人口約3000人の小さな村に、多くの外国人観光客が訪れているという。福島県の南端・鮫川村は、阿武隈高原南部の頂上部にあり、村の総面積の約4分の3を林野が占めるという自然豊かなところ。村で調べてみると、外国人が求める新たな観光が見えてきた。

全国で伸び率14位

自動車や電車のルート案内を提供する「ナビタイムジャパン」が、アプリを使って新型コロナ流行前の2019年と2023年のそれぞれ1月から5月に観光で日本を訪れた外国人の数を調べた。人数の多い少ないではなく、何倍に増えたか自治体ごとの伸び率を出していて、伸び率は24.1倍で全国14位になったのが福島県鮫川村。なぜ外国人観光客が増えているのか?

データ:ナビタイムジャパン 伸び率24.1倍で全国14位・福島県鮫川村
データ:ナビタイムジャパン 伸び率24.1倍で全国14位・福島県鮫川村
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見かけたことはない?

村民に外国人観光客を見かけたことがあるか聞いてみると「見かけたことない」との答え。食堂で聞いてみても「うちには、おいでになってないです」…スーパーでは「働いている方はいらっしゃいますけど、観光の方では…」という。鮫川村の村民10人に聞いたところ、皆さんが見かけていたのは技能実習や英語の指導助手として村内に住んでいる外国人。では、外国人観光客はどこを訪れているのか?

多く訪れているはずの外国人観光客を見かけない…一体どこへ?
多く訪れているはずの外国人観光客を見かけない…一体どこへ?

役場から重要な手がかり

鮫川村役場で聞いてみると…「村内に観光地はあるが、外国人が訪れているという情報は村にも入っていない」という回答…だったが鮫川村商工観光係の生田目昌信係長から有力情報が。「自然体験・交流事業を、家族で行っている所がある。そこでイタリア人が働いていると聞いたことがあるので、もしかしたら繋がる情報が聞けるのでは」とのこと。

役場で有力情報 外国人が働いている施設がある そこに行けば分かるかも
役場で有力情報 外国人が働いている施設がある そこに行けば分かるかも

遊びを通して自然を学ぶ施設

教えてもらった場所に、早速向かった。「ぽんた山元気楽校」は、34年前に農作業や川遊びなどを通して自然を学んでもらおうと作った場所。子どもたちに交じってパン作りをしている外国人がいたが…イタリア人のトマゾさんは「ぽんた山」のスタッフだった。

この日は子どもたちがパン作り トマゾさんはスタッフだった
この日は子どもたちがパン作り トマゾさんはスタッフだった

里山体験をしにやって来る

「ぽんた山元気楽校」を作った、あぶくまエヌエスネットの進士徹さんに外国人の利用について伺うと「主に中国・ベトナムの学生・青年が多い」という。

あぶくまエヌエスネットの進士徹さん
あぶくまエヌエスネットの進士徹さん

「ぽんた山」には、数年前から青森大学の留学生が里山体験をするために訪れていて、新型コロナが落ち着いてきた2022年度からは参加者が一年間に20人ほどへ増加。他にも、2023年の夏にはドイツ人の親子が1週間滞在していたという。

里山体験の留学生が訪れている 最近では外国人観光客も
里山体験の留学生が訪れている 最近では外国人観光客も

進士徹さんは「うわべだけの体験じゃなくて、農作業など私たちが日常やっているところに一緒に作業をしてもらう。人間が本来培ってきた、土に触れるという歴史のDNAみたいなものが掘り起こされるような感じ」だと話す。

