リニア中央新幹線の工事をめぐる南アルプスの生態系への影響について話し合う国の有識者会議が報告書案を示す中、静岡県が反発を強めている。11月1日に国へ出した意見書には「十分な議論をしていない」「強く懸念」など厳しい言葉が並ぶ。

報告書案はまとまる その内容は…

2022年6月から始まった南アルプスの生態系への影響を議論する国の有識者会議。会議では「トンネル掘削に伴う地下水位変化による沢の水生生物等への影響と対策」「トンネル掘削に伴う地下水位変化による高標高部の植生への影響と対策」「地上部分の改変箇所における環境への影響と対策」の3つを論点に議論が進められ、2023年9月の会議では報告書案が示された。

国の有識者会議(2023年9月)
国の有識者会議(2023年9月)
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具体的にはトンネルの掘削前に基礎的なデータを収集し、工事前の自然環境を把握することを前提に「論点ごとに、影響の予測・分析・評価、保全措置、モニタリングのそれぞれの措置を的確に行い、それぞれの結果を各措置にフィードバックし、必要な見直しを行う、いわゆる『順応的管理』で対応することにより、トンネル掘削に伴う環境への影響を最小化することが適切」とした上で「管理流量等の範囲を逸脱するような事象が発生した場合は、早期にその兆候を掴み、躊躇なく工事の進め方を見直すことが必要」と提言している。

加えて、JR東海に対して「有識者会議における議論等を通じて醸成された環境保全についての意識を、経営トップをはじめ社内全体で共有し、環境保全措置やモニタリング等の対策に全力で取り組む」ことを求めた。

他方、国に対しても「科学的・客観的な観点から、整理された対策が着実に実行されているか、プロジェクトが着実に進められているかについて、継続的に確認することを検討するべき」と当事者意識を持つよう指摘したものの、全体としては議論の中でJR東海が提案し、委員の意見を反映してブラッシュアップした対策をほぼ認める内容となった。

強い言葉で懸念や不信感示した静岡県

こうした中、静岡県は11月1日、この報告書案に対する“意見書”を国土交通省 鉄道局長宛に出した。

意見書では、これまでに伝えた留意点や課題点について「十分な議論をしていない」と苦言を呈しつつ、まず報告書案に記された“順応的管理”に噛みついた。

県はこれまで再三「沢の水生生物等への影響予測が行われていない」「沢の上流域の生物調査が不足している」などと主張していて、「工事着手前の生態系への影響予測をしていない現在の案では、JR東海が順応的管理を適切に実施できないことが懸念される」と反発。

また、報告書案には「これまでの国有識者会議において、十分に議論されないまま取りまとめられた内容もある」と指摘したほか、沢の水生生物について「代償措置、新たな生物生息環境の創出に関する具体的な内容については、生物多様性オフセットの考え方も踏まえ、今後、静岡県、静岡市、地権者等の関係者と連携しながら、JR東海において検討、実施することとした」と記されたことに対して「具体的な結論が今後の検討に委ねられている」と牽制した。

意見書には要所要所に強く厳しい言葉が並ぶ
意見書には要所要所に強く厳しい言葉が並ぶ

その上で、国の有識者会議の「JR東海の取り組みに対して具体的な助言・指導等を行うこと」という設置目的を持ち出し、県の考えが「十分に議論されないまま報告書が確定することになれば、当初の目的にそぐわない」と非難。

そして、県が提示した課題を議論し「その結果を反映した国報告書を取りまとめられるよう、強くお願い申し上げる」と結んだ。

議論の行方はいまだ見通せず

加えて、県は現在の状況のまま報告書が成案となった場合、県専門部会等において「具体的な課題解決に向け、再度議論・検討する必要が生じる」との懸念も示している。

静岡県庁
静岡県庁

一方で、川勝知事はこれまで一貫して国の有識者会議の結論を鵜呑みにすることなく、県専門部会に“持ち帰って議論する”と繰り返してきただけに、この言い分には疑問符も付く。

リニア新幹線の静岡工区をめぐる問題がこう着して6年あまり。ただただ時間だけが経過している。

(テレビ静岡)

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