「えっ!?これがシェーバーなの?」

パナソニックの「ラムダッシュ パームイン(以下、パームイン)」を目にしたときに、誰もがこの感想を持つだろう。

9月に発売された5枚刃電気シェーバー「パームイン」の特徴は、何と言っても「持ち手(グリップ)が存在しない」というデザインだ。

どのようにしてこの発想に至ったのか。

マーケティング担当・田中亨さん、商品企画担当・北村友資さん、デザイン担当・別所潮さんに聞くと、パームインのデザインは、ユーザーの声がきっかけだったということがわかった。

「持ち手がない」だけではない3つの特徴

商品企画担当・北村友資さん(左)とマーケティング担当・田中亨さん(右)
商品企画担当・北村友資さん(左)とマーケティング担当・田中亨さん(右)
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メーカーによると事前計画の10倍に達する初動販売を記録したという「パームイン」。

高価格帯にもかかわらず、発売から約3カ月での大ヒットとなったが、同製品の特徴は「持ち手がない」だけではないという。

「ラムダッシュ パームイン」
「ラムダッシュ パームイン」

――パームインの特徴を教えてください。

田中亨(以下、田中):

主に3つあります。1つ目は、 5枚刃のテクノロジーを手のひらサイズに凝縮したこと、2つ目は、この大きさだからこそ手首と指先で力を加減しながら、なでるような感覚で剃ることができる点です。

そして3つ目が、パームイン(ES-PV6A)のボディに「NAGORI®(なごり)」という、陶器や天然石のような質感と熱伝導性を併せ持った海洋ミネラル由来の素材を使ったことです。

これにより、プラスチック使用量を約40%削減(※)できました。

(※)2023年発売ラムダッシュPRO 5枚刃 ES-LV9Wとの比較(パナソニック調べ)

従来品と大きさを比較。右2つがラムダッシュ パームイン
従来品と大きさを比較。右2つがラムダッシュ パームイン

北村友資(以下、北村):
パームインは“一発屋”で終わらせず、ロングランができる商品にしていくつもりです。

そのため、日本だけでなくグローバルで求められている「環境保全」というテーマにも応えられる素材を用いました。

これまでのシェーバーは何だったの!?

ユーザーからの声には、あまりの剃りやすさに「これまでのグリップつきシェーバーは何だったのか」という驚きの感想もあったという。

商品企画担当・北村友資さん
商品企画担当・北村友資さん

――剃り心地はいかがですか。

田中:

(持ち手がないことにより)より刃に近いところを持って剃ることができるので、剃り応えを直感的に感じながらシェービングができます。

アゴ下や鼻下まわりも、より剃りやすくなりました。

「ラムダッシュ パームイン」
「ラムダッシュ パームイン」

北村:
一般的には「シェーバーがコンパクトになると剃り性能が落ちる」というイメージがありますが、パームインには、刃もモーターも当社の最新のシェーバーと同等のものが使われています。

発想を「足し算」から「引き算」に

デザインは、これまでに国内向け冷蔵庫をはじめ、オーラルケア商品、理美容商品などのデザインを担当してきた別所潮さん。

これまでと違う新たな“シェーバー”はどう考えられたのだろうか。  

デザイン担当・別所潮さん
デザイン担当・別所潮さん

――最大の特徴である「グリップなし」の発想はどのようにして生まれたのでしょうか。

別所潮(以下、別所):

これまで一般的にシェーバー開発で行われてきたのは「機能を積み上げていく」、いわば「足し算のデザイン」です。

しかし、お客さまの生活に真に寄り添った時に「本当に必要なものは何なのか。それは『体験を変えていくこと』ではないか」と私たちは考えました。

例えば、20ある機能を25にするようなことではなく、要素は研ぎ澄ましていく。そして、お客さまのシェーバーに関わる体験を変えていく。

実は、今まで数多く行われたユーザー調査を見ると、「グリップ」や「首振り」があるにもかかわらず、「ヘッドを直接持って剃っているユーザー」が少数ですが一定数いることが判りました。

