改正旅館業法が年内に施行され、ホテルや旅館での“迷惑客”に対して宿泊を拒否することが可能になる。日本カスタマーハラスメント対応協会理事の酒井由香さんにその内容を解説してもらう。

12月から迷惑客の宿泊拒否が可能に

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まず、カスハラ(カスタマーハラスメント=顧客からの嫌がらせ)について、番組でアンケートを行った。「“カスハラ”にあったり、見かけたことはありますか?」という質問に、41%の人が「経験がある」と回答した。

12月から施行される改正旅館業法では、カスタマーハラスメントを繰り返す客の宿泊を拒否することが可能になる。意外かもしれないが、現行の旅館業法では客の宿泊拒否はでない。

ポイントとなるのが、苦情やクレームではなく、カスハラ、顧客からの嫌がらせによって、従業員の労働環境が害される場合に対し、旅館側が改善や対応をとることができるということだ。

今回の法改正では、従業員にとってメリットが大きいと言えるだろうか?

 日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
ハラスメント、嫌がらせとつきますので、受け手側(従業員側)の精神的な、もしくは身体的な状況がすごく重要になります。2022年の2月に厚生労働省から出されているカスタマーハラスメントに関するマニュアルにおいても、応対者や接客担当者を組織や企業が守っていくことが必要であるとされているものですから、具体的な業種への転換が、今回の旅館業法に反映されたと考えています

カスハラにあたる具体例

では、具体的にはどういったものがカスハラにあたるのだろうか?

・𠮟責や暴言
・土下座の要求
・性的な言動(セクハラにもあたる)

これらがカスハラに当てはまるが、これらはすぐに思いつく。しかし、これらだけではなく他にも、以下のような行為がカスハラにあたるのだ。

【過剰サービスの要求】
・「もっと割引をして無理ならアップグレードしろ」
繰り返し、不当な割引などの過剰なサービスを要求すること。
・「私の部屋の上下左右は宿泊させないで」

このように、過剰なサービスを繰り返し求めることはカスハラにあたる。では、例えば、宿泊の予約をした時には割引はなかったが、後になってお得なクーポンや割引きを見つけてしまって、お願いしたいという場合などはどうだろうか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
もちろん普通にお伝えするということであれば、カスハラではないですし、さらに言えば、旅館、ホテル側に仮に不手際や不備があるのであれば、当然、正当な苦情は伝えればいいと思います。カスハラになるのは“過度である”とか“執拗である”とかタイミングによっては、他の人が不快になるということなので、そうした状況を作らないということがすごく重要となると思います

また、従業員を拘束するということもカスハラにあたるという。

【従業員拘束】
・「気分が悪い…一緒にいてほしい」
泥酔し、従業員に繰り返し長時間の介抱を求める
・「私の接客は全部あなたにしてほしい」
繰り返し特定の従業員に対応をさせる

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
これも前提として、従業員がどう受け止めるかということがすごく重要になります。あとは周囲のお客様がどのように感じるか、不快じゃないかということもあると思います。この業種の中において、長年の信頼関係の中で「あなたに接客してほしい」「このお客様のためなら」というすごく良い文化があると思うんですけども、それを逸脱するような状態が続いてしまうと、今回のガイドラインに抵触してくると考えられます

互いが尊厳を持って接することが重要

同じ宿泊施設に繰り返し訪れることで、訪問時に「おかえりなさい」と迎えてくれるような関係性が結ばれていて、「いつも気持ちよく接客してくれる従業員さんにお願いしたい」と思う経験をされたことがある方もいるかもしれない。

長年の信頼関係と思っていても、従業員の方は「嫌だ」と思っているかもしれない。従業員が嫌だと思っているかもしれないというのは、どのように判断したらよいのだろうか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
お互いの信頼関係の受け止め方ですので、そのように相手が「もしかしたら自分とは違う思いかもしれない」と考えながらお互いが尊厳を持って接することというのが、この業界も含めて重要な事ですね

