最悪の大統領だ。認知障害もあり、米国を統率できる状態ではない。この男に任せていればあっという間に第2次世界大戦に突入(※正しくは「第3次世界大戦」)し、全世界の人々、国々が崩壊する。

9月15日、同上:
2024年大統領選挙の世論調査でオバマ大統領(※正しくは「バイデン大統領」)より自分の方が支持率が高い。

演説を終え“ダンス”を披露したトランプ氏だが…(サウスカロライナ州・9月25日)
演説を終え“ダンス”を披露したトランプ氏だが…(サウスカロライナ州・9月25日)
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9月25日、サウスカロライナ州での選挙遊説演説:
2016年大統領選挙の予備選ではジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事)と戦ったが、ジェブが米国を中東(アフガニスタン、イラク両戦争を指す)に引き入れた。
(※両戦争を遂行したのはジェブ氏の兄のジョージ・ブッシュ元大統領である)

10月23日、ニューハンプシャー州での選挙遊説演説:
私が特に尊敬している指導者はビクトル・オルバーンだ。恐らく世界最強のリーダーの1人だ。彼はトルコ(※正しくは「ハンガリー」)の指導者だ。

10月29日、アイオワ州スーシティーでの選挙遊説演説:
これまで我々が優勢できたスーフォールズに大きなハローを。どうもありがとう。
(※「スーフォールズ」はサウスダコタ州にある都市の名前。正しくは「スーシティー」。アイオワ州の上院議員から耳打ちで間違いを指摘されたが訂正せず)

左が料理の「フムス」。「ハマス」を「ホンムス(フムス)」と発音し、格好の笑いの種に……。
左が料理の「フムス」。「ハマス」を「ホンムス(フムス)」と発音し、格好の笑いの種に……。

最近数回の選挙遊説演説:
イスラエルと戦うイスラム組織「ハマス(Hamas)」のを「ホンムス」と間違えて発音し、「ホンモス・テロリストの侵攻」等と言っている。
「ホンムス(フムス・Hummus)」は、中近東、地中海沿いの国々の伝統料理の一つで、ひよこ豆、オリーブオイル等の入ったペースト状の食べ物。夜のトークショー番組では、格好の笑いの種になっている。

“トランプキャップ”を投げるパフォーマンス(アイオワ州シーダーラピッズ・12月2日)
“トランプキャップ”を投げるパフォーマンス(アイオワ州シーダーラピッズ・12月2日)

12月2日、アイオワ州シーダーラピッズでの選挙遊説演説:
自らの4年間の治世を自画自賛した後の発言。
「現在の民主党政権を再びトランプ治世に戻すことを米国民は望んでいる。2度目のトランプ政権に反対する人は多いが、我々は全力を傾けてアメリカの民主主義と戦っている

これは単なる言い間違いであったのか。「米国民主主義の中で(in American democracy)戦っている」と言おうとしたとの見方もある。しかし、トランプ氏の主義主張からして「アメリカン・デモクラシーと戦っているとの本音が口をついて出た」とみるのが妥当と言われていると「ワシントン・ウオッチ」は伝えている。

2024年大統領選は「認知力の戦い」になるのか

トランプ氏といえば、前回の当コラムで紹介したように「再選されれば、就任初日だけ独裁者になる」と言って物議をかもしているように、ここへきて失言スレスレの発言が目立ち始めている。

11月に81歳になったバイデン大統領。高齢であることを“不安視”する声もある。
11月に81歳になったバイデン大統領。高齢であることを“不安視”する声もある。

一方のバイデン大統領は、遊説中に人名や史実などを言い間違えたり、専用機のタラップや演壇で転倒したりして高齢化の影響を感じさせる言動が少なくない。

そうした二人が対戦することになったら、2024年の大統領選挙は「認知力の戦い」になると「ワシントン・ウォッチ」は予言している。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。