イノシシやシカなど、動物による農作物への被害が増えるなか、駆除した動物の処理も課題となっている。中国山地の山間にある島根・美郷町では、長年、イノシシの被害に悩まされてきたが、ここにきて、新たにシカが急増中でその対策にも追われることになった。
新たな悩み、駆除後のシカの有効活用を目指し、美郷町は、これまでありそうでなかった、意外な作戦に打って出た。

“厄介者”を動物園のエサに

10月22日、広島市の安佐動物公園。お昼を迎え、動物たちも“ランチタイム”だ。

飼育スタッフ:
今からライオンのごはんの時間なんですが、きょう与えるお肉をちょっと出しますね

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来園者に人気の「エサやりタイム」の時間。飼育スタッフが手にしていた巨大な骨付きシカ肉を与えると、ライオンは夢中で食らいついていた。このシカ肉だが、ただのシカ肉ではない。

TSKさんいん中央テレビ・福村翔平記者:
広島県の動物園です。ここに島根から来たのは私だけではありません。あちらのライオンが食べているエサも、県境を超えて島根からやってきました。

実はこのシカの肉、畑や山を荒らす”厄介者”として、島根・美郷町で駆除されたものだった。これまで、害獣として美郷町内で駆除されたシカは、すべて町内で処分されてきたが、10月から、その一部を動物のエサとして、この動物園に提供している。

シカの捕獲頭数が10倍に

美郷町 美郷バレー課・安田亮課長:
シカの生息域が徐々に広島側から北上していまして、県境の美郷町でも徐々に増えてきている。これから爆発的に増えるだろうという予測もあり、今からこうした取り組みを通じて、捕獲後の利活用の対策を考えているところ。

例年30頭前後だったが2023年は10倍も
例年30頭前後だったが2023年は10倍も

島根県によると、美郷町内のシカの捕獲頭数は、これまで、多くても年に30頭ほどだったが、2022年は急増し、335頭に。

エサを求めて美郷町に集まってきている
エサを求めて美郷町に集まってきている

もともと、広島県北部に生息していたシカが、エサを求めて島根県側にも生息範囲を拡大。美郷町内では、実際にシカによる被害が出ているという。

邑智郡森林組合・玉岡優さん:
こういう風に木の頭を折ったり、枝の頭を食べたり、葉を食べたりするのがシカの被害。

シカに食べられた桜の苗木。葉がなくなり、枝も折れてしまっている。

邑智郡森林組合・玉岡優さん:
次にまた植え直さないといけない。だったら、その費用はどこから持ってくるかという問題もある。

「命を最後まで大事にする」

山間の美郷町。シカの前に深刻だったのは、イノシシによる被害だ。

イノシシを缶詰にして販売
イノシシを缶詰にして販売

美郷町では約20年前から町内の農家が組合を結成し、町と連携して捕獲や肉の加工・販売などに取り組むなど「獣害」を逆手に取って、地域活性化に生かし、成果を挙げてきた。こうしたノウハウを生かし、シカ対策として始めたのが、動物園にシカ肉を提供することだった。

動物園への提供は、2023年8月から試験的にスタート。10月から週1回のペースで与えてきた。

美郷町 美郷バレー課・安田亮課長:
人間が食べるシカの部位は1割から2割程度。残りの8割の部分を、どういうやって「産業廃棄物」にしないかが大事。

シカ肉のうち、人間が「ジビエ」として食べられる部位は全体の2割ほど。どの部位でも食べてくれるライオンのエサになれば、有効活用につながる。

さらに、メリットはこれだけではなかった。

安田課長によれば、シカ肉をエサとして販売しても、「もうかりもしないし、トントンくらい」の採算性だというが、シカ肉の解体や埋設などの処理にかかる費用は、一般的に、1頭につき数万円とされるため、処理費用の負担軽減にもつながる。

美郷町 美郷バレー課・安田亮課長:
命を最後まで大事にすること、いかに使っていくかということが大事。

“厄介者”の害獣であってもひとつの命。捨てることなく有効に活用することが、奪われた命に報いることになる。
「獣害」対策で一歩先を行く美郷町ならではの発想が、同じ悩みを抱える全国の自治体に光明をもたらすかもしれない。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
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