こちら側に悪気がなかったとしても、受け取る側がどのように思うのかが重要なのだ。

宿泊施設側が“NO”といえるのか

本来、お客さんと従業員は対等な立場であり、お互いが気持ちの良い関係を続けていくためには、お互いの努力が必要だと思う。そのバランスを客側が崩してしまった時、お店側がしっかりと拒絶することは難しいかもしれないが、その後ろ盾となるようであれば、今回の法律に意味があることのように感じる。

しかしながら、今回の改正で旅館側からすれば安心かというと戸惑いもあるようだ。

旅館からは、「受け止めるべきお客様のお言葉もある中、どこからが“カスハラ”なのか線引きも宿泊の断り方もすごく難しい」といった声も聞かれる。法が施行されることで、旅館側のとまどう気持ちも解消されていくのだろうか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
法の施行と合わせてガイドラインが出ています。そのガイドラインに沿えば、非常に働きやすくなるのではないかと考えています。宿泊者も自分の行動が正しいのか、これに触れてしまわないのか気にしますし、従業員もこれによって「私たちは守られている」というふうに思え、お互いの尊厳を守り合うということがうまく進んでいくことで、今までの文化がさらに醸成されていくことを期待しています

法によって守られているとはいえ、実際に宿泊施設の方が迷惑行為に対して“NO”と言えるかという問題もある。対応方法については、宿泊施設ごとでの対応になるのだろうか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
ガイドラインの中において、どのような態度、宣言をするのか、表明をするのかというのは各宿泊施設の中で決まっていくことになります。ラグジュアリーな所に泊まった時と、そうでない時では宿泊客側の期待値も違うと思いますので、そのあたりはだんだんと施行後に決まっていくのではないかと思います

例えば、迷惑客を断った後にSNSで悪い口コミを拡散されるといった宿泊施設側が“逆襲”にあうことがないように予防線を張ることはできないのだろうか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
この問題はカスハラや旅館業に限らないことだと思いますが、やはりそれを上回る“良いお声”がすごく重要になると思いますし、それを上回る良い接客・接遇というのが重要になると思います。利用者と宿泊施設側が戦いにならないようにしていくことが重要な事だし、そのような心持ちで宿泊者側もいるということが重要かなと考えています

コメントを見る側の意識も高めていかないといけないということも言えそうだ。

守らなければならないガイドライン

さらに、今回の改正で利用者にとっても何か変わるきっかけになるのだろうか?

関西テレビ・加藤さゆり報道デスク:
今回の法改正は、宿泊施設の方を守るという意味合いもあるんですけど、実は障害者の方に対しても明記されていることがあります。「障害を理由にした宿泊を拒否をしてはならない」ということも、今回の法改正で踏み込んで決められたんですね。例えば、障害のある方の団体の方に話を聞くと、障害者手帳を見せただけで「うちはおことわりです」って言われるケースもあったりだとか、そういう団体さんはおことわりっていうケースが今まであったそうです。そのようなケースもガイドラインで「してはいけない」と示されたのは、良い第一歩だとおっしゃっていたので、それがうまく運用されるようになっていってほしいと思います。

12月の施行以降に整えられていく

視聴者からの質問に酒井さんが答える。

ーー客は旅館側にどの程度まで希望を言えますか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
すごく難しいことだと思います。お互いが尊厳を持って接することであったりとか、信頼し合ってふるまえる関係性においては、要望はおっしゃっていただいた方がいろいろなサービスの向上にもつながりますから、事業者側としてもウェルカムだと思うのですが、それを逸脱しないところがどの程度までっていうラインは、これからみなさんですり合わせていければいいなと思っています

ーーカスハラを受けた場合の相談窓口はありますか?

日本カスタマーハラスメント対応協会理事・酒井由香さん:
今回のガイドラインの中で、企業側、事業者側に相談窓口の設置が求められていますので、12月の施行以降にさまざま整えられていくし、整えなければならないし、提供しなければならないという状況ですね

時代に合わせて従業員、そして宿泊客、双方が気持ちよく過ごせるようにするということが大事だと言えそうだ。

(関西テレビ「newsランナー」2023年10月18日放送)

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