高級キノコ「ポルチーニ」、独特の香りがしてイタリア料理で重宝されているが、実は日本の山でも同じ種類のキノコが採れるという。それを生かし、人工栽培・大量生産の研究も進んでいる。まだどこも確立できていない「ポルチーニ生産」に取り組む研究者を取材した。
世界三大キノコの一つ
焼きたてのピザ。チーズとは異なる独特の香りが漂ってきた。それもそのはず、実はソースにも、具材にも「ポルチーニ」を使っている「新作ピザ」だ。
イタリア料理店「シロッコ」の林俊帆店長は、「一番は香り、うま味、その辺の部分が味わってもらえたらいいかな」と話す。
イタリアンで重宝され独特の風味が人気のポルチーニ。
トリュフ、マツタケと並び「世界三大キノコ」の一つに数えれられ、日本人にも好まれている。
この記事の画像(12枚)「ポルチーニ」探しに山へ
10月4日―。
長野市内の山でキノコ採りをする大内謙二さん(57)。
この時期は週に一度は山に入っている。
探していたのはなんと、ポルチーニ。
実は日本でも「ヤマドリタケ」や「ヤマドリタケモドキ」といった海外産の近縁種が自生している。
いわば、国産ポルチーニだ。
長野市近郊の山で採れるのはヤマドリタケモドキ。夏から秋にかけてナラの木の近くに生えるそうだ。
しかし、今シーズンはなかなか見つからない。やはり夏の暑さと雨の少なさが影響しているという。
大内さんは、山を見つめながら「今年は厳しいな」と、つぶやいた。
ポルチーニ研究25年
ポルチーニを追い求めて25年になるという大内さん。これには大内さんの「仕事」が関係している。
長野市に本社を置く「ホクト」。ここが大内さんの勤務先。
「ホクト」は全国34カ所の工場でエリンギやブナシメジなどを生産している。
年間約9億パックを販売し、売上高700億円以上という屈指のメーカーだ。
大内さんは「きのこ総合研究所」の開発研究部長。
研究所はこれまでに純白のエノキダケや苦みの少ないブナシメジを開発。栽培の難しかったエリンギの大量生産を可能にするなどホクトの生産・販売を支えてきた。
大内さんはそうした研究の中でポルチーニの人工栽培にも取り組んできた。
野生のポルチーニを採取して、菌を培養するという地道な作業が25年続いている。
試行錯誤の日々
大内さんは、「キノコ自体は菌糸でできているので組織を採って寒天に植えると菌糸が生えてくる。最初は培養してみたら、簡単に芽が出たので、栽培が簡単にできるんじゃないかなと思ったが、なかなか大きなキノコになるには、培地の改良とか必要で、菌の扱いとか、うまくいかなくて」と、多くの苦労を重ねてきたと話す。
そして、試行錯誤の結果、8年前に成功し、研究は大きく前進した。
試験的に栽培されたポルチーニを見せてくれた。
大内さんは、「やっと硬くなってきて、良いキノコに。まだサイズが小さいです。最初の頃は色もこんなに黒くならなくてちょっと違う感じだったんですけど、菅孔の部分がいいですよね、もうこの辺がたまんないですよね」と、うれしそうに話す。
味も自然のものに近く
大内さんはよく栽培されたポルチーニを試食しているそうで、徐々に自然の物に味が近くなってきているという。
「生の状態で炒めて食べてもおいしいし、乾燥してパウダーにすると味がすごく出るので、キノコの中では圧倒的に一番おいしい」と、大内さんは言う。
国産ポルチーニに期待
現在、国内に入ってきているのは冷凍ポルチーニか乾燥ポルチーニ。冒頭で紹介した長野市のイタリア料理店「シロッコ」は、両方を使って新作ピザを作っている。
輸入ポルチーニでも十分、おいしいが、店は人工栽培の国産ポルチーニにも期待している。
シロッコの林店長は、「ぜひ使ってみたい。地元で作ってフレッシュな状態で入るポルチー二、楽しみというか、興味しかない」と話す。
「世界征服できれば」
大内さんは、「ポルチー二は見ても見つけた時もゾクゾクするし、キノコが大きく育ってくるとうれしいですよね」と、少年のような表情で話す。
25年にわたる研究で栽培までこぎつけた大内さん。
残る課題は生産コスト。それがクリアできれば人工栽培のポルチーニが販売され、家庭で味わうこともできるという。
大内さんは、「最終的には販売して、世の中に広めていければと思っている。今は栽培できたというレベルなので、これからは、そのハードルに向かって、やっていく。世界中の人が好きなキノコなので、世界征服できればと思っている」と力強く語った。
(長野放送)