子どもの壊れたおもちゃをボランティアで直す「おもちゃ病院」。ここで活躍するドクターは、多くが仕事を引退したシニア世代の人たちだ。“第二の人生”をおもちゃの修理にかける71歳の男性に密着した。

ドクターが診察 “入院”することも…

山形・米沢市にあるコミュニティセンターで月に1度の「おもちゃ病院」がオープンすると、さっそく親子連れがやってきた。

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女の子:
シが鳴らない…

最初の“患者”は、8年間使ったおもちゃのピアノ。鍵盤の「シ」の音が出なくなってしまったそうだ。

おもちゃドクター歴5年・竹田勇治さん(71)
おもちゃドクター歴5年・竹田勇治さん(71)

おもちゃ病院では、患者の診察は「おもちゃドクター」が無料で行う。「おもちゃドクター」は、多くが仕事を引退したあと専門の研修を受けたシニア世代のボランティアだ。

おもちゃドクター歴5年の竹田勇治さん(71)たちが、ピアノの修理に当たる。音が出ない原因を探っていると、内部が焼けていることに気がついた。

女の子:
なんで焦げてるんだろう?

竹田勇治さん:
これは電流がいっぱい流れたから。ここの音をいっぱい使ったから

「シ」の鍵盤をたくさん使ったことで、内部に汚れがたまったことが故障の原因のようだ。汚れた部品を分解してクリーナーできれいに拭くと、鳴らなかった音が復活した。

女の子:
あ、鳴った!なんで鳴った?

ドクター:
お掃除したから

竹田勇治さん:
中にカスがいっぱいたまっていた

音は出るようになったが、ほかにも壊れた箇所があるため、今回は「入院」。つまり、おもちゃを一旦預かって、じっくり修理することになった。

女の子:
入院か、さようなら。友達よ、さようなら~

高性能化の影響で「完治率」は低く

続いて竹田勇治さんたちが修理するのは、動かなくなってしまった“ラジコン”。

次の患者は動かなくなったラジコン
次の患者は動かなくなったラジコン

ドクター:
カタカタと音がする…。聞こえますか?

竹田勇治さん:
あ、聞こえる聞こえる。モーターが動こうとしているが、ものすごく重い感じ

どうやら電流がうまく流れないことが問題のようだ。さらに原因を探ると、原因が「基板」にあることにたどり着いた。

竹田勇治さん:
基板だー、さあ基板だー(笑)

ドクター:
ICだな…。ちょっと絶望的だな。そうなると難しいね

「おもちゃドクター泣かせ」だというIC
「おもちゃドクター泣かせ」だというIC

IC(集積回路)は半導体などで構成され、複雑な機能を持たせることができる電気回路。最近のおもちゃに数多く採用されているICだが、じつは「おもちゃドクター泣かせ」だという。

竹田勇治さん:
正直言うと、このラジコン用のICがないと直せない

ドクター:
ラジコンのICは、ほとんど市販されていない

竹田勇治さん:
小型にできるからメーカーとしては作りやすい。LEDを点灯したり、音を出したり、それらがICだと1~2個でできる

以前は99%を超えていたおもちゃの「完治率」は、ICなどによる高性能化の影響で現在は約95%に下がったという。

やまがたおもちゃ病院 米沢診療所・小関隆亮代表:
昔だと診察すると、修理に必要な規格・容量が書いてあったが、今はICチップなのでわからない。そういうものは直しにくいというか、直せない(笑)

おもちゃドクターを続ける理由

竹田さんは毎月、1・2体の“入院おもちゃ”を持ち帰り、自宅で修理している。竹田さんがおもちゃドクターになろうと思ったのは5年前。きっかけはささいなことだった。

竹田勇治さん:
私65歳までは、おもちゃ病院もおもちゃドクターもまったく知らなかった。地域のコミュニティ紙か何かでおもちゃ病院の紹介記事を見て、それで「面白そうだな」と思った

竹田勇治さんは定年まで約40年間、パソコンや半導体を製造する会社で働いていた。引退後、シルバー人材センターでの仕事などもしていたが、もともと修理が得意だったことから、東京の「おもちゃ病院協会」で2泊3日の研修を受け、おもちゃドクターとなった。

入院患者のモノレール
入院患者のモノレール

この日、竹田勇治さんが直していた“入院患者”は、動かなくなったモノレール。箱を見てみると、2010年のクリスマスプレゼントの文字が書かれていた。13年前から大切に使われていたようだ。

竹田勇治さん:
おじいちゃんかおばあちゃんからもらったおもちゃですよね。これを読むとね…、大事ですよね。思い出ですもんね。あの時、おばあちゃんからもらったと思うもんね。そうすると、何としても直してあげたいとやはり思いますよね

動かなかったモノレールは、古くなったギヤが割れていたことが原因だった。ギヤを新品と交換し、フタを閉じれば修理完了で退院できるはずだが、なかなかうまく噛み合ってくれない。

竹田勇治さん:
こんなもんですよねー。次回ちゃんと動くのをお見せできるといいですね。楽しみにしててください

無事修理が完了し動くおもちゃを前に…
無事修理が完了し動くおもちゃを前に…

そして退院当日。修理を依頼した親子がやってきた。

竹田勇治さん:
レールがなかったのでレールを作りました。動くよ、行きます。もう1回やってみる?

モノレールのおもちゃは無事に直っていた。

男の子:
ありがとう

竹田勇治さん:
おう、良かったね

修理は基本無料だが、交換した部品の材料費など実費分だけはかかる。モノレールの修理代金は50円。

父親:
走らなくて子どもがすごくがっかりしていたので、とてもうれしいです。本人も喜んでいたので

現在「おもちゃ病院」は全国に約700カ所。県内では、山形市・コパル・米沢市・鶴岡市・東根市の5カ所で毎月開催されている。おもちゃドクターの仕事はボランティアなので報酬はない。

それでもドクターを続けている理由を竹田さんは「直して渡した後の子どもの喜びようが、なんとも例えようがない。やりがい・満足感がある」と語る。

ほとんどのおもちゃは、おもちゃドクターの手で元気になって、子どもたちの元へと帰っていく。竹田勇治さんたちは、そんなおもちゃドクターが増えてほしいと願っている。

竹田勇治さん:
やってみたいという方をものすごく募集しています。仲間が欲しい、そういう思いはありますね、みんなの意見

小関隆亮さん:
この放送を見て、「ドクターになってみたい」という人が増えることを願っています

米沢のおもちゃ病院に持ち込まれるおもちゃは年間約100体。竹田勇治さんたちの修理はまだまだ終わらない。

(さくらんぼテレビ)

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さくらんぼテレビ
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