2022年11月、宮城県涌谷町の住宅で自営業の男性を包丁で切りつけ死亡させた罪に問われている男の裁判員裁判が、仙台地裁で始まった。周囲の人が「人当たりが良かった」と語る被害者は、なぜ亡くならなければならなかったのか。法廷で被告の男の口から語られたのは、「借金があり生活を立て直そうと強盗を企てた」という身勝手な動機だった。

か細い声で容疑を一部否認
強盗致死の罪に問われているのは、住居不定無職の松川雄太郎被告(27)。

起訴状によると松川被告は、2022年11月19日の午後7時45分ごろ、宮城県涌谷町の自営業の三川栄治朗さん(当時64)を、現金を奪う目的で包丁で切りつけるなどして、死なせた罪に問われている。三川さんの死因は出血性ショックだった。

11日、仙台地裁で開かれた初公判。
送検時とは一転、丸刈り頭で、紺色のジャージ姿で入廷した松川被告。
体の前で手を組み検察官の起訴状朗読をじっと聞いていたが、仙台地裁の宮田祥次裁判長から何か言っておくことがあるかと尋ねられると、「三川さんの前に立ちはだかったことや、右手に持った包丁の刃先を向けた点については、やっていない。」と、か細い声で起訴内容の一部を否認した。

強盗致死罪が適用されれば、量刑は死刑か無期懲役となる可能性が高い。弁護側も、「強盗と被害者の死亡が密接には関係しておらず、強盗未遂罪と重過失致死罪を適用するべき」と主張した。
口座に1500円…金に困っていた
続く検察側の冒頭陳述では、松川被告と亡くなった三川さんの関係性が明らかになった。
2人は清掃業を通じて知り合い、松川被告は三川さんから仕事をもらうことがあったという。

「三川さんの金の支払いが遅く不満を持っていた」という松川被告。3つの銀行口座には合計で1500円ほどしか残っていなかったこと、消費者金融3社に対し、150万円の借金があったこと、元婚約者との民事裁判で80万円の慰謝料の支払いを命じられていることも、証拠調べで明らかになった。
検察は、強盗をして現金とキャッシュカードを奪い生活を立て直そうと1カ月ほど前から犯行を計画していたと指摘。包丁を持って三川さんと玄関で対面した時点で強盗が成立し、抵抗する被害者を刺した、計画的で危険な犯行であると強調した。

また、事件直前に包丁や目出し帽、ブルーシートなど、犯行に必要な物を周到に準備していたこと。犯行後には、仙台市内に、犯行に使った物を埋めたことなども明かされた。
「焼き鳥屋を…」約束交わした女性
12日には、証人尋問と被告人質問が行われた。証人として出廷したのは、亡くなった三川さんの交際相手の女性。6月に入籍する予定だったという。
自宅敷地内で焼き鳥屋を出すことを夢だったという三川さん。亡くなる直前まで2人で晩酌しながら将来について語り合っていたことを、女性は涙ながらに明かした。

検察官に何か言っておきたいことはあるかと尋ねられると、「死刑です。それがかなわないなら二度と刑務所から出てこないでほしい」と声を大にして訴えた。
およそ1時間半にわたって行われた証人尋問の間、被告は下を向いたままだった。

犯行に及んだ身勝手な動機
続く弁護側の被告人質問では、強盗をするに至った経緯が松川被告の口から語られた。
きっかけについて「まとまった金を手に入れるためには強盗しかないと思った」と語った松川被告。「給料の未払いやパワハラでもめたことがあった」とターゲットとして三川さんを選んだ理由についても明らかにした。

一方で、松川被告は犯行時、三川さん宅のインターホンを2回鳴らしていて、1回目は犯行を躊躇。2回目で三川さんを死亡させるに至ったとされている。この経緯について弁護士から問われると、驚きの回答が飛び出した。
Qインターホンを押したときの心境は
怖くなり、ドアの陰に隠れてしまった。怖気付いて、見つからなければいいなと思っていた。怖くなって実行できなかった。
Qでは、なぜ2回目を押したのか
何もせずに戻ると苦しい生活が待っていること、犯行を実行することで躊躇し悩んだ。ドアを引いた後どうするかまでは考えていなかったが、強盗をしようと思ったわけではない。
Q警察などの供述調書で「ドアを引いた瞬間にやるしかない」と思ったと書いてあるが?
取り調べを受けているとき、朝から晩まで椅子に縛られた状態で疲れていることもあって、その場で無理に応えなくてもよいのではと思い、そう回答した。

警察と検察の取り調べで供述していた内容を翻した松川被告。一方で、検察側の被告人質問に対しては、終始歯切れの悪い回答を繰り返し、「覚えていない」などと繰り返すことが多かった。
16日には、松川被告の母が出廷しての証人尋問、論告求刑、弁論が行われ結審し、判決は25日に言い渡される予定だ。

(仙台放送)