田舎に暮らす人の日常を求めてやって来る
田舎に暮らす人の日常を求めてやって来る

また「皆さん辛い作業ではあるが、大勢いるとそれが楽しさに変わって、”もっとやりたい”とか”大切なことに気づきました”という若い外国人が多い」という。

大切なことに気づいたという声も
大切なことに気づいたという声も

日本文化・農業を知るため移住

トマゾさんも学生時代に「ぽんた山」で里山生活を体験。日本の文化や農業を「もっと知りたい」と2023年にイタリア・ミラノから移住した。

イタリア・ミラノから移住したトマゾさん
イタリア・ミラノから移住したトマゾさん

「外国人は日本について大きな都市だけ分かります。東京・京都・大阪、でも田舎の生活はすごく面白い。だけど外国人はあまり分かりません。ここは外国人に田舎の生活と村の文化を教えます、学びます。外国人のためにもすごく面白い、すごく良いと思います」とトマゾさんはいう。

トマゾさん「田舎の暮らしはおもしろい」
トマゾさん「田舎の暮らしはおもしろい」

自然も暮らしも魅力的

住んでいる人にとっては「見慣れた景色」や「普通の生活」も、外国人にとっては“新鮮”そのもの。トマゾさんは、日本の里山体験の魅力をSNSなどで発信しながら、もっと多くの外国人観光客が鮫川村に来ることを期待している。

日本の里山の魅力を世界に発信
日本の里山の魅力を世界に発信

「ミラノの隣にも、田んぼはすごく多いけど全然違う。ここにいっぱい小さい田んぼがあります。すごく自然がある。ミラノの隣はあまり自然がない、だからここはもっともっといい、あと空気も綺麗、農作業は薬なしだからちょっと珍しい」とトマゾさんは話す。

母国との違いも魅力に
母国との違いも魅力に

里山環境を守る意識の変化に

あぶくまエヌエスネットの進士徹さんは「先人が培ってきた農山村の環境がしっかり未だにある。かといって、それが5年10年健全であるかといったら、高齢化・少子化っていう課題はどこの町村も同じだと思う」

高齢化・少子化など農山村の課題はどこも同じ
高齢化・少子化など農山村の課題はどこも同じ

「そういったところに、インバウンドで外国の方が訪れる、そこで”綺麗にしておかないといけないな”とか、行き届かないところは一緒に里山の環境整備をボランティアで手伝ってもらったりとか、そういった意義はたくさんあると思う。いつでも門は開いてますっていうような環境でいると、鮫川村もランキング14位じゃなくてベスト3の中に入っていくような予感はしています」と語った。

インバウンドで注目されることで環境を守っていけたら
インバウンドで注目されることで環境を守っていけたら

人気の理由 リピーターの増加

外国人がメジャーな観光地ではなく鮫川村のような田舎を目指す理由を、ナビタイムジャパンの藤澤政志さんは2つ挙げる。
一つ目は「リピーターの増加」で、初めて日本を旅行した時には東京や京都・大阪などゴールデンルートと呼ばれる王道の観光地を巡るが、2回目・3回目となると「王道」とは違う場所を目指す人が多いという。

ナビタイムジャパン地域連携事業部の藤澤政志部長
ナビタイムジャパン地域連携事業部の藤澤政志部長

自国にない本質的な体験を求める

ナビタイムジャパンの藤澤さんは「外国の方々は、まず自分の国の人がいない所を求める。その中で、体験したいのは本質的な体験。例えば、日本の作られた観光地ではなくて生活。日本の地域の生活をしてみたいとか、地域の人たちと交流をしてみたい、農作業をしてみたい、こういった体験ができる場所っていうのをみなさん求めている」という。

作られた観光地ではなく”日常の暮らし”を観光に求める
作られた観光地ではなく”日常の暮らし”を観光に求める

環境・文化などに配慮した観光

田舎を訪れるもう一つの理由に挙げたのが「サステナブルツーリズムの広がり」だ。「環境や文化・経済への影響に配慮した観光」という意味で、自然や文化・伝統に触れる体験型の観光を指す。藤澤さんは、自治体だけではなく地域全体での受け入れが大切と話す。

自治体だけではなく地域全体での受け入れが大切
自治体だけではなく地域全体での受け入れが大切

外国人の間で人気になって、魅力に気付かされるケースもある。身近な自然や、昔から続いている生活の一コマなど観光資源になるかも知れない。

(福島テレビ)

福島テレビ
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