清水エスパルスにとってJ2の舞台での戦いはチーム史上二度目で、J1昇格プレーオフは初めての経験だ。準決勝は山形を相手に引き分けたが、リーグ戦の上位チームを“勝者”とする規定に救われ、決勝へと駒を進めた。

J1昇格には“勝利”が絶対条件

準決勝の立ち上がりは山形の猛攻に手を焼いたエスパルス。

だが、守護神・権田に代わってキーパーに入った大久保が神懸かり的な好セーブを連発する。すると大久保の好守をきっかけにチームは徐々に落ち着きを取り戻し、乾やサンタナ、中山といった攻撃陣の連動した効果的なフロントプレスで主導権を奪い返した。

乾が長い距離からのミドルシュートを放てば、岸本は原のクロスに合わせたヘディングシュート。さらに中山のインターセプトを起点にしたサンタナのロングシュートなど、チーム全体に積極的な意識が広がり始める。特に山形が自陣から持ち上がる場面では、強さと質を兼ね備えたエスパルスのプレスが冴えわたり、ショートカウンターを次々と成功させた。

ところが、終盤までゲームの流れをつかんで山形ゴールに迫るも最後までシュートを決めることは出来ず、引き分けの場合はリーグ戦の上位チームを“勝者”とする大会規定に救われ、決勝へと駒を進めた。

一方、同じく準決勝でリーグ戦6位の千葉と対戦した3位・東京Vは2対1で勝利し、決勝の相手は東京V、試合会場は国立競技場(東京Vのホーム扱い)に決まった。

これによりエスパルスは決勝で勝つしかJ1昇格の道がなくなった。ただ、岸本は「その方がやりやすい」と口にする。

エスパルスにとって、このプレーオフはあくまでチャレンジャーの立場だ。その意思を持ち続けることは、これまで指揮官がテーマとしてきた「超攻撃的」「超アグレッシブ」とも重なり合う。

決戦を前に秋葉忠宏 監督は「勝つしかないというわかりやすいシチュエーションで、ネットを揺さぶるマインド・技術・アイディア・クオリティーを見せたい」と意気込んだ上で「2023年最後で最大のビッグマッチに、勇気と勇敢さを持って選手は戦って欲しい」とチームを鼓舞した。

対する城福浩 監督率いる東京Vはコンパクトで強固な守備が持ち味で、その証拠にリーグ戦の失点数は42試合で「31」とJ2最少を誇る。城福監督は「エスパルスの個の力は間違いなくリーグ有数」とリスペクトしつつ、「自分たちが信じて1年間やり抜いてきたサッカーで3位にたどり着いた」と自信をのぞかせる。

1992年のヤマザキナビスコカップ決勝など、国立競技場は両チームにとって因縁深い場所。J2トップクラスの盾と矛のぶつかり合いが新たな歴史を刻むであろうことは間違いない。

秋葉監督「勇敢に勇気を持って」

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-今のチームの状況は
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
見ての通り気が充実しているし、充実感、気迫にあふれている。高い集中力でいいトレーニングができた。

プレーオフで気になったことや東京V戦に向けた分析を選手に刷り込みたい。年間3位と我々より上でリーグ最少失点。キーパー以外は日本人で、全員でまじめにハードワークする守備意識が高いチームという印象。

もう、はっきりしている、順位が下の立場は。我々はリーグ1~2番の得点力、破壊力を持っている。勝つしかないというわかりやすいシチュエーションで、ネットを揺さぶるマインド・技術・アイディア・クオリティーを見せたい。

-決勝の舞台はチームにも縁のある国立競技場だが思いは
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
2023シーズンの最後にして最大のビッグマッチを迎えられるなんて、こんなに幸せなことはない。

生きるか死ぬかのゲーム。ものに出来るからこそのメンタル、タフさ、勝負強さを持ったチームになれるか、唯一残った我々の課題と思っているので、マイナスを払拭して、もう1レベル上のチームになれるかどうか、J1に行けるチームなのか問われていると思っているので結果で証明したい。

-今日もサポーターが多く来ているが思いは
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
準決勝のスタジアムの「コレオ」を見ても、あのゲームだけでなく42試合、アウェイだろうがホームだろうが最後の最後まで勇気を与えてくれるし、我々と共に戦ってくれる日本一のサポーター・ファミリーだと思う。

国立には東京Vより多くのサポーターが来てくれると思う。帰るべき場所に帰れるように、全員で笑ってシーズンが終われるようにしたい。

-秋葉新体制での初勝利の相手が東京V。東京Vには今季2勝しているが対戦への思いは
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
我々からすれば二度あることは三度あるだし、東京Vからすれば三度目の正直といったところだろう。

我々は引き分けではダメ。リーグ戦では東京Vの方が順位は上なので、それを踏まえながら、どれだけ勇敢に勇気を持ってチャレンジャーとして立ち向かっていけるかどうか、ぶつかって行けるのかが大事なポイント。

しっかりとそのメンタリティーを忘れず、これまでトレーニングを続けてきた変わらない原則としての「超攻撃的」「攻守において超アグレッシブ」に出来るかがポイント。必ずゴールネットを揺さぶって勝ちたいと思う。

乾選手「昇格しないと意味がない」

清水エスパルス・乾貴士 選手:
ラストの試合になるし、相手も決まったことで、モチベーションを高く保ちたかったので練習では声を出した。勝つしかないし、点を取らないと勝てない。