そのことに当時のデザイン担当が気づいて、「グリップをなくしてみよう」という話になったのです。そこから「引き算のデザイン」が始まりました。

基礎になったのは、このように「顧客起点」で考えるスタンスです。

ヘッドを持って剃る「パームイン」
ヘッドを持って剃る「パームイン」

ヘッドを持って剃るというのは、ユーザー自身も無意識にしていたことだろう。それは、ユーザーの声を拾うだけでは気づくことができない点かもしれない。

別所:
デザイン部門は「顧客起点」とともに、「未来起点」も大事にしています。「将来どのようなものが『豊か』とされる時代が来るだろうか」と想像しながらデザインをしました。

そのために、ユーザーのインサイト、潜在的なニーズに目を向けることも徹底しました。

まさに、寄せられる感想に目を向けつつも、それだけに収まらず、ユーザーの行動などからもメッセージを読み取ったのです。

「新しい市場を作る」マーケティング戦略

――斬新なデザインゆえに、パームインを世の中に理解してもらうには難しさもあったのではないでしょうか。

田中:

パームインは、従来のシェーバーの延長であったり、「コンパクトシェーバーの一つ」といった見え方にならないようにと努めました。

新しい市場、カテゴリーを作っていくという意識でマーケティングも考えていきました。そのため、従来の店頭イメージや紹介動画のイメージも刷新しました。

マーケティング担当・田中亨さん
マーケティング担当・田中亨さん

――どのような「見え方」になるように意識されましたか?

田中:

この商品は見た目のインパクトがあるので、ただ高性能だというのではなく、「かわいいよね」「オシャレだよね」「インテリアとして置きたいね」といった形で、「シェーバーを楽しみたい」と思っていただけるような工夫をしました。

「剃りたくなる」「見たくなる」「置きたくなる」といったシェーバーの新しい価値を訴求したのです。

だからでしょうか。男性からの喜びの反響もたくさんいただいているのですが、女性から「プレゼントとしてパームインを選んでいます」という声も多くいただいています。

「パームイン」は社内で世界観を徹底するなど戦略的にマーケティングを行っている(※置台は非売品です。商品には同梱されていません)
「パームイン」は社内で世界観を徹底するなど戦略的にマーケティングを行っている(※置台は非売品です。商品には同梱されていません)

――見た目のスタイリッシュさもありますが、従来とは異なる視点からの戦略をしたことで、贈り物として選ばれているのかもしれません。

田中:

私たちは、ブランドの統一性を保つために、デザイン、マーケティング、商品企画、宣伝などのコアメンバーで世界観を詰め、それを社内の人たちに共有してきました。

ここは丁寧にやりました。お客さまはこの商品とさまざまな接点を持ちますが、お客さまから見て、全方位で同じ世界観を感じられるようにするために、まず社内からその世界観のズレが生じないように社内共有を徹底したのです。

その上で、ウェブサイトから店頭イメージ 、包装、商品の箱、広告に至るまで、同じイメージができあがるよう意識して作り上げました。

――他に工夫されたことはありますか。

田中:

シェーバーを買う従来の理由の多くは「シェーバーの買い替えが必要になった」というものでした。

今回は「シェーバーの購入を検討されている方」に加えて、たとえば「プレゼントを検討されている方」など、より多彩な方にアプローチしています。

具体的なマーケティング施策を一つ提示するとすれば、従来のシェーバー売り場に加えて、新しいお客さまとの接点・タッチポイントを創ったことがあげられます。

例えば、導入期は発見と体験を目的に、b8taさんや蔦屋家電+さんにも置かせていただきました。そこでは 、シェーバーの購入目的ではない方にもリーチすることができます。

「ヒゲ剃りの文化を変える」ものに

――パームインでシェーバーの新しい市場を創ったような形になりましたが、今後はどのような製品を生み出していきたいですか。

別所:

パームインは、“ヒゲ剃りの文化”を変えるものにしたいと思っています。

これからも私は、パームインのような良い製品をつくって、世の中の循環を良くする「文化」の種を植えていければと思っています。

田中:
私はそうした商品をお客さまに届けていく中で、今後も新たな市場をつくるマーケティングをしていきます。

北村:
今回、私たちは製品に関してさまざまな調査をしてきました。

「これ、何だと思いますか?」といってパームインを渡す調査もしました。すると、多くの人は「何だろう?」といった反応をされます。で、パッとフタを開けて「シェーバーです」と伝えると「マジで!?」「素敵!」といった気持ちの高まりを言葉にされるんですね。

これは、従来の製品にはなかった熱いリアクションです。このような「ワクワク」が生まれる商品企画をこれからも続けていきます。