2024年の米大統領選まで一年を切る中、無所属に転じたケネディ候補が、選挙の行方を左右する“大きな波乱要素”として浮上してきた。

民主・共和両党支持者の1割以上がケネディ氏へ

世論調査では定評のある、米コネティカット州のクイニピアック大学が10月下旬に行った大統領選に関わる調査結果によると、バイデン大統領とトランプ前大統領、それに10月に民主党から無所属に転じたロバート・F・ケネディ・ジュニア候補が加わって三者で選挙が行われた場合、得票率でバイデン大統領39%、トランプ前大統領36%に続いて、ケネディ候補が22%となった。

ケネディ候補は無所属としては善戦しているものの、最終的には勝機がないことを示したようにも見えるが、問題なのはその支持者の由来だ。

無所属の有権者の36%がケネディ候補を支持するのは当然だとしても、共和党支持者の14%、民主党支持者の12%が「ケネディ候補に投票する」と表明しているのだ。

つまり、ケネディ候補はバイデン、トランプ両陣営からそれぞれ一割以上の票を「もぎ取る」わけで、それもトランプ前大統領の受けるダメージの方が大きいということになる。

ケネディ・ジュニア氏
ケネディ・ジュニア氏
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加えて支持者の年齢層だが、ケネディ候補の場合は18~34歳が38%で最も多く、バイデン大統領の場合は65歳以上が49%、トランプ前大統領は50~64歳が41%で、いずれも高齢層が支持者の中心になっている。

ケネディ候補の父、ロバート・ケネディ元司法長官や、叔父のジョン・ケネディ元大統領が続いて暗殺された時代にはまだ生まれてもいなかった世代が中心ということは、「ケネディ」という名前に魅了されての支持ではなく、高齢の現・前大統領には新しい時代を任せられないという思いの表れのようにも思える。そうならば、本選挙へ向けてさらに支持が上向くことはあっても減ることはないと考えられるだろう。

本選挙への影響は…トランプ陣営が危機感

では、それが各州に割り当てられた選挙人を争う本選挙にどう影響するのか、ほぼ時を同じくしてニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大学が共同で世論調査を行なっていた。

調査は前回2020年の大統領選で激戦の結果バイデン大統領が州投票を制して全国選挙の勝利を決した6州(ジョージア州、ネバダ州、ミシガン州、アリゾナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州)について重点的に行なった。

その結果、バイデン・トランプ二者対決の場合ならウィスコンシン州でバイデン大統領が2ポイント差でリードしている以外は、トランプ前大統領が残り5州で4~11ポイントもの優位差をつけて前回のリベンジを果たせる勢いであることが分かった。

ところが、これにケネディ候補が加わって三すくみとなると、トランプ前大統領はジョージア州とネバダ州でいずれも7ポイント差で優位に立ってはいるものの、ミシガン州では3ポイント差で拮抗し、アリゾナ州とペンシルベニア州では共に35%と並ぶことになった。バイデン大統領はウィスコンシン州で2ポイントのリードを辛うじて守ることができそうだ。

「募る危機感:トランプ陣営はRFK Jr.(ロバート・F・ケネデイ・ジュニア)が2024年の『スポイラー』になることを恐れている」(バニティフェア誌電子版13日)

「スポイラー(spoiler)」は「台無しにすること」や「ネタバレ」という意味で使われることが多いが、英和辞書で引くと「<米>〔有力候補者を〕妨害する候補者」という解釈(英辞郎on the WEB)があった。つまり、ケネディ候補はトランプ前大統領の再選の邪魔をする候補者として、トランプ陣営が危機感を抱いているということだろう。

筋トレを披露するケネディ・ジュニア氏
筋トレを披露するケネディ・ジュニア氏

仮に、この6州でケネディ候補がさらに支持を伸ばしてトランプ前大統領を邪魔し、バイデン大統領を勝たせることになったとすると、6州に割り当てられた選挙人79人を大統領が獲得することになる。前回2020年の大統領選でバイデン大統領が勝利した時は、選挙人で74人差だったから、この6州だけで勝負がつくことになる。

今回ケネディという名の「スポイラー」が活躍すると、トランプ前大統領が勝つ可能性を絶たれることにもなりかねない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。