ある日突然、事件に巻き込まれた人々が直面している現実がある。2年前、26人が死亡した大阪・北新地の放火事件で夫を亡くした妻が関西テレビの取材に応じてくれた。語られたのは生前の夫の姿、そして、事件後知った国の支援の課題だ。
遺品から今も残る“炭のにおい”
北新地クリニック放火事件で夫を亡くしたAさん:
算定の基準に収入というもの、収入なんてものが算定の基準になっていることの驚きとか怒りとか。最初に受けた衝撃、制度に対しての不信感というものはそこが入口です。
こう話すのは、大阪・北新地の放火殺人事件で、夫を亡くした女性Aさん。
この記事の画像(8枚)事件は2年前、突然の出来事だった。
2021年12月17日、大阪北区の心療内科クリニックが放火され、院長や患者あわせて26人が死亡した。 犯人とされる患者の谷本盛雄容疑者(当時61歳)。殺人などの疑いで書類送検されるも、容疑者死亡で不起訴になった。
孤立と貧困から自暴自棄になり、他人を巻き込む「拡大自殺」を図ったとみられ、防犯カメラにはガソリンをまき、逃げようとする患者を部屋の奥へ追いやる様子が映っていた。
犠牲になったAさんの夫は復職を目指してクリニックに通っていて、多くの患者とともに事件に巻き込まれた。当日、夫が身に付けていたキーケースと腕時計。Aさんが受け取った腕時計はまだ、炭のにおいがしていた。
夫を亡くしたAさん:
彼は、復職を目指してリワークプログラムに通っていたわけで。彼との楽しい思い出とか、子どもを育てていくとかもそうだし、あるべき、あったはずの未来がなくなった。
国からの“給付金制度”の運用実態
幼い子どもとともに取り残されたAさんは、その日から様々な困難に直面した。
夫を亡くしたAさん:
例えば主人の遺体を自宅とか葬儀場に搬送する費用とか。これから先がどうなっていくか分からない中で、こちらのタイミングを待たず請求される。この立場の人たち(遺族)ってこんな負担を強いられていたのかって。
夫の死を受け止める前に求められた遺体搬送費や葬儀などの経済的負担。言われるがままに支払うことになった。
死亡した加害者側に賠償を求めるのが難しい中、Aさんは国の給付金制度を知った。「犯罪被害者等給付金」とは殺人事件などで被害に遭った遺族が「再び平穏な生活を営む」ための給付金だ。
その金額は被害者の直前3カ月の収入などで算定される。そのため今回のケースでは休職している人も多く、「無職」と算定されることで、給付額が大幅に減らされるおそれがあったのだ。
夫を亡くしたAさん:
後を追って一緒にいなくなれたら楽なんですよね。でもそうじゃなくて、残って生きて、育てていかないといけない命があって、そんな人たちがすがってきた先の運用の実態がこれでは、ちょっと、許せないというか、恥ずかしい。
Aさんは被害者や遺族で作る団体に参加し、算定基準の見直しを求め、声を上げることにした。 10月15日に行われたシンポジウムで、Aさんは「長年、放置されている状態であるとか、改善をしなければいけないところがたくさんあることを、ぜひ知ってほしい」と訴えた。
国もAさんたちの声を受け、給付金制度の見直しについて検討を始めた。まもなく事件から2年を迎える中、Aさんはこう訴える。
夫を亡くしたAさん:
一番はこの問題をもっと色んな人に知ってほしい。みんな憔悴(しょうすい)しますよね。大事な人が最悪の形でこの世からいなくなってしまって、でも自分は残って生きていくという…。
こういう立場にならないと知る機会がないと思う。知って、驚いてほしいです、もっと興味や関心をもって、この問題を見つめてほしいなと思います。
「犯罪被害者等給付金」の理不尽な現実
夫を亡くしたAさんたちは、「犯罪被害者等給付金」の見直しを求めている。復職に向けて治療中だった夫を事件で亡くしたAさんは、「被害者遺族にとっては理不尽な制度」だと話されている。
岸田首相は「算定方法を見直して給付水準の大幅な引き上げを検討したい」とし、有識者による検討会を開いて、2024年6月までに方針を決めるということだ。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月5日放送)