有明海にしか生息しない魚介類は多い。初夏になると産卵のため筑後川を遡上するカタクチイワシ科の魚「エツ」もそのひとつ。
そのエツ料理を味わえる割烹料理の老舗が2023年10月、惜しまれながら閉店した。
この記事の画像(16枚)昭和元年創業の老舗割烹
閉店したのは、佐賀市で筑後川沿いに店を構える昭和元年創業の「割烹津田屋」。
有明海ならではの海の幸を味わえる割烹料理店として長年親しまれてきた名店だ。
割烹津田屋の名物は「エツ」料理。
エツはカタクチイワシ科の魚で日本では有明海でしか生息が確認されていない珍しい魚だ。
初夏の風物詩「エツ漁」
エツは産卵のため5月から8月頃にかけて筑後川を遡上する。初夏に始まる筑後川の「エツ漁」は初夏の風物詩となっている。
このエツの料理を長年にわたって守り続けてきたのが「割烹津田屋」。3代目店主の津田良雄さん(72)は、エツ料理を地元の名物にしようと観光の振興にも力を入れてきた。
しかし、従業員の高齢化が進み、特に仲居の平均年齢は70歳を超える。人手不足も重なり従業員の負担は年々大きくなっていた。
また、“後継者がいない”という大きな問題があった。
帝国データバンクの調べによると、「後継者がいない」と回答した事業者の割合は57.2%で、飲食店では63.3%とより高くなっている。
人手不足が続く中でも従業員と力を合わせ、津田さんは朝の魚市場から閉店まで働き、予約をある程度減らしながらも店を続けてきた。「エツはとても手がかかる。人がいないと料理ができない。それでも“エツを食べるなら津田屋”というブランド力を守るためにやってきた」と津田さんは語る。
しかし、コロナ禍が終わり大人数の会食やおせち料理の予約が入り始め、これ以上、従業員に無理はさせられないと閉店を決めた。
店の歴史に幕…涙する常連客も
長年愛されてきたエツ料理。閉店を知り大勢の客が連日訪れた。
家族の人生の節目には必ず来店していたという思い入れの強い常連客も多い。中には涙する人の姿も見られた。
来店客:
結納や母の還暦のお祝いなどでちょくちょく店にきていた。寂しいですね
来店客:
店を辞められるというのを知って最後にお食事をと思って。私と妹と叔母と3人で伺いました。涙がでるね
津田好江さん(店主の妻):
これまで楽しかった。従業員の人たちもみんないい人ばかりで。その方たちに支えられてどうにかここまでやってこられたという感じですね
店主 津田良雄さん:
今になってじわじわと、もう辞めるんだなと思ってきて。でも多分、明日はいつものように4時ごろ目が覚めて市場に行こうかなと思うかもしれません。50年それが染みついているますので
地域の人たちの生活にとけこみ長年愛されてきた割烹津田屋。閉店を惜しむ客は最後まで途絶えなかった。
(サガテレビ)