米「ウォールストリート・ジャーナル」が12日、イスラエル軍がイスラム組織ハマスの地下トンネルに、海水を流し込む水攻め作戦を始めたと報じた。地下トンネルには一部の人質が拘束されていると考えられており、作戦の規模によっては、地下の淡水層にも海水が流れ込み、飲み水が使えなくなる可能性もある。
約500kmに及ぶトンネル内での戦闘は“非常に危険”
米メディアは、イスラエル軍がイスラム組織ハマスの地下トンネルに、海水を流し込む水攻め作戦を始めたと報じた。

ウォールストリート・ジャーナルが12日、米当局者の話として報じたもので、イスラエル軍は合計7つのポンプを使い海水を流し込んでいて、トンネルを浸水させるには数週間かかる見込みだという。
地下トンネルには、一部の人質が拘束されていると考えられている。
そうした中、アメリカのバイデン大統領は首都ワシントンで行われた演説で、「イスラエルは世界中で支持を失い始めている」と語り、パレスチナ自治区ガザへの侵攻を強めるイスラエル政府の強硬路線の政策を変える必要があるとの認識を示した。
ここからは、取材センター室長の立石修がお伝えする。ハマスの作り上げた“地下の迷宮”をめぐる戦いはどのようなものになるのか。

イスラエル軍は、これまでも地下トンネル周辺での作戦を続けてきた。現在、水攻めを行っているのは、ガザ地区北部のシャティ避難所周辺とみられる。
大型ポンプを設置して地中海から海水をくみ上げ、1時間あたり数千立方メートルの海水をトンネルに注入し、数週間でトンネルを水没させることが可能とされている。

この水攻め作戦は、「まだ有効性を確かめる限定的なもの」との報道もあるが、ガザ地区にはハマスが作り上げた地下トンネルが網の目のように張り巡らされている。その全長は500kmにも及ぶ。
ハマスの幹部や戦闘員は、この地下に潜んでいるとみられ、地下トンネルはイスラエルの重要なターゲットになる。しかし、地下トンネルを巡る戦いはイスラエル軍にとっては厳しいものになるとされる。
ハマス側が撮影した地下トンネルの映像では、長い年月をかけて掘られたトンネルは、暗く網の目になっていることが分かる。戦闘員たちはトンネルの構造を熟知しているようで、自由に縦横無尽に移動している。

内部には打ち合わせができるようなスペースもあり、指揮所のような場所も映されている。また大型のロケット弾のような武器も確認できた。
イスラエル兵にとっては、ここでハマスと戦うのは迷路の中で戦うようなものだ。イスラエル関係者の話によると、地下トンネル内では銃声が反響してどこから銃撃を受けているかなど分からず、非常に危険だという。

また地下トンネルには、爆発物を防御できるドアや、ドアの向こうから銃撃できる穴も設置されていて、待ち伏せ攻撃を受けて大きな被害が出ると想定されている。
そのため、イスラエルは地下トンネルに兵士を送りたくない。そこで、水攻めという選択肢が出てきている。
地下に潜む幹部を地上に引きずり出すか、殺害する狙い?
この地下トンネル、イスラエル軍はかつて爆弾を使って破壊したことがある。

2014年に地下トンネル全体を破壊した際の映像では、イスラエル兵が爆薬を地下に持ち込み導火線を地下に張り巡らせていた。この爆破時の様子を上空から見ると、地下に伸びるトンネルに沿って爆発しているのがわかる。
破壊した部分が細長く光っており、かなりの距離になる。爆破して破壊することができるのに、なぜ水攻めという残虐にも聞こえる方法に踏み切るのだろうか。

2014年の作戦では、イスラエルに続く7本のトンネルだけが対象であり、爆弾を設置するなど時間をある程度かけて破壊することができた。しかし、今回はハマスの殲滅が目的であり、より多く、場合によってはガザ地区全体のトンネルの破壊を狙っている可能性もある。
500kmのトンネルを一挙に破壊するには、海水の大量注入しかないと判断したと考えられる。
これまでの作戦でイスラエル軍は、500近くのトンネルを破壊したと発表している。しかし、これはシャフトと呼ばれる立て坑であり、横に続くハマスのトンネルを使い物にならないようにするには、水を流すしかないと判断しているとみられる。
しかし、その水攻めで懸念されるのは、現在ハマスにとらわれている135人の人質だ。地下トンネルに人質は本当にいないのだろうか。

解放されたイスラエル人の人質、ヨチェベド・リフシッツさん(85)の「地下トンネルで、ガザ地区最高指導者のヤヒヤ・シンワル氏と面会した」との証言があり、人質が地下に拘束されている可能性は高い。
それでもイスラエルが水攻めに踏み切ったのは、やはり最高幹部であるシンワル氏を含め、地下に潜むハマスの幹部を地上に引きずり出すか、殺害する狙いがあると思われる。
そして、ハマスに壊滅的なダメージを与えることをイスラエルは優先している。もしくは、そういう姿勢をアピールする事が目的になっている。

この水攻めに至るまでも、強硬な姿勢を崩さなかったイスラエルに対して、支持を表明してきたアメリカの態度にも変化が出てきている。
バイデン大統領は日本時間の13日、首都ワシントンで行われた演説で「イスラエルは世界で支持を失いつつある」と踏み込んで批判。ネタニヤフ政権についても、「史上最も保守的な政権」「ネタニヤフ首相は今の政府を変える必要がある」と否定的な見方を示している。

かつてエジプトが、ハマスの密輸用のトンネルに水攻め攻撃を行ったことがある。その際は汚水が漏れ出し、農地などに影響が出た。
今回のイスラエルの水攻めが大規模なものになれば、ガザ地区の飲み水である地下の淡水層も海水が流れ込み、飲み水として使えなくなる可能性もある。そのため、戦闘で被害を受けたガザ地区の環境はさらに劣悪になる。人質が巻き込まれることも含めて、人道的に重大な事態を引き起こす恐れがある。
バイデン大統領の態度の変化も、こうしたイスラエルの攻撃への強い懸念が表れている。
(「イット!」 12月13日放送より)