習近平国家主席が提唱する「一帯一路」の国際会議が10月17日、18日の2日間、北京で開催された。中でも注目されたのはウクライナ侵攻後、初めての訪中となったロシアのプーチン大統領の動きだ。

激動する中東情勢にアメリカが苦慮する中、中ロ両首脳は緊密ぶりをアピールしたが、中国の報道には明らかにロシアを“下に見る”ないし“隠す”映像がいたるところに見られた。

非常に巧みな“印象操作”の一端と中国のしたたかな外交戦術を紹介する。

プーチン氏の話を聞く“上から”習主席

注目の中ロ首脳会談が行われた10月18日、中国中央テレビの国際チャンネルは夜のニュース番組で大きく報じた。注目すべきはプーチン氏の表情だ。上目使いに習主席を見つめたり、メモを読み上げたりするシーンが頻繁に続く。普通に話をする習主席とは明らかに違う様子だ。

中ロ首脳会談でのプーチン大統領 上目使いに習主席を見つめたり…
中ロ首脳会談でのプーチン大統領 上目使いに習主席を見つめたり…
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メモを読み上げたりするシーンが続く
メモを読み上げたりするシーンが続く

ニュースの後半では、話をするプーチン氏から画面が「引き」、つまりプーチン氏を含むロシア側のメンバー全員を写す映像になり、その後、話を聞く習主席の映像に変わる。

ニュースの後半、プーチン氏を含むロシア側のメンバー全員を写す「引き」の映像から…
ニュースの後半、プーチン氏を含むロシア側のメンバー全員を写す「引き」の映像から…
習主席の映像に…まるで報告を聞いているかのようだ
習主席の映像に…まるで報告を聞いているかのようだ

まるで「プーチン氏ら」の報告を習主席が聞いているかのようだ。習氏の表情にも余裕が感じられる。映像は習主席がプーチン氏の上位にいるような印象を与え、またそれを当局側が狙って編集したことが容易に想像できる。

また、習主席の発言を報じた時間は2分33秒、プーチン氏は1分36秒。割合にして習主席の発言はプーチン氏の1.5倍強。自国の首脳の発言を長く扱うのは当然だが、プーチン氏の発言は「世界に中国はひとつしかなく、台湾は中国の不可分な領土の一部だ(と述べた)」などと中国の核心的利益を認める箇所があり、中国側の“優位”を印象づける内容となっている。

ウクライナ侵攻の“ロシア隠し”

プーチン氏を意識した対応は、それに先だって行われた一帯一路会議の開会式の映像にも見られる。

前日の晩餐会ではプーチン氏と笑顔で握手を交わし、会場に入る際には習主席の横にプーチン氏が映っていた。しかし翌日の開会式で首脳らが入場する際、習主席の横にいたのはインドネシアのジョコ大統領だった。プーチン氏の姿は確認できない。

開会式の入場時、習主席の横にはインドネシア・ジョコ大統領が
開会式の入場時、習主席の横にはインドネシア・ジョコ大統領が

参加した各国代表との記念撮影でもプーチン氏は習主席の横にいるが、全員を映した映像のみが報じられ、習主席の横にいるプーチン氏も小さく映っているのみだ。首脳会談では蜜月ぶりを強調しつつ、国際会議の場ではウクライナ侵攻で批判を受けるプーチン氏を画面に出さないようにする意図が想像される。

出席者の記念写真は全員が映るショットのみ
出席者の記念写真は全員が映るショットのみ

習主席が演説を終え、真っ先に握手に向かった相手もプーチン氏ではなくジョコ氏だった。プーチン氏も習主席に続いて演説をしたが、ニュースでの扱いは他の列席者と同じで、あくまで「参加者のひとり」である。

習氏の演説後、最初に握手をしたのもジョコ大統領
習氏の演説後、最初に握手をしたのもジョコ大統領

途上国との関係を着々と広げる中国

もうひとつの注目すべき点が中国が行ったバイ会談(1対1の会談)である。

習主席は会議が行われた17日、18日のみならず、会議が終了した19日、20日まで、発表されているだけでのべ26の国や国際組織の首脳や幹部らと会談した。南米や中央アジア、中東、アフリカを中心に、その関係を確実に強化、拡大させている。

中・アルゼンチン首脳会談
中・アルゼンチン首脳会談

習主席だけでなく、王毅政治局委員兼外相、韓正副主席ら多くの幹部も、訪問した代表らと会談する場を設けている。政府や党のあらゆる人材が取り組むその外交は、中身や成果はともかく、数は圧倒的だと言っていいだろう。

アルゼンチンやチリなど、いわば地球の裏側からも来る首脳がいることに「日本とは全く違う価値観で中国は求心力を高めている」(外交筋)という評価も聞かれた。中国経済が停滞する中、融資する資金が続くかどうかや、援助を受けた国が借金を返せなくなる「債務のワナ」などが指摘されるが、中国が出す金に期待し、感謝する国がいまだ多くあることも事実だ。

習主席が満面の笑みを浮かべている (アルゼンチン駐中国大使館SNSより)
習主席が満面の笑みを浮かべている (アルゼンチン駐中国大使館SNSより)

日本はアメリカをはじめとするG7(主要7カ国)の動きに注目しがちだが「世界の中でたった7カ国でしかない」(別の外交筋)という言葉が表すように、中国外交の積極性は「脅威だと言ってもいい」(同)。

経済の先行き不安や、強まる国内の統制など、問題ばかりが強調されがちな中国だが、外交も含めた政策が成功なのか失敗なのかは見る角度によって変わる。この一帯一路の会議も、「具体的な成果は何か」ではなく「中国の優位をアピールする機会」「中国が味方を増やすための場」という位置づけで見ればその評価も変わってくるのではないか。メディアが事実上国の宣伝機関でもあるため、その徹底ぶりは見ている側にも簡単に伝わる。

中国にとって今の日本は「(中国が)アメリカとうまくやれれば勝手に付いてくる相手」(外交筋)というくらい優先順位は低いようだ。その現状をしっかり把握することはもちろん、先を見据えた戦略を練り、したたかな中国と向き合う日本の外交力を期待したい。
(FNN北京支局長 山崎文博)