期間限定で11月5日までオープンしている広島初の「分身ロボットカフェ」。病気や障がいで自由に動けない人々が、店内のロボットを遠隔操作し接客する。この画期的な取り組みは外出困難者の社会参加を可能にした。

自分の意思でロボットを動かして接客

石井百恵 記者:
期間限定で広島市の中心部にオープンするこちらのカフェ。出迎えてくれるのは…

ロボット:
こんにちは。いらっしゃいませ。本日はご来店ありがとうございます

石井百恵 記者:
ロボットが接客してくれるんです

ロボットに接客される石井百恵記者
ロボットに接客される石井百恵記者
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10月20日~11月5日の期間だけ、広島市中区のアンデルセンカフェひろぎんホールディングス本社ビルにオープンする「分身ロボットカフェ」。配膳や接客を担当するのは「オリヒメ」と呼ばれるロボットだ。

ロボットがいるというのは今や、ほかの店でも見られる光景だが、この「オリヒメ」にしかない特徴がある。

オリヒメ:
私は北海道札幌市から遠隔操作しています。外出困難者ということで、このお仕事をさせていただいているんですよ

北海道札幌市から遠隔操作されるロボット
北海道札幌市から遠隔操作されるロボット

「オリヒメ」は、脳性マヒなど病気や障がいで病室や自宅から出られない人が働ける環境を作ろうと開発されたロボット。どんな人が操作しているのか、パネルに名前や写真が紹介されている。

開発したのは、東京の株式会社オリィ研究所。

オリィ研究所・吉藤オリィ 所長:
自分の意志で行きたい場所に行けて、社会で死ぬまで人生を謳歌(おうか)することができる未来を実現したい

お客と会話を楽しみ、ツッコミも?

「分身ロボットカフェ」は2021年に、東京・日本橋にオープンした。

TSSは2022年2月にそのカフェを取材している。そこで働いていたのは、愛知県、山形県、北海道など全国各地から遠隔操作される「オリヒメ」だった。

接客担当者がいる場所は、北は北海道から南はオーストラリアまでさまざま。

(Q:オリヒメはどんな動きができるのですか?)
オリヒメ(操作・今井道夫さん):
基本的には首振り、手ぶりができます。お客さんを迎えるときに手を振るような動作、手をパタパタするような動きとか

操作する人は、パソコン上のボタンを押してロボットを動かしている。

パソコン上の操作ボタン
パソコン上の操作ボタン

「手をあげる」「手を広げる」「左を向く」などのほかに、こんなことも…

オリヒメ:
なんでやねん

“ツッコミ”の手ぶりを交えながら、お客さんと会話を楽しむこともできるのだ。

テクノロジーの進化は、障がいのある人が接客をするという新たな社会参加を可能にした。この日本橋のカフェを足掛かりに、その後、自治体や企業でも「オリヒメ」が導入され、活躍の場を広げてきた。

そして今回、観光客の多い広島で、より多くの人に知ってもらおうと期間限定のカフェを開くことになったのだ。

特別支援学校の生徒7人が就労体験

さらに、今回は新たな試みも行われる。広島県内の特別支援学校の生徒7人が「分身ロボットカフェ」で就労体験し、「オリヒメ」の操作や接客を学ぶことになった。

「こんにちは」
「かしこまりました」
接客の練習をしているのはその中の1人、県立三原特別支援学校3年の川本悠生さん。「肢体不自由」という障がいで、歩行や筆記などの日常動作が困難だ。

県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん
県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん

画面上にタッチして視界の向きを変えるなど、慣れない操作に試行錯誤しながら研修に臨んでいた。

ロボット操作の研修を受ける川本さん
ロボット操作の研修を受ける川本さん

県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん:
不安がありますけど、練習するのみかなって。車いすなので、こういうホールで接客するのは難しいかなと思っていたのですが、体験していろいろな世界があるなと思いました

“遠隔就労”に秘められた可能性

川本さんは、授業で将来のための訓練として木工などの作業を学んでいる。

板に焼き印を押す訓練をする川本さん
板に焼き印を押す訓練をする川本さん

2018年度の文部科学省の調査では、全国の特別支援学校の高等部を卒業した生徒のうち「肢体不自由」の人の就職率はわずか6%。就職先は限られ、多くが社会福祉施設などに入所しているのが現実だ。

ロボットを使った“遠隔就労”は、就職先を広げるなど大きな可能性を秘めている。

県立三原特別支援学校・大井弘晃 教諭:
こんな生き方もあるんだなとか、こんな人生もあるんだなというのを知ることでより豊かになると思います。今回の経験を大事にして生きていってほしいなと思います

県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん:
自分はしゃべれるので、それを武器にできるのはいいなと思います。本番では緊張すると思うんですけど、何よりも楽しみながら臨めたらなと思います

社会で「人と関わりを持つ」ために

そして10月19日、「分身ロボットカフェ」のオープン前日に開かれた報道陣への披露の場で、川本さんは参加者を代表してあいさつをすることになった。

オープン前日、報道陣への披露の場
オープン前日、報道陣への披露の場

県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん:
オリヒメパイロットのはるくんです。緊張していますが、自分らしく頑張ります。よろしくお願いします

主催するオリィ研究所は、このカフェで地元企業の視察を受け入れ、広島や中国地方の就労実績を広げていきたいとしている。

川本さんは、25日に接客デビューする予定だ。

県立三原特別支援学校3年・川本悠生さん:
大人になって社会に出たときに、この経験が人と関わりを持つという意味でもいかせればいいかなと思っています

「分身ロボットカフェ DAWN in Hiroshima」は広島市中区のアンデルセンカフェひろぎんホールディングス本社ビル店で10月20日~11月5日まで期間限定オープン。テクノロジーがもたらす無限の可能性が社会に広がっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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