山形戦のように引き分けではOKとはならない。逆に相手はそのメンタリティーで来れる分、有利に立っているように思う。

だが、自分たちのスタイルは攻撃なので、そういう意味でもしっかり点を取って勝ちたい。

自分たちは4位なので勝って、J1に昇格しないと意味がないと思う。しっかりJ1に行けるチームということを試合で見せつけて上がりたい。

得点を取るポイントは精度、あと気持ち、それと運。まずは勝ちたい気持ちを全員がどれだけ出せるか。多少、熱くなるのは仕方がない。それをパワーに変えてやっていきたい。

東京Vは上手いチーム。しっかりサッカーをするチームで、エスパルスと似ているところもある。後ろに堅い選手がいるのでどう崩すかが課題。自分は厳しいマークを受けたとしても、頼りになる選手が周りにいるので問題ない。

自分たちは年間4位で、本当にチャンスをもらえていると思っている。何度も失望させたが、自分たちをまだ信じてくれるサポーターの方々がたくさんいて、その人たちのためにもしっかり戦いたいと思う。

北川選手「激しいゲームになると思う」

清水エスパルス・北川航也 選手:
決勝が今季の集大成という意味で、みんなのモチベーションや試合に関する体制作りは怠らずにやれると思うし、あとは残りの準備期間を大事に使うだけ。

勝たないといけないということは攻めるしかないし、点を取らなければいけないので、今日の練習もそれに対するものだった。そのことははっきりしているので90分間を意識したゲームになる。

東京Vは同じオリジナル10としてJリーグの創設期からのクラブで、場所も国立競技場ということで注目度も高いと思う。どっちが上がるか。ここまで来たら戦術とかというよりも気持ち次第だと思うし、自分としてはこのチームでJ1に上がりたいし、激しいゲームになると思う。

どんな形でもいいから勝利に貢献するだけ。得点に関わるプレーが自分の持ち味なので、そこは常に狙っていきたい。厳しい環境で打ち勝つしかないと思っている。シュートを打たなければ点は入らない。シーズンを通してやってきた、チームに必要なことをやりたい。

山原選手「変わらない姿勢を貫く」

清水エスパルス・山原怜音 選手:
決勝に進むことが出来て、泣いても笑っても試合はあと1つ。練習も今週まで。高いモチベーションで今日も雰囲気のいい練習ができた。

次は山形戦と違い逆の立場で、点を取らなければいけない。そもそも山形戦でも「超攻撃的」「攻守に超アグレッシブ」という秋葉監督のチームコンセプトでやってきて勝つつもりでいた。

今季は点をたくさん取るサッカーを続けてきたので、ラスト1試合も変わらない姿勢を貫くし、前に進むプレーでクオリティーはある。全員で自信を持ってボールを前に出すメンタリティーが必要だと思う。

岸本選手「迷いが出たらダメ」

清水エスパルス・岸本武流 選手:
準決勝は負けたら終わりなので、悔いのないように何も考えず全力でやろうと思っていた。得点が取れたら満足のいく試合だったのかなと思う、自分としても。でも、しっかりアグレッシブに、守備も頑張れたし、チームも突破できたのでよしとしたい。

監督から「アグレッシブに行くことでチームに勢いが欲しい」と指示されたので、ガツガツ、最初から行ってやろうと思っていた。まずは守備から攻撃、これは大事なことだと思う。

自分自身も含め、次はみんな気負わずにやって欲しい、負けたら終わりなので。気負うとプレーが固くなる。前の試合「引き分けでもいい」という立場は自分としては嫌なので、今回の「勝たないといけない」という方が、「前へ前へ」という心情で、やりやすいのではないか。

チームはこの2試合で1点しか取れていないが泥臭いゴールでも何でもいい。次の試合は迷いが出たらダメ。

東京Vは組織で統一された堅い守備が特徴だがスキはある。セットプレーで点が取れたら大きいと思う。これは最近し続けている。大事になる。

大久保選手「ポジティブさが必要」

清水エスパルス・大久保択生 選手:
泣いても笑っても最後の1試合なので自然とみんなも高まってきている。

個人的には変わらずに練習に取り組めている。

だが、プレーオフという特殊な試合の中で普段やってきたことと別に、相手がやってくることに対してイメージを含め対策している。相手が絶対に点を取らなければならない時、最後の局面では5トップになるとか、リスクを冒して何かをやってくる。そうした準備と意思統一は大切。対応する戦術を確認している。

行かなければならない自分たちの方が焦りやすいし、先に失点をしたら相手に余裕を持たせることになり、そうした試合にしてはいけない。0対0、1対0の時間を長くしたい。監督は「2点差以上の試合にする」と言っているが、それくらいの気持ちでやれという意味ととらえている。自分たちが今まで通り引かずに追加点を取っていく意味が込められていると思う。

チームの連携についてははっきりとしたプレーをすることが大切。ミスが絡むと悪い影響が出る。ポジティブさが必要。東京Vは全員攻撃・全員守備で、城福監督のもと大崩れしないチームの印象。先制点が大事になると思う。

国立で決勝の試合ができるのはサッカー選手としてとてもいい経験。また、チームが毎年国立でホームゲームをしてきた意味がここでプラスになる。サポーターも大勢来てくれると思う。出場できたら、いい思い出にするために楽しみながらプレーをしたい。

(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)

外岡哲
外岡哲

テレビ静岡 報道部スポーツ業務推進役(清水エスパルス担当)。
1984年テレビ静岡入社。
1987年~1994年(主に社会部や掛川支局駐在)
2000年~2002年(主に県政担当やニュースデスク)
2021年~現在(スポーツ担当)
ドキュメンタリー番組「幻の甲子園」「産廃が街にやってくる」「空白域・東海地震に備えて」などを制作。
清水東高校時代はサッカー部に所属し、高校3年時には全国高校サッカー選手権静岡県大会でベスト11。
J2・熊本の大木武 監督は高校時代の同級生。

テレビ静岡
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