最大都市・ガザ市中心部に侵攻したイスラエル軍が、攻勢を強めている。そんな中、国際社会からの批判の高まりに合わせる形で、イスラエル軍が発信する情報にも変化があった。
イスラエル軍が9日の朝に公開したビデオでは、女性兵士がハマスの残虐性を訴え、イスラエル側の攻撃の正当性を示すような内容になっていた。

イスラエル軍が攻勢を強める

イスラエル軍はイスラム組織ハマス掃討に向けて、パレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を進めている。

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最新情報をイスラエルから、山岸記者がお伝えする。

最大都市・ガザ市中心部に侵攻したイスラエル軍は、ハマスへの攻勢をさらに強めている。ガザ市のシファ病院では、今朝も大きな爆発があった。
映像には病院の外にいた人たちが、爆発の直後に逃げ惑う姿が確認できた。この病院は、地下にハマスの指令本部があるとして、イスラエル軍が度々攻撃してきた場所だ。

イスラエル軍は8日、ハマスの戦闘員がガザ地区の住民と交わした会話の録音を新たに公表した。この中で戦闘員が「自分はいつでも救急車に乗って移動できる」と話している。
イスラエル軍はハマスが攻撃を逃れるため、救急車や病院を「盾」として利用していると、改めて警告した。

こうした中、イスラエル軍の報道官は8日夜の会見で、ハマスとの停戦には応じないとする一方、住民を南部へ避難させる人道目的の戦闘の一時停止はあり得ると明言した。
一部の地元メディアは情報筋の話として、一部の人質解放と引き換えに、人道的な戦闘の一時停止が近く宣言されると報じている。
しかし、こうした情報はこれまでも度々浮上しては消えていて、調整は難航するものとみられる。

また、ガザ地区での死者が増え、イスラエルへの批判が高まる中、イスラエル軍がSNSで発信する情報にもある変化がみられている。

イスラエルの軍情報戦略に変化

そこにどんな狙いがあるのか、イスラエルの情報戦略についてお伝えする。

現在の戦況だが、ガザ地区内ではイスラエル軍とハマスによる戦闘が激しさを増している。
ハマス側がイスラエル軍との戦闘を写した映像を、日本時間の9日朝に公開した。撮影日時はわかっていない。
ロイター通信は、ガザ地区北部にあるイスラエルとの境に位置する町だと特定している。

ハマス側は民間人を装うためか、ヘルメットや防弾チョッキなども着ていない戦闘員もみられ、携帯型のロケット砲でイスラエル軍の戦闘車両に攻撃を行っている。
映像からは、双方でかなり接近戦が行われていること、また、住宅街や商店街だったところがもはや戦場と化していることが分かる。

一方で、イスラエル軍はハマスのトンネル130カ所を破壊した。
8日の記者会見で報道官が「ハマスはガザ地区北部で統制を失った」と発表するなど、戦いを優勢に薦めていることを強調している。
このような映像を公開することで、自分たちが戦っているのはハマスだということ、そして、全滅に向けた作戦が着実に進んでいるということを、国際社会にアピールしたいという狙いもある。

映像からも日に日に、地上戦が激しさを増しているのが分かる。

それと同時に、各地でガザ地区への攻撃に抗議するデモも頻発するなど、イスラエル批判が高まっている。

その国際社会からの批判の高まりに合わせる形で、イスラエル軍に変化がみられている。
これまでイスラエル軍は、SNSで多くの映像を公開してきた。戦闘開始当初は、空爆など圧倒的な軍事的優位性を示すものが多かった。

しかし、国際批判の高まりと共に、この1週間ほどで如実に変化し、イスラエル側の攻撃の正当性を示すものになってきている。

イスラエル軍が9日の朝、公開したビデオでは、女性兵士がカメラに向かって語りかける内容になっている。
女性兵士が「ガザ地区で今起きていることを見れば、あなたは怒りを感じるだろう。しかし、悲劇の裏で糸を引いているのはハマス側だ。今各地で起きている怒りこそ、ハマスの隠された武器なのだ」と、カメラに向かって訴える内容となっている。

また、10月7日にハマスがイスラエルに侵入した際、女性の人質を誘拐する瞬間や、市民を虐殺した現場の映像をまとめて公開し、「もし犠牲者があなたの家族だったらと想像してみてください」とコメントし、ハマスの残虐性を訴えている。

2つの映像はいずれも、ハマス側のテロによって始まった戦闘であることを強調し、ガザ地区攻撃への正当性を訴える内容の映像になっている。

外交の場でもイスラエルは同様の主張を繰り返してきたが、批判や停戦を求める各国の世論に対しては、このようにSNSで正当性を主張し始めている。

SNSが世論を動かす存在に

SNSが国を越えて世論を形成する時代だ。この空爆を巡っても、アメリカの有名俳優のSNS投稿にまで、イスラエルの大統領が反論するような事態になっていた。

俳優で、国連で人権活動も行ってきたアンジェリーナ・ジョリーさんが、ガザへの攻撃を批判するメッセージを先日インスタグラムにアップした。
この投稿には、400万人が支持するサインを出していた。

これについても、イスラエルのヘルツォグ大統領が「彼女はガザにも行ったことがない」として反論した。これは、イギリスの有名司会者からのインタビューにヘルツォグ大統領が答えたもので、強い反論だった。
逆にそれだけ、この投稿をイスラエル側も無視できないものとしてみていたと思われる。アンジェリーナ・ジョリーさんのフォロワーは1500万人で世界的にも影響がある。

SNSは直接的に戦闘に関係はないが、ウクライナ戦争と同様、世論を動かす存在となりつつある。
(「イット!」 11月9日放送より